城跡(二)


 山頂までは一本道だ。


 山中の道は常緑の広葉樹が両側に繁茂して暗く、カーブに設置されている街灯は次第に数が減っていく。暗がりが増えていき、到着した山頂は真っ暗と言ってもおかしくないほどだった。少ない明かりが遠くに見えて、明かりを目指して行くと開けた場所へ出た。


 車は低速で空き地を進み、地面に引かれた白線が目に入って広い駐車場にいるとわかった。


「誰もいねえなあ」


 運転しながらジョウが独り言のようにこぼした。駐車場は24時間開放されていて誰でも利用可能だ。それなのにがらんとしている。


 駐車場のさらに先のほうに城跡と奥に立つ木々の影が見えていて、暗闇の多さにマミはごくりと唾をのんだ。


(昼間に城跡へ来たことがあるけど、夜だとこんなに雰囲気が変わるんだ)


 ゆっくりと動いていた車が停車してエンジンが止まった。ヘッドライトを消すと暗闇の面積がさらに広がった。駐車場のみに設置された街灯下のオレンジの明かり部分だけが目立ち、円を描く形で周囲の闇が濃くなっている。


 ジョウがドリンクホルダーに置いていたスマートフォンを取り、流していた音楽を止めると途端に静寂に包まれた。しばらくすると遠くから虫の声が聞こえだした。


「う~わ。昼とは全然違う」


 言いながらジョウは車を降りると辺りを見回し始めた。続けて助手席からロウも出てドアを閉じた。城跡は高台にあり、駐車場から遊歩道が伸びていて歩くことになる。マミは後部席から外の様子をうかがっていたが重要なことに気づいた。


(ライトを持ってきてないわ!)


 当たり前だが夜は暗く、外を歩くにはライトが必要なのに何も準備していない。マミは慌てて車から降りた。


「ジョウ、ごめん! ライト持ってくるの忘れてた!」


「んあ? あ~、問題ないよ」


 話を聞いていたロウが助手席へ戻り、グローブボックスを開いて中をあさり始めた。


「汚い。整頓しろよ。ゴミも入ってるんじゃないのか?」


「細かいな~」


 ごちゃごちゃとしている物をかき分けて小型のLEDライトを見つけると、ロウはスイッチをオン・オフして明かりがつくかを確かめてみた。

 一連を後部席で見ていたカノコが声をかけた。


「用意がいいのね」


「夜に出かけることもあるから常備してるんだ」


「ロウくんも一緒に出かけるの?」


 言い終わってからカノコは慌てて口元を押さえた。ロウに話しかけたことに本人が驚いている。カノコの様子に気づくこともなく、ロウはライトを確認しながら淡々と答える。


「ジョウは家まで来るから仕方なく付き合ってる」


(なんかあの二人、うまくいきそうじゃない!?

 でもカノコの性格からいきなり二人きりにするのはハードルが高いかな?)


 カノコとロウの様子を見ていたマミの顔は緩んでいて、勇気を出して行動している親友を想い、次のステップへ進む手立てはないかと考えをめぐらせる。


「ロウ、自分のライトも持ってんだろ」


「ある」


 ズボンのポケットからLEDライトを取り出すと、明かりがつくかどうかをチェックし始めた。ライトが2本あると知ったマミの目が輝く。


(二組に分かれることができるわ! カノコとロウくんをさりげなくペアにする方法はないかしら?)


 思案している間にカノコも車から降りてきた。全員車から降りたところでジョウがうながした。


「んじゃ~、行こうぜ」


「待て。虫よけスプレーしてからだ」


「「えっ?」」


 ロウから出た意外な言葉にマミとカノコがぽかんとなっていると、ジョウが笑いながら説明してくれた。


「ロウは準備がいいんだよ。出かけるときはいつもライトと虫よけスプレーを持ってる」


「へえ~。ロウくんは面倒見がいいけど、『お兄さん』なの?」


「……いや」


「ロウには手のかかる人がいるんだよ」


 からかうように言ってロウから虫よけスプレーを奪うと、ジョウはロウを茶化しながら自分とロウにスプレーしていく。マミが笑いながら見ていると、二人を見ているカノコの表情が曇っていることに気づいた。


(忘れていたわ! ロウくんは女子から人気がある。もしかしたら彼女がいるのかもしれないわ。カノコのためにロウくんの情報を引き出したかったけど、個人的なことはあまり質問しないようにしよう)


 不安そうにロウを見ているカノコの気分を変えようと話題を切り替えた。


「ロウくん、虫よけスプレー借りてもいい?」


「ん」


 マミは受け取ると手足にスプレーしていく。終わるとカノコへ渡した。カノコがスプレーし終えるとロウへと返した。そのとき手に触れてカノコの顔がピンク色になったのをマミは見逃さなかった。


(くうぅぅ~! 嬉しそうだわ!

 絶対にカノコとロウくんがペアになるようにしよう!)


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