山頂の名城
城跡(一)
四人を乗せた車は夜の道を走っている。
最初のうちは大型の商業施設やスーパー、コンビニなどがあるにぎやかな道を通っていた。目的地のパワースポットへ近づくにつれて商業施設は減っていき、代わりに民家が増えていった。
住宅地をしばらく走ると今度は暗がりが大部分を占めるようになり、畑や雑木林が広がっているエリアに入った。
向かっているパワースポットは山頂にあり、ここから先は山道になる。すでに民家はなくなっており、街灯の明かりだけが闇の中で光っている。
「マミ、このまま城跡へ行けばいいんだよな」
「うん」
目指している最初のパワースポットの城跡はかなり大きな史跡だ。石積みの城壁や遺構が残っており、島の人たちだけでなく観光客にも知られている。四人ももちろん知っていて訪れたことがある場所だ。
「城跡はかなり前に何度か行ったことがあるけど自分で運転するのは初めてだ。
ロウ、曲がるところがあったら、ちょっと前から教えてくれ」
「わかってる」
(ジョウは免許を取ったばかりなのに運転がうまいわ。ハンドル操作もスムーズだし、発進も停止も衝撃が少ない。運転に慣れているみたい)
ヘッドライトの明かりが頼りの運転なのに迷いはなく、乗り心地がよくて安心できる。ジョウの運転技術には感心するけどマミは複雑な気分だ。
(高校3年になると車の免許を取れる年齢になる。免許を持ってる子が増えてきて、なんだか取り残されていくような感じがするわ)
流されるように生活しているマミには、車をコントロールして状況判断しながら運転するジョウが少しだけ大人に見える。自分で物事を判断できる大人にならなければと思うけど、今のままでいたいという気持ちが強くわいて胸の中にざわつきを感じた。
「ジョウくんは車の運転うまいね」
カノコの声で現実に戻されたマミは反射的に笑顔をつくり、明るく振る舞う。
「意外だよね。もっと下手だと思っていた」
カノコはジョウのことを褒めているのに、自分が褒められたみたいでくすぐったい。にまにまとしていたら運転席から声がした。
「え~? なんか言ったか~?」
「女子だけの話ですぅ」
車内に流れる音楽のおかげで、後部席でのカノコとの会話が秘密めいてることにわくわくしている。
ドライブが楽しくて忘れかけていたが、マミはふと本来の目的を思い出した。
マミがパワースポットめぐりの間に自分に課したミッションは、カノコとロウの仲を進展させることだ。
マミとジョウは3年C組と同じクラスなので毎日会う。ところがカノコは3年B組で、ロウは3年D組と二人に接点がない。そこでカノコとロウが一緒に行動するように仕向けて接点をつくり、仲を進展させようと企んでいる。さっそく行動を開始した。
「ロウくん、ナビが上手だね」
「ジョウが運転するときはナビをさせられる」
「カノコちゃんは免許持ってんの?」
「ま、まだ。誕生日が先だから」
「わたしには聞かないの?」
「免許取ったら絶対自慢するだろ。何も言わないってことは持ってない」
「はい? 何それ! まあいいわ。わたしは来月から自動車教習所に通うから」
ロウの情報を引き出すために話題を振ったところ、ジョウが会話の中へカノコを引き込んできてくれた。ドライブが始まってすぐはカノコが会話に入ってくれるか心配だったけど、毎回ジョウがカノコに話を振ってくれている。
(カノコは自分から話をするのが苦手だから助かるわ。今のところは順調ね。あとはジョウとロウくんに気づかれないように、カノコがきちんと
城跡の近くに来ているので無事に到着するだろう。問題は城跡に着いてからで、マミは
最初に
パワースポットに着いたら、カノコとともに願い事をする場所まで行く予定だが、とくに願い事のないマミは付き合うだけだ。しかしカノコは本気で臨んでいるので気にしている。
(
向かっている城跡は訪れたことがあるのでどんなところなのかは知っている。しかし祭祀場の跡は初耳で見たことがない。ネットで写真を探したけど見つけられず、位置だけわかっている状態だ。
(一応、地図に丸印を付けたけど、ちゃんと探せるか不安だわ)
車は山中に入っており、城跡がある山頂へ順調に進んでいく。
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