夜のドライブ


「ジョウ、ちょっと」


 マミはジョウの手をつかむと強引に廊下へ連れ出した。後ろからクラスメートの野次やじが飛んでくるけど今はかまっていられない。


「なに、なにっ、なに!?」


 動揺しているジョウを無視してマミは無言のまま引っ張っていき、階段を下りていく。踊り場に着いて周りに人がいないのを確認して切り出した。


「ジョウ、お願い! ドライブに連れてって!」


「いきなり何!?」


「車の免許取ったんでしょ。ドライブに連れて行ってよ、お願い!!」


 はじめはマミの冗談だろうとジョウは思っていたらしい。でもマミが手を合わせて何度も頼み込んでくるので、親の車を使うから都合がつくか確認すると言ってくれた。


 マミはその夜、何度もスマートフォンをチェックして落ち着かなかった。ジョウから連絡がくるとすぐに飛びつき、いくつかメッセージをやり取りしたあと、すごいことをやってのけたと喜び、すぐにカノコに電話した。


「カノコ、『チチヌユまじない』に行くよ!」


「えっ、そんなの無理よ。パワースポットへは車がないと行けないもの」


「実はねえ、ジョウに連れて行ってもらうことになったの!」


「『ジョウ』って、マミちゃんと同じクラスのジョウくん?」


「そう! そのジョウが免許取ったからドライブに連れて行ってとお願いしたの。そしてOKもらったわ」


「きゃ――! 本当に!?」


「うん! だから明日、予定立てようよ」


「わかった! ありがとう、マミちゃん!」


 声のトーンからカノコが喜んでいるのがわかって、ジョウに頼んで本当によかったと満足した。通話を切ったあとも嬉しさの余韻が残ってうきうきしている。ベッドに入ってもなかなか眠れず、早く明日にならないかなと思いながら眠りについた。




 翌日。

 マミはカノコと学校帰りにカフェに寄った。ドライブの計画を練るためだけど、すでにパワースポットの場所や願い事をする位置まで調べあげているので再確認をするだけだ。


「全部のパワースポットを調べておいてよかったわ」


「本当だね。でもカノコ、願い事をする場所は言ったらダメだからね。ジョウにはまじないをしに行くとは言ってなくて、パワースポットめぐりをすることになってるから」


「パワースポットに着いたら、わたしとマミちゃんだけで願い事をする場所まで行くんでしょ」


「そのとおり!」


 当日の確認が済むと、カノコはコンビニのマルチコピー機を使ってプリントアウトした地図をていねいにカバンにしまい始めた。会ったときからずっと笑顔がこぼれているカノコをもっと喜ばせようと、マミはまだ話していないことを発表した。


「カノコ、じ・つ・は・ね、ドライブにはロウくんも来るんだよ!」


「え……?」


「ロ・ウ・くんもドライブに来るよ」


「えぇっ!? どうして!?」


「ジョウはロウくんと仲がよくてね、それでロウくんも誘ってとお願いしたの」


「うそっ、うそー! 本当にロウくんも来てくれるの!?」


「ゆうべジョウから連絡があって、ロウくんの都合もついたって! だから絶対来るよ!」


「きゃ―――!」


 カノコの頬はピンクになっていて珍しく大きな声をあげている。親友の喜びようが想像以上でサプライズが成功したと満足していると、カノコは手を取って「ありがとう」と何度も言ってきた。


(カノコがこんなに喜んでくれるなんて。ジョウにロウくんのこと、お願いしておいてよかった。ドライブをきっかけに、カノコがロウくんと仲良くなれるといいなあ)


 親友の恋の行方が気になり、マミも約束の日が楽しみになっていた。




 パワースポットめぐりの当日、マミは親に友達の家でお泊り会をするからと嘘をついて家を出た。待ち合わせの時間まで図書館で勉強して、集合場所のコンビニでカノコと合流した。


 想像していたとおり、カノコは落ち着きがない。たわいない話をしてなるべく緊張をほぐしていると、白のセダンが駐車場に入ってきて駐車スペースに停車した。エンジンがついたまま運転席の窓が開いた。


「うーっす」


 時間より5分遅れたけど約束どおりジョウは来た。これまで学校でしか会ったことがなく、制服姿しか見ていない。初めて私服のジョウを見たマミはどきっとして返事が遅れた。


「よっ、ジョウ」


「カノコちゃん、こんばんは~」


 ジョウは車に乗ったまま手を振って挨拶する。マミに隠れるように立っているカノコは慌てて返事した。


「こ、こんばんは。今日はよろしくお願いします」


「そんなにかしこまらなくていいよ~。俺ら、タメ年じゃん?」


「あんたが怖いのよ」


「えぇ~?」


「そっ、そんなことないよ」


 ジョウとマミの会話に遠慮はない。カノコがはらはらしながらフォローを入れていると、ジョウは両手で頭を抱えて助手席を向いた。


「ロウ~、俺って怖いか?」


「顔がな……」


「マジかよ!」


「それより蚊に刺されるから車に乗って」


「おまえの車じゃねえだろ」


「はーい、お邪魔しまぁす」


「マミ、もうちょっと遠慮しろよ」


 カノコが助手席側へ回るように仕向けるため、マミは運転席側の後部席に行くと率先して車に乗り込む。カノコは慌てて反対側へ行くと車に乗り込んだ。


 こうして夜のドライブが始まっている。


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