青春

女子高生の間で流れるウワサ

変わった呪《まじな》い


 夜の国道を走る車がある。


 車には男子二人、女子二人の合計四人が乗車している。車内ではドリンクホルダーに置かれたスマートフォンから音楽が流れており、話し声がしている。


「この道で合ってんの?」


 運転席から軽い口調で質問すると、少し間をおいて助手席から返事がきた。


「大丈夫。もう少ししたら県道に入るから」


「あの地図、あんま役に立たないよな」


 運転しているジョウが小さな声で言ったけど、後部席にいたマミにはしっかり聞こえていた。シートの間から顔を出してジョウを見た。


「わかりにくい地図で悪かったわね!」


「なんで詳細地図なんだよ」


「目的地がわかりやすいでしょ」


 助手席でナビを務めるロウが手に持っている地図は「30m」の目盛りがあり、詳細すぎて全体がわからない。かろうじて地名や公共施設名、番地が載っているのでぎりぎり地図と呼べるけど、今のところロウのスマートフォンの地図アプリを使っている。


 マミの隣ではわたわたと手を動かしているカノコがいて、「わたしがマミちゃんにお願いしたから」と会話に加わるけど車内に流れる音楽で消えそうだ。


「えっ? カノコちゃんの案!? いや~、使いやすいよ、この地図!」


「ジョウ、態度変えすぎ!」


 ジョウが慌てて訂正したところをマミが素早く突っ込んだ。車内ではこんなやり取りが続いてて明るい雰囲気のままドライブしている。


 ひとしきりして後部席で女子トークが始まった。


「マミちゃん、ロウくんあきれていないかな?」


「大丈夫、大丈夫。それよりもっとロウくんに話しかけなよ」


「な、なんて話しかけたらいいのかわからないよ~」


 背を丸めてうつむきながら話すカノコを見ながら、マミはなんとしても今日のドライブを成功させようと使命を燃やしている。




 マミとカノコは親友だが対照的だ。


 マミは運動が得意ですらっとしており、ショートヘアの快活な女子だ。物おじしないし、区別なく接するので女子だけでなく男子の友人もいる。


 対してカノコは舞踊を習っているため所作がゆったりとしており、小柄でロングヘアを後ろにまとめている。あがり症で人と接することが苦手なため一人でいることが多い。


 正反対な二人だけど仲がよく、高校2年までは休日に一緒に出かけたり互いの家へ泊まりに行くこともあった。ところが3年になって別クラスとなり、マミはクラスメートとの付き合いが増えて一時期カノコと疎遠になっていた。


 カノコのことが気になっていたところ、カノコから家に泊まりに来てほしいと誘いがきて、これが夜のドライブの発端になった。



(まさかカノコがロウくんに恋するなんて)


 カノコの家に泊まったとき、「実は……」と言って彼女が打ち明けてきたのは恋だった。これまで恋の相談はなく、カノコの初恋なのかもしれない。マミは親友を応援すると決意したけど壁にぶち当たった。


(ロウくんは同じクラスになったことがないから話したことがない。女子の間では大人びててカッコイイと人気があるんだよね。カノコが積極的に行動するとは思えないし……。どうすればいいかな)


 何か方法はないかと悩んでいたところ、学校できっかけを見つけた。


 いつの頃からか女子の間で『チチヌユまじない』という必ず願い事がかなうおまじないがうわさになっていた。マミは興味がなかったけどカノコは関心をもっていて、まじないに期待しているように見えた。そこでカノコが積極的になれるいい機会と捉えて一緒に情報を集めていった。


 まじないは一部の女子だけしか知らなかったので情報を集めるのに苦労した。友人、友人の友人、友人の知り合いなど多くの人を通じて根気強く調べた結果、まじないの内容を知ることができた。


 まじないはパワースポットを4か所めぐって、それぞれの場所で願い事を唱えるだけというもの。単純だけど難関があった。


 パワースポットはマミたちが住んでいる市から遠いところにあるうえに、それぞれ離れていて移動距離が長い。またまじないは一度で終わらせなければならず、しかも月が出ている夜でないと効力はないという。マミもカノコも車の免許を持っていないので移動手段がなく、まじないの実行は難しい。


まじないの方法を知ったとき、カノコはがっかりしていたわ。せっかくやる気を出していたから悔しいな)


 マミ自身はまじないを実行する気はなく、カノコの自信につながってほしいと考えて付き合うつもりでいた。それなのに実行できないとなると、想うだけでカノコの恋が終わってしまいそうで心配だ。

 ほかにいい方法はないかと探していたところ、思わぬ方面からチャンスがきた。



「どうよ。ついに免許取ったぜ!」


 学校に登校するとジョウが車の免許を取ったと自慢し、免許証をクラスメートに見せびらかしている。島では移動に車は欠かせないので、18歳で車の免許を取るのは珍しいことではないが、マミにとっては朗報だった。


(ジョウに連れて行ってもらおう!)


 思いついたらマミの行動は早かった。


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