風が降り立つ
「あれ? いいの?」
とある店の店長は霊感があって幽霊が視える。
店長は霊感があることを公言していないけど、ホラー好きたちの間で知られていて、店長の話が聞きたくて訪れる客もいる。お店は飲食だけでなく、怪談を聞いたり話したりする交流の場として楽しめるのでホラー好きには嬉しい場所だ。
ここで働けば毎日好きな怪談を聞くことができると胸が躍り、アルバイトを募集していなかったのに、店長に頼み込んでなかば強引に雇ってもらった。
そんなホラー好きの犬巻にジョウは怪談を話していた。話し終えて、これで犬巻から解放されると思っていたが、詳細を知りたいと食い下がってきた。
ジョウはなんとか犬巻を振り切って、ロウとジュンのところへ来た。
「行こうぜ」
「もういいのか?」
ジョウの声でロウは回想から現実に引き戻された。
店内を見回すと、アルバイトたちはそれぞれの持ち場についている。十分に人手は足りているので
「早く行こうぜ。また捕まっちまう」
ジョウはこれから休憩を取るところで、ロウと店で待ち合わせをしていた。犬巻から逃げきれたので一緒に出かけようとしている。
二人が店を出ようとするのを見て、ジュンが声をかけた。
「あれ? 出かけるの? 待たなくていいの?」
「「待つって誰を?」」
ジョウとロウの声が重なった。二人とも心当たりがないようなので、ジュンが不思議そうな顔をして話した。
「本屋の前でレイさんを見かけたから一緒に出かけるの…かな……と」
すぐにロウが反応してジュンに質問してきた。
「本屋って、どこの?」
「
「ジョウ……。悪いけど、急用ができた」
「はいよ~」
ロウは急いで店から出て行った。
話している途中からジュンはロウの表情に
「ジョウ
ジュンが兄のジョウジを見ると、ややあきれた顔をしつつも口元が笑っていて、ロウが出て行ったドアを楽しそうに見ている。
「島に帰ってきてるのに、ま~たロウに連絡してなかったんだ。
そりゃ~怒るわ」
「俺、よけいなこと言っちゃったかな?」
「おまえは悪くない」
「でも……」
「大丈夫。ロウの背中、なぁんか嬉しそうだったからな」
ロウとの食事がキャンセルになったので、ジョウは外食を取りやめて近くのコンビニへ向かい始めた。
ドタキャンになったというのにジョウは楽しげで、微雨の中を傘も差さずに歩きながら犬巻に話していた怪談を思い返していた。
(なんとなくだけど
ロウが事故って入院したとき、病室前の廊下でレイちゃんに会った。そのすぐあと、ロウはレイちゃんと出かけている。
連絡なしのまま翌日になって俺の見舞いに来たときに、ロウは連絡しなかったことを謝って「もう変なことは起きないと思う」と言った。何したんだと聞いたら「別に」と答えた。
ロウのこと知ってるから真意がわかるけど、「別に」は「何かあったけど話せないコト」なんだよな。
あのときは聞かなかったけど、今聞いたら教えてくれるかな?)
ポーカーフェースのロウに感情が表れるのは
店から出て行ったロウは駐車場に止めていた車に乗り込み、すぐにエンジンをかけた。
「帰ってくるときは連絡しろって、いつも言ってるのに」
イラついてつい愚痴がこぼれた。
シートにもたれて目を閉じたら深呼吸を一つして気持ちを落ち着かせる。それからポケットに手を入れ、中の物を取り出した。
手には鮮やかな朱色の御守りがある。毎日持ち歩いている御守りは、車のキーとは別のポケットに入れていても月日の経過でくたびれている。
(姉貴は帰ってくると必ず御守りを渡しに来る。
「交通安全」から「御守り」へと変わったけど、また新品の御守りと替えてくれるんだろうな)
ふと顔がほころんでいるのに気づいて意識して表情を消した。
島に居ることは嬉しい。
でもまた連絡なしだったことに、ふつふつと怒りがわいてくる。
しばらくすると、ヴォンッと大きな音が辺りに響いて車が疾走していった。
―――『「その青春ホラーには続きがあってだな」』 了 ―――
「その青春ホラーには続きがあってだな」 神無月そぞろ @coinxcastle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます