『芝さんに告白できなかったら、即死亡!』②

「え! 芝さん……ってあの芝さん!」

 ミライは目を見開いて査定人を見た。心あたりはある。ミライの通っている大学には、他の学生からF4と呼ばれている女子グループがある。F4と花の4人組(Flower four)という意味だ。


 ミライは芝さんのことが好きだ。だが、話したこともなく、遠い存在ではあるが、一方的に思いをはせている。


「知っとるみたいやな! 話はやいわ。大学いこか!」

「っちょ……ちょっと待って! なんで僕が芝さんに告白しないといけないんだ!」

「そんな知らんわ! 聞かんといて! 俺も仕事でしとんねん。まあ確実なのが、この命題をクリアせんかったら、今日の17時28分お前さんは死亡する」


「へ……死亡する?」

「そ! 死んでまうねん! そういう運命っちゅうやつやな!」

「なんで……?」

「まあ、いきなり信じろっちゅうのも無理あるか! ちょっと外いこか!」


 査定人につれられるがまま、ミライは外にでた。勢いよく外にでたミライを査定人が強く腕を引っ張った。


「痛いよ!」

 ミライはイラっとして査定人を見ると、査定人は交差点の信号機を指差した。信号機には青色が点灯している。ミライは不思議そうに信号機から査定人に視線を戻した時だった。


「危ない!」近くにいた女の人が悲鳴を上げた。

 ミライはその声に反応し、体をビクッとさせた。次の瞬間、目の前にすごい勢いで白い軽トラックが通り過ぎた。


「ほんまは、今、死ぬ予定やったんや! それが俺のおかげで明日にずれたな!」

 査定人はミライの肩をポンと叩き、青信号のままの交差点を進みだした。ミライの体は固まったまま、動くことができなかった。


「先に大学いっとるわ」とだけ言葉を残した。


 赤に変わった信号機を見て、ミライは大きくため息をつき頭をかいた。



「命題って……。芝さんからしたら、僕なんて眼中にもないじゃないか……やべ! もう2限目の授業が始まる時間!」


 ミライは我に返り、急いで部屋に戻り身支度みじたくを始めた。査定人のことを100%信じたわけではない。私服にこだわりはなく、グレーのパーカーとクリーム色のチノパンを着て急いで家を出た。普段から髪のセットもしない。寝ぐせを直さないまま大学に向かう。


「2限目の経営学から芝さんと同じ授業だったな」

 学校までは徒歩10分で着く。ミライはその間に片思いの人に告白する言葉を必死に考える。まともに話したこともない人に告白する勇気があるなら、少なくとも大学1年の時に1回は会話を交わしていただろう。


 大学の大きな門が見えた。門の前には大学の警備員と怪しい男が待っていた。


「おう! 待ったで! 告白の準備できた?」

「な……何言ってるんだよ! 話したこともほぼないんだ。そんな簡単に決意はかたまらない……」

「せやかて、せんかったら死亡やで! なんのプライドか知らんけど。そんなことより、俺も中入って授業受けよっかな?」


  人生で一番悩んで歩いてる時に、今にもハワイへ旅行に行きそうなアロハシャツを着て、陽気に査定人が声をかけてきた。2人は授業がある教室に向かって歩いていく。

 ミライは教室に入ろうとしている査定人を必死に手で押さえた。

 

 

「ちょっと! 周りの人がこっち見てるじゃないか! 何か買ってあげるから、外でおとなしくしておいてよ!」

「何を……。ほんまか……。しゃあない! お前さんがそこまで言うならアイス買ってくれ! おとなしするわ!」


 査定人は嬉しそうに教室に潜入することを諦めた。




 

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