転生できなければ『即死亡』!

黄緑

『芝さんに告白できなかったら、即死亡』』


「はじめまして! 私はこういう者です」


 見知らぬ男は、丁寧に名刺を差し出した。その名刺には、見慣れない文字が書かれていた。


『査定人』


「査定人? なんだよ。それ」

「綺麗なお部屋ですな。とりあえず部屋に入れさせてもらいます」

「ちょっとあんた!」

 

 開けてしまったドアをゆっくり閉めようとすると、その男はドアに足を入れてきた。

 男は躊躇ちゅうちょすることなく、ドアを開けて土足で家の中に入ってきた。

 驚いて、そいつの首根っこを掴み外に追い出そうとしたが、それでも勢いは止まらず、部屋の中に入っていく。途中で床に落ちていた大学の教材を足で蹴っ飛ばした。


「あんた、なんなんだよ!」

「ん。名刺に書いてあったやろ! それよりもお茶だしてや」

 

 さっきの丁寧な態度とは打って変わって、唐突に関西弁でまくし立ててくる。理不尽な要求に答える気持ちにはならない。


「査定人ってなんだよ? 警察呼ぶぞ!」

「なんやねん! せっかく家まで来てやってるのに。普通は手紙でお知らせだけやで」


 明らかに逆ギレをされてミライは驚いた。

 ミライは自分のズボンのポケットを探すが携帯電話が見当たらなく、部屋をキョロキョロ探し出し始めた。見当たらない。ふとミライが我に返り、部屋にある3人掛けのソファを見ると、ミライの携帯を持った先ほどの男が座っていた。

 男はミライをあざ笑うかのように笑うと携帯をミライに返した。



「感謝してや! 本間に俺が来る意味あったんか。ようわからんわ……あんたと喋って1分で疑問を抱くわ!」

「あんた誰だよ?」


 査定人を名乗る男は喉が乾いたと再度、お茶を注文してきた。ミライは仕方がなく、冷蔵庫に入っていたペットボトルを取り出して、こいつに向けて投げた。 

 真剣に話を聞こうとして、査定人の前に座った。



「さっきの独り言聞こえとったで! ほんまにあんた人生終わってるで」

「いきなり失礼な人だな。僕は名門と言われる大学に入っている。人生はこれからだよ」


 査定人が蹴り飛ばした大学の教材をミライは拾った。


「嘘や! さっき、人生を自分で終わりにしようとしてたやん!どんな感じやったか。全部言ったるわ! ちょっと待っとれ!」

 

 査定人は笑いながら、お茶を飲みだした。ちょうど緑茶が飲みたかったのだと喜んでいた。



「また負けたよ。でも、次は勝てるはずだ」

 ミライは頭をかきながら、携帯を見ながら叫んだ。手に持っていたクッションをソファーに向かって、投げ込んだ。クッションは痛くなさそうな音をたてながら、少しだけ反発をして跳ねた。


「もう人生オワタ……」

 ミライは泣きべそを書きながら、携帯の預金残高を確認した。携帯から表示された金額は残り約1万円。違う画面を開くと借金が約500万円と表示された。


 どうせなら最後に大好きなお寿司でも食べようかと外に出ようとした瞬間、ピンポーンとチャイムが鳴った。



「ほら! 終わってたやん」

 ぐうの音もでず、ミライは返す言葉を失っていた。先程まで高らかに掲げていた大学の教材は音を立てて床に落ちた。


「……そうだったかもしれませんが、査定人って何ですか? 何を言いに来たんですか?」

「そうそう! それを言いに来たんやん! 話それてしまったわ!」

 思い出したように査定人はソファーに座りなおし、深く深呼吸をした。



『芝さんに告白できなかったら、即死亡!』



 言い切った査定人はドヤ顔でミライの顔を見た。



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