第2話 人が違う屋上
七月、季節は夏だ。
だんだんと暑くなってくるころで、半そでのワイシャツで登校してくる生徒も珍しくなかった。
だが、今日の天気は雨で少し肌寒かった。
そしてある学校の屋上には、二人の男女が佇んでいた。
その佇んでいる男女の元に二人の男女が駆け寄ってくる。その手にはビニール傘が握られていた。
「よ!また来たぜ」
「やっほー」
築がビニール傘を持っていないほうの手を挙げて挨拶をする
「暇なのか?」
祐樹はなんの躊躇いもなく築にそう言った。
「開口一番それは酷くね?まぁ、実際その通りなんだけどさ」
祐樹たちが出会ってから約二か月がたち、四人の距離感はだんだんと縮まっていた。
「ちなみに俺三年生で祐樹たちが二年生だから俺先輩だからな?敬語のけの字もねぇじゃねぇか」
と築は少しため息交じりに言うが別に何も期待はしていないようだった。
「ていうかそろそろ夏休みかぁ」
「何か予定とかあるのか?」
そう言いながら築たちが祐樹たちの隣に座る。
「ないな、ただぼーっとゲームするか漫画読むかして過ごすだけ」
「だよなぁ、やっぱり祐樹はそうだよなぁ」
「もしかして今煽られた?」
「そこで提案があるんだが」
築の言葉にみんなが築へ視線が集まる。
そしてその視線に応えたのは築ではなく阿見鳥だった。
「旅行しない?」
「「旅行?」」
「そう旅行だ」
「でもなんで?」
遥が二人の思いを代弁するように言った。
「だって俺たち高校生最後の年だし最後の夏休みだし」
築が空を向きながら言った。空からはぽつぽつと雨が降っていた。
「でもなんで俺たちなんだ?ほかの友達と行けばいいじゃないか」
「私たち転校生で、しかも三年生が始まってからの転校だから友達できなかったんだよ」
「なるほど、そこで俺たちか」
祐樹は遥を向きながら言う。遥は何か考え事をしているような仕草をしているが顔は何も考えていなさそうだった。
「別にいいんじゃない?私たちも夏休みの思いで作りたいし」
と遥が祐樹を向きながら言う。祐樹は少し考えてから
「まっ別にいっか」
と軽く答えた。
「じゃっ、そういうことで。予定は後日決めよう」
とそう言いながら阿見鳥たちは屋上から去っていった。まだ雨はぽつぽつと降っていた。
「そろそろ帰るか」
時刻は五時を回いっていた。ほかの生徒たちは部活動に勤しんでいる時間だが、俺たちは部活動には入っていないのでこうして雨の日は毎日屋上で過ごしているのだ。
「あっ、でもちょっとまって」と言い、立ち上がり屋上から去ろうとしている遥を呼び止めた。遥はこちらに向かってきて俺の隣でまた屈む。
祐樹はビニール傘を持っていないほうの手でポケットからスマホを取り出し、そして自撮りモードをオンにして、祐樹と遥のツーショットを撮った。
「いきなり何?」
「いや、なんとなくとりたくなって」
遥は訝しげな表情を浮かべているが、祐樹は気にせず立ち上がった。
そしてそれに続くように遥も祐樹に着いていった。
基本的に祐樹は体育でもなんでも三人で集まって~とか言われても最後まで残り、最後体育の先生と組んで先生が気を使っていつも何してるって聞いて祐樹がゲームするか漫画読むかぼーっとしてますって答えてその後は沈黙が続いて地獄みたいな空気で体育をするというのが日常茶飯事だった。
だがこの日はクラスの一人が休んだことによって、三人がグループ作るにしても祐樹一人が余らずにすんでいた。
そして二人だったグループに入ったが、結局先生と組んだ時と変わらないような地獄みたいな空気だった。そもそも祐樹はクラスの人たちとのかかわりが極端に薄いのでクラスの人と話したことがほとんどないのだ。そんな祐樹に気を使ってか、一緒のグループになった一人が気を使って雑談をしてくる。ちなみに今は体操をしている。床に座って柔軟だ。
「祐樹君って放課後とか何してるの?」
そう聞いてきたのは、祐樹の右にいる少しぽっちゃりの髪型が坊主の三ツ谷君だ。祐樹に話しかける人は噂のせいでなかなかいないので珍しい。
俺は先生の時と同じような返事を返す。
「ゲームしたり漫画読んだり、あとなんかぼーっと屋上に居たり」
「屋上って行けるんだな。行ったことねぇや」
そう言ったのは祐樹の左で相当体が柔らかいのか足を百八十度に開き腹を体育館の床にくっつけている秋宮君だ。
「行けるよ。いつも鍵空いてるし」
「でも、俺他の学校ではなんか自殺防止とかで屋上のドアは普通カギが締まっているとか聞いたことあるな」
「緩いんでしょ。うちの学校」
祐樹はせっかく話しかけてくれた人に嫌われないために差し障りのない言葉で返事をする。
「今度俺も行ってみようかなぁ」
秋宮君は独り言を呟いた。これで会話が終わったと思いきや開脚に苦戦している三ツ谷君が新しい話題を持ってくる。
「そういえば祐樹君と遥さんが付き合ってるって本当なの?」
「いやぁ、なんで?」
「たまに見かけるんだけど放課後とかいつも一緒にいるの見かけると思って」
三ツ谷君の目は興味津々だ。明宮君の目も少し興味があるように見える。
祐樹はこういう恋愛話が苦手だ。別に恥ずかしいとかではなく周りの目とか雰囲気が変わると一気に話しにくくなるからだ。
「まぁ、一応」
祐樹は百二十度で限界を迎えている足を無理やり開きながら顔を掻いて答えた。
「へぇ、そうなんだ。遥さん可愛いしね」
三ツ谷君はやはり全然開いていない開脚をしながら意外そうな声でそう言った。
「いつから付き合ってるんだ?」
左隣の秋宮君は三ツ谷君と対照的に余裕そうに足を開きながら前屈をしている。どうしてそこまで体を柔らかくできるんだろうかと祐樹思いながらじっと見る。
「まぁ一年生の最初らへんかな」
「へぇそうなんだ」と秋宮君がそう言うと、会話が終わり、そして二分程すると体育の先生の声が聞こえた体操は終わり、バスケが始まった。
そのバスケも祐樹はたいして目立った活躍もなく、ただ時間が過ぎていき終わった。
帰りのHR中、窓側の席の祐樹は外を見つめていた。外は雨が結構降っていた。
祐樹がHRが終わるとそのまま下駄箱に行くわけでもなく、屋上への階段を登った。
祐樹と遥はほとんど雨の日にしか屋上に来ないので屋上のドア付近にビニール傘を二本用意してある。そして祐樹はその二本のうちの一本を取ると、屋上のドアを開けた。
そして祐樹が屋上で町の光景を眺めていると屋上のドアが開いた。遥が来たのかと思い、振り返ってみるとそこには相合傘をした男子二人組がいた。三ツ谷君と秋宮君である。二人は祐樹を見つけると歩み寄っていく。
「雨の日も屋上にいるんだね」
「いや、雨の日しか屋上に来ない」
三ツ谷君の言葉を訂正する言葉を返す。
「なんで!?」
三ツ谷君は驚いた目で祐樹を見ている。そりゃそうだろう、雨という悪天候の日にしか屋上に出ないなんて言う人はなかなかいない。そもそも屋上に行く人がなかなかいない。
「いやでもなんで雨の日だけ...」
「いやぁ、なんか雨の日の町ってきれいじゃない?」
祐樹は少し錆びている鉄の柵にビニール傘を持っていないほうの手を置いて雨の降っている町中を見る。そこには雨が降っていて視界が悪くなっていようが雨のおかげで幻想的な世界になっていると祐樹には思えた。
祐樹に続いて二人も雨の降っている町中を見下ろす。
「でも俺にはわかんねぇなぁ、晴れの日も雨の日も大して変わらんだろ」
と秋宮君が言った。でもその秋宮君の言葉に反発するようにして
「でも僕は雨の日の街のほうが好きかもしれない」
と三ツ谷君が町中をずっと見降ろしながら言った。
「まっ、人の感性なんて人それぞれだしな」
秋宮君はそう言って、三ツ谷君と一緒にビニール傘を持って屋上の出口へと向かう。秋宮君が傘を持って行ったことによって雨に野ざらしになってしまった三ツ谷君も秋宮君に続いて急いで屋上へと向かっていった。
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