第27話 真夏のプール
「おまたせ翔斗」
翔斗は今上半身に服を着ておらず、下半身に一枚の布を履いているだけで、そこに翔斗と同じ様に肌面積の少ない花柄の水色と白のビキニを着た花鈴が現れた。
だがそれは二人が異常者なのではなく、この場ではそれが正装なのだ。
「じゃあ早速泳ぎに行くか」
「うん」
なにせ、翔斗と花鈴はプールに来ているのだから。
「どこに泳ぎに行く?」
二人が来ているのは大型のプールなので、様々な種類の泳ぐ場所がありどこにするのか迷うものだ。
「そうだね……」
花鈴も少し迷ったようだが、すぐに決めて翔斗の手を握って引っ張り出した。
「流れるプールに行こうか」
「わかった。ところで、どこが流れるプールなのか分かってるのか?」
迷うことはないだろうが、翔斗が念の為聞いてみると花鈴は先程までの勢いは失せて、目線を泳がせた。
「えっと……もちろん分かってるよ。うん、大丈夫」
花鈴の様子を見れば大丈夫ではないことは一目瞭然だった。
「はぁ、まぁいいか。ほらこっちだよ」
まさか本当に場所を分かっていなかったとは思わなかった翔斗は半ば呆れながらも、口元に笑みを浮かべながら今度は翔斗が花鈴を引っ張り始めた。
「ありがとう」
「はぐれないようにしっかり手を握ってろよ。あと水着似合ってる」
最初に見せてもらった時に言っていなかったので、恥ずかしさを抑えて言ったのだがそれでも照れるものだった。
「ありがとう翔斗」
だが花鈴が満面の笑顔になったので、照れる思いをした甲斐はあったようだ。
「浮き輪か何か使うか?」
流れるプールにいる人の中には、浮き輪とともに流されている人たちがいたので、花鈴も興味を持つのではないかと翔斗は考えた。
「うん」
花鈴が選んだものは……。
「俺か?」
翔斗の腕だった。
「翔斗に掴まるのが一番安心できるからね。おっ昔よりも筋肉ついたかな?」
「筋トレしてたからな。はしゃぎすぎて転ぶなよ」
二人は太陽の日差しを浴びながら、しばらく流れるプールを堪能した。
「次はあれやりたい」
花鈴が指さしたのはウォータースライダーだった。
そこでは楽しそうに叫び声を上げながら滑り降りてくる人達の姿があった。
「おっいいな。楽しそうだ」
「でしょ。ここに来た目的の一つはウォータスライダーで遊ぶことだったんだよね」
「そうだったのか」
花鈴がプールをここに来たいと翔斗に話し、それを翔斗は承諾したので特に選んだ理由は聞いてなかったが、ウォータスライダーが目的だったようだ。
全長百メートルあるウォータースライダーらしく、どうやら人気なようでかなり人が並んでいた。
「結構並んでるな」
「人気だからね。ほら早く私達も並ぶよ」
「分かったから引っ張るな」
二人も列に並び、十数分並んだ後についに順番が回ってきた。
「翔斗一緒に行くよ」
「二人でも平気なのか」
係の人に許可をもらって、二人で入り口に座る。
「わくわくするね」
「そうだな。でも、いざここに来ると少し怖くなってきた」
思っていたよりも高いので翔斗が怖気づいていると、そんなことお構いなしに係の人が押して一気に滑り降り始めた。
「うぉおお!」
「キャーー」
翔斗は少しビビりながら、花鈴は楽しく悲鳴を上げて滑り落ちていき、すぐに水に勢いよくぶつかっていった。
すぐに水から顔を出して、二人で顔を見合わせて笑った。
「翔斗すごい声出してたね」
「いや、想像以上に早くてビビったけど、楽しかったな」
感慨にふけるのもそこそこに、次の人の邪魔にならないようにすぐに移動する。
肌を密着させて滑ったので、少し恥ずかしかったが滑り始めればすぐにそんな事を忘れて思い切り楽しんだ二人だった。
その後も二人は様々な場所を巡って楽しむうちに気づけば昼を過ぎていた。
「お腹すいたね」
「そうだな。そろそろ昼食にするか」
ロッカーから財布を取り出して、二人は昼食を買いにお店を探した。
店は焼きそばやフランクフルトなどが売っていた。
「どれにしようかな」
「俺は焼きそばにする」
「うーん、私もそうしようかな」
迷った結果花鈴も翔斗と同じ焼きそばを買って、飲食スペースで食事をした。
かなりはしゃぎながら泳いでいたので、思っていたよりも疲労が溜まっていた。
「少し休憩してからまた泳ぐか」
「そうだね。そうしよっか」
日陰で涼みながら、翔斗は泳いでいる人たちをなんとなく眺めていると、隣から不穏な視線を感じた。
「どうした花鈴?」
横を向くと、なにか言いたげな表情で花鈴が翔斗を見ていた。
なにか気の触ることをしたかと考えたが、特に思いつかなかった。
「むー翔斗、他の女の子達見てたでしょ」
「えっ? あっ」
ぼんやりと眺めているのを、女性を見ていると勘違いされてしまったようだったので、翔斗は慌てて弁明をする。
「違うって。ただ、プールをぼんやり見てただけで、特定の人物を見てたわけじゃない」
「本当に?」
「本当だって。俺は花鈴が好きだから、他の女性に目を奪われることはないよ」
思わずこっ恥ずかしい発言をしてしまったが、翔との本心なので訂正はしない。
「疑ってごめんね」
「大丈夫。俺は気にしてないから。それよりも、ヤキモチを焼いてるところも可愛かったから平気だぞ」
「ふふっ、翔斗ありがとう」
人目があるのであまり過度なスキンシップはしないが、互いに手を強く握りあうことにしたが、傍から見たら熱々のカップルそのものだった。
その事に二人が気づいたのは数分後のことで、そそくさとその場を後にした。
「うー恥ずかしかったね」
「まさか、周りから見られているとは思わなかった」
花鈴は顔を真っ赤にして照れているが、翔斗の手を離すことはなかった。
「よし、気を取り直して思いっきり遊ぶぞー!」
「帰りの分の体力は残しておけよ」
「ダメだったら、翔斗が運んでね」
「しょうがないなぁ」
そこでダメと言わないところが、翔斗がべた惚れしている何よりの証拠だった。
花鈴は宣言通り遊びに遊んだ。
全ての施設を周り、小学生のように元気にはしゃいだ結果、翔斗の懸念通り電池が切れてしまった。
「だから言っただろ」
かろうじて着替えを済ませて翔斗と合流したところで力尽きてしまった。
「えへへ、翔斗と一緒だから思いっきり楽しんじゃった」
翔斗にしなだれながら帰路を歩く。
翔斗は歩くのに邪魔なのだが、そんな事は言わずに口元をほころばせながら花鈴の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。
「楽しんでくれてよかった」
結局翔斗は、花鈴が喜んでくれるのが一番なのだ。
花鈴が幸せなら翔斗も幸せになれる。
二人はそんな関係なのだ。
「今度は夏祭りに行こうね」
「ああ、花火もやるらしいし楽しみだな」
「うん!」
二人は夕日が照らす道を仲良く帰っていった。
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