第26話 彼女と夏休み

 夏休みに入り数日が経ち、二人は互いの家を行き来して日々を満喫していた。

 今日も翔斗の家へ集まり、のんびり漫画を読みながら過ごしていた。


 「翔斗は宿題終わった?」


 翔斗のベッドで寝転がりながら、漫画を読んでいる花鈴が訊ねてきた。


 「いや、何も手を付けてないけど、花鈴はやったのか?」

 「ふふん聞いて驚かないでね」


 ベッドに背中を預けながら読んでいた漫画から顔を上げて花鈴を見ると、自身有りげな表情でこちらを見ていた。


 「やってないのか俺と同じだな」


 返答が来る前に答えを察した翔斗は、読んでいた漫画へ視線を戻す。

 

 「ちょっと待って、決めつけないで。まだわからないじゃん!」


 翔斗の肩を揺らして聞いてと花鈴が言ってくるので、仕方がなく翔斗は漫画を置いて花鈴の話を聞くことにした。


 「ほら聞くから、それ以上揺らすな」


 翔斗が聞く姿勢になったので、肩を揺らすのを辞めてくれたので、翔斗は改めて花鈴へ質問をする。



 「それで、宿題はやったのか?」


 翔斗の質問に花鈴は笑顔で答えた。


 「やってない」

 「はぁ、やっぱりやってないじゃないか。そんな花鈴にはお仕置きだ」


 そう言って翔斗は花鈴残しをくすぐり始めた。


 「あははは。ごめん、謝るから。くすぐるの辞めて」


 笑いすぎて涙が出てきたので、お仕置きを終わらせると、花鈴は不満げに頬を膨らませて抗議する。


 「ちょっとからかっただけなのに……酷いと思います」

 「ちょっとくすぐっただけだろ。でもこのままのペースだと、夏休み終盤に二人揃って必死こいてやることになりそうだな」


 翔斗はこれまで前半に簡単な問題集などをのんびりやって、終盤に作文などのめんどくさい課題をやっていたが、今年は花鈴と遊んでばかりで一切手を付けていないので、このままでは危ない気がした。


 「よしっ決めた」

 「何を?」


 突然立ち上がり、なにか決心をした翔斗を不思議そうに見てくる花鈴に説明をする。


 「俺たち、今年の夏は色んな所にいくだろ」

 「そうだね」


 すでに計画を立てているだけで、プールに夏祭りがある。

 それだけで終わることはなく、もっと多くの予定が追加されることは想像に難くない。


 「だから、今年は前半のうちに宿題を終わらせないか?」


 だからこそ、早めに宿題を終わらせることで、憂いなく夏休みを過ごせるようにしょうと翔斗は考えたのだ。


 「それいいね。私宿題持ってくるから、翔斗も準備しといて」

 「花鈴は切り替えが早いな」

 「だって、宿題が早く終われば、翔斗がご褒美をくれるんでしょ」


 そんなこと言っていないのだが、花鈴が楽しそうにしているのを見て言葉を飲み込んだ。


 「しょうがないな。考えておくよ」

 「約束だからね」


 花鈴はより一層笑顔になって、翔斗の部屋を飛び出していった。

 翔斗はその間に読んでいた漫画を片付けて、自分の勉強する場所をセッティングする。


 「ただいまー」

 「おかえり。早かったな」


 翔斗の準備が終わった頃、花鈴が勉強道具を持って戻ってきた。


 「やるなら、さっさと終わらせたいからね」

 「やる気いっぱいだな。じゃあ、始めるか」


 二人は早速自分の宿題に取り掛かった。

 しばらく翔斗の部屋には問題を解く音だけが響いていた。 


 「うーん疲れたー。今日はもうおしまい!」


 大きく伸びをした花鈴は、筆記用具を机に置いてベッドに転がった。

 今日の花鈴は服装はスカートではなくショートパンツなので、中身が見える心配はないが、脚が無防備なので少し目のやりどころに翔斗は困っていた。


 「おつかれ花鈴。結構進んだな」


 翔斗も筆記用具を置いて、あまり花鈴の下半身の方を見ないようにしてねぎらう。

 二人が宿題を始めたのは十三時頃で、今は十七時を過ぎていた。


 「翔斗もお疲れ。この調子なら、一週間あれば終わりそうだね」

 「そうだな。今日はもうこれで帰るか?」


 普段はもう少し遅く変えるのだが、疲れているだろうと思い気を使ったのだが、首を振られる。


 「まだ帰らないよ。だって、まだご褒美もらってないからね」

 「あっ……」

 「翔斗、忘れてたでしょ。だめだよ、約束したんだから」


 花鈴の言う通り、宿題を解くのに集中していたので、翔斗はすっかり忘れていた。


 「ごめんごめん。それで、ご褒美は何がいいんだ?」

 「そうだね……じゃあ、脚をマッサージしてもらおうかな」


 そういってベッドから足をおろして、翔斗の方へ向けてくる。

 見ないようにしていたが、少しきになってチラチラ見ていたのがバレていたようだった。


 「花鈴には敵わないな」

 「女子は視線に敏感だからね。それで、やってくれる?」

 「もちろん、喜んで」


 改めて花鈴の脚を観察すると、染み一つない白い肌でとてもきれだったので、思わず見つめてしまった。


 「見てばっかいないで、早くやって」


 少し照れて頬を赤く染めて花鈴から催促されたので、恐る恐る足に触った。


 「あっ」

 「大丈夫か?」


 触れた瞬間花鈴が小さく声を上げたので、慌てて手を離すが花鈴は続けてというので、そのまま脚に触れる。

 まずは足先から優しくもみほぐしていくが、土踏まずなどを強く押すたびに花鈴から聞こえてはいけない声が聞こえるので、なんだか変な気分になってくる。


 「痛くないか?」

 「うん、大丈夫」


 両足を揉み終わったので、次にふくらはぎをマッサージしていく。

 花鈴の脚はとてもすべすべしていて、触り心地良いので思わず、撫で回してしまい花鈴から怒られてしまったので、しっかりほぐしていく。


 「太もももやるのか?」

 「うん……お願い」

 「分かった」


 言われたとおり太ももに触れると、他の部位よりも柔らかくなんだか触れてはいけないものを触れている気がして、少し翔斗は背徳的な気分になる。

 とにかく、言われたとおりマッサージを行うために何も考えずに、揉むことだけに集中する。

 雑念捨てた翔斗はなんとか、マッサージを無事に終えることができた。


 「終わったぞ」


 顔を上げて花鈴を見ようとすると、クッションで視界を塞がれてしまった。


 「花鈴、これだと何も見えないんだが」

 「ありがとう翔斗。なんだか脚が軽くなったような気がするよ。もうコンナ時間だから私はもう帰るね」


 早口でそう捲し立てた花鈴は、翔斗に背を向けて荷物を仕舞い始めた。


 「おい、花鈴質問に答えてないぞ。もしかして、照れてるのか?」


 そう言って翔斗は不意をついて花鈴の正面に移動した。


 「あっ、ダメ」


 翔斗の目に映った花鈴の表情は、顔を赤く染めて潤んだ瞳をしていた。

 その今まで見たことのない表情を見た翔斗は、脳を強く揺さぶられた。


 「もう、ダメって言ったのに。今は気持ちよくて顔が緩んじゃってるから、恥ずかしかったの」

 「そう……だったのか。悪いな。変えるなら家まで送るよ」

 「うん、お願い」


 なんとか言葉を絞り出した翔斗は花鈴を家まで送っていく。

 今の翔斗は花鈴にドキドキしていて、まともに話せる状態ではなかったので、道中なにか話したのだが、翔斗の記憶には残っていなかった。


 「翔斗、また明日ね」

 「ああ。また明日な」


 そのまま家に入るかと思いきや、花鈴は不意に近づいて翔斗の耳元で囁いた。


 「翔斗がドキッとしてくれたなら、またマッサージお願いしようかな」

 「なっ……花鈴」

 「なーんて、冗談だよ。またね」


 突然耳元で囁かれたので驚いて固まった翔斗に、笑いながら頬にキスをした花鈴は家に帰っていった。


 「はぁ。今日は花鈴に振り回されっぱなしだな」


 翔斗は、キスされた頬を触りながら、ゆっくり家に帰っていった。

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