第22話 待ち合わせをしたら待った?と聞くのがデートのルール

 「寝癖とかは特にないな」


 早起きして身だしなみを整え、おかしいところがないか鏡でチェックをする。

 今日は花鈴の水着を買いに行くだけだが、恋人と二人で出かけるのは全てデートと思っていい。


 なので、決して手を抜かずに努力をして花鈴の隣に並ぶのだ。

 翔斗が恥ずかしい格好をしていたら、花鈴まで変な目で見られてしまうので、そんなことは許されない。

 なによりも、翔斗自身が花鈴といるときはかっこつけていたいのだ。

 見せるなら恥ずかしい姿よりも、かっこいい姿を見せたいのが男の子なのだ。


 「よし、準備完了。そろそろ行くか」


 見た目に特に問題がないことを確認した翔斗は、まだ待ち合わせの時間まで少しあるが、家を出る。

 もし、時間に遅れて花鈴を一人で待たせることになると、ナンパをされる可能性があるので、少しの間だろうが花鈴を一人にさせるわけにはいかないという理由もあるが、なによりも翔斗が一秒でも早く花鈴に会いたいから早く行くだけだった。


 「今日の天気は晴れだから天気の心配はいらないな」


 空を見上げれば太陽が明るく周囲を照らしており、涼しい風が吹き抜けている。

 今日はデートをするのに絶好の日だった。


 早足に待ち合わせ場所に向かうと、時間までまだ一時間ほどあった。

 本当はゆっくり歩いてくるつもりだったのだが、花鈴がどのような服で来るのか考えていると自然と早足になり、あっという間に到着してしまったのだ。

 だが、こうして待つ時間も緊張感が高まり悪くなかった。

 一時間など圧倒いう間にすぎると思っていたが、そこまで待つことはなかった。


 「あっもういる。翔斗ー! ごめん待った?」


 十分ほどすると、聞きなれた声がしたのでその方向を向くと、気合の入った服装の花鈴が姿を現した。


 「おはよう花鈴。俺も今来たところ」

 「待ち合わせ時間の五十分も前にそれはおかしいよ」

 「それを言ったら、花鈴だって来てるじゃん」

 「ふふっそうだね」


 二人ともデートが楽しみだったのか、考えることは同じだった。



 「花鈴、その服すごく似合ってるよ」


 上から涼しそうな白いリブクルーネックを着て、水色のジーンズを着こなしたかわいらしい服装だった。

 普段は学校帰りにどちらかの家へ行くので、制服で過ごすのがほとんどだが、こうしておしゃれした姿を見ると花鈴のかわいさがより増して見える。


 「ありがとう。翔斗もかっこいいよ。髪型とか結構頑張ったでしょ」

 「せっかくのデートなんだからな。そりゃ気合も入るさ」


 翔斗に褒められて頬を赤く染めながらも嬉しそうにする花鈴を見て、早く来てよかったと心の底から思う翔斗だった。

 事実周囲の人たちの視線が花鈴に多く向けられているので、翔斗が待ち合わせ時間通りに来ていたら、花鈴を長く待たせていたのでナンパされる確率は非常に高かっただろう。


 「さっそく、行こうか」


 周囲に見せつけるように恋人つなぎをして、二人は歩き出した。


 「今日はショッピングモールでいいんだよね?」

 「俺はそのつもりだったけど、他に行きたいところでもあった?」


 いつもは駅周辺でデートをしていたが、今日は水着を買うのでもう少し色々な服屋があるところに行きたいと花鈴が言っていたので、電車で移動してショッピングモールに行く予定だった。


 「ううん、確認しただけ。それより、いつも駅あたりでデートしてたからこうして電車で移動するのはなんか新鮮だね」

 「そうだな。あそこには娯楽施設に飲食店に服屋とか何でもそろってるから、わざわざほかのところに行く機会が少ないからな」


 翔斗たちは駅から比較的近場に住んでいるので、かなり恵まれていた。

 何か必要な物や、遊びたいときなど、駅に向かえば大抵のことは解決した。


 「でも、これから行くショッピングモールは洋服屋さんがいっぱいあるから、すごいんだよ」

 「それは楽しみだな」


 翔斗はファッションについて勉強をしていたので、ある程度服についても理解はあるが、それでもそこまで興味はなかった。

 だが、服を色々見るのが楽しみと喜んでいる花鈴はやはり女の子なんだなと思うとともに、こんな表情を見れるのならいつでも来てもいいとも思い、翔斗は笑う。


 「翔斗なんか嬉しそうだね」


 翔斗が笑ったのはほんの一瞬だったのだが、花鈴はそれを見逃さなかった。


 「そうか? デートしてるから嬉しいに決まってるだろ」

 「それはそうなんだけど、今日行くのは洋服屋さんがメインでしょ」

 「そうだな」

 「翔斗はあまり服に興味ないと思ってたから、ちょっと意外で」


 さすがは彼女、翔斗のかんげることなど簡単にわかってしまう。

 だが、肝心の笑った理由までは分からないようで、うーんとうなりながら考えていた。

 そんな姿も可愛いと思いながら、すぐに理由を教える。


 「簡単なことだよ。服を買うのを楽しみにしてる花鈴が可愛かったから、笑っただけだよ。確かに、服にはあまり興味はないけど、可愛い服を着る花鈴には興味ある」


 目を見て笑いながらそう伝えると、疑問が氷解したようで、すっきりとした表情で朗らかに花鈴も笑う。


 「なーんだ、そうだったんだ。それなら、水着を買った後にファッションショーしてあげるね」

 「それは、楽しみだな」


 二人は仲良く電車に揺られながら、目的地に向かうのだった。


 「やっと着いたー!」


 翔斗とつなぐ手をぶんぶんと振りながら、到着した喜びを表現する花鈴を苦笑しながら、翔斗は落ち着くように言う。


 「はしゃぎすぎだぞ。もうちょっと落ち着け。今日はまだ始まったばかりだぞ」

 「ごめんごめん。でも、昨日から楽しみだったんだからしょうがないでしょ」

 「その気持ちはわかるが、このペースで行くとすぐに疲れるぞ」

 「はーい。それじゃあいこっか」


 返事だけ大きくして、すぐに翔斗の手を引っ張ってショッピングモールに駆け足で花鈴は向かい、翔斗も手を離さないように強く握りながら花鈴を追いかけた。

 ショッピングモールの中は子連れや、友人同士など様々な人たちが大勢楽しそうに歩いていた。

 休日でごった返していると思っていたが、さすがはショッピングモール、大量の人たちを内包してなおスペースには余裕があった。


 今翔斗たちがいる一階は雑貨屋などがメインで、目的の服屋は二階に多くあるようだった。

 ちなみに三階は飲食店が多く存在しているので昼食を食べに行く予定だ。


 「早めに水着買って、色々見て周ろっか」

 「そうするか。にしても、久々にショッピングモールに来たけど色々あるな」

 「そうだね。いろんなものが売ってるからついついお財布のひもが緩くなっちゃうよ」

 「あーその気持ちわかる。なんか、こういうところに来ると普段欲しくない物も買いたくなっちゃうよな」


 翔斗たちは学生なので、散財をしてしまうとあっという間にお金が無くなってしまうので、注意しなければならない。

 翔斗はそこまで物欲の強い方ではないが花鈴はかなり強いので、本人の代わりに翔斗が見ていなければならない。


 「ショッピングマジックだね」

 「ショッピング、マジック……ぶっ!」 


 花鈴が何気なく言った言葉が翔斗のツボにはまり笑いが止まらなくなる。


 「なんだそれ、はっはっは」

 「もう、笑うなんてひどいよ!」

 「悪い、でもっ、ツボに、はまって。無理耐えられない」


 しばらく笑い続けた翔斗は、お詫びに売っていたクレープを花鈴に買うのだった。

 クレープがよっぽど美味しかったのか、翔斗がくれたのが嬉しかったのか、はたまたどっちともかわからないが、あっさりと花鈴は機嫌を直したのだった。


 「イチゴとチョコにクリーム、最高」


 とろけた表情で幸せそうに食べる花鈴を見ていると、翔斗も食べたくなってしまった。

 翔斗は食べる気がなかったので、花鈴の分しか買わなかったのだが、隣で美味しそうに食べているのを見ると食べたくなってきてしまう。


 「俺にも少しくれないか?」

 「えーどうしよっかなー」


 先ほどの仕返しか意地悪そうな顔をして、クレープを翔斗から遠ざける。


 「嘘だよ、あげるって。だからそんな泣きそうな顔しないで」

 「そんな顔してないって」

 「はいはいそうですね。はい、あーん」


 花鈴は謝りながら、食べかけのクレープを翔斗に向ける。

 所謂間接キスなのだが、翔斗はそんなことは気にせずぱくっと食べる。

 

 「ありがとう。うん、美味しいな」


 平然と食べる翔斗を見て、逆に花鈴が照れ臭そうにしてしまう。


 「どう、いたしまして。うー翔斗は間接キス恥ずかしくないの?」

 「ん? いや、間接キスどころか普通のキスだってしてるし」

 「そうだけどさ、そうなんだけど」


 何か納得しない顔でクレープを食べる花鈴。

 翔斗はその様子を見て、何を言いたいのか理解して、苦笑しながら花鈴の顔に手をやる。


 「花鈴、ちょっと止まって。顔にクリームついてる」

 「本当? どこ?」

 「とってやるよ」


 そう言って花鈴に近づいて顔に手をやり……そのまま何もついていない頬ににキスをした。


 「えっ……?」


 とっさのことで何が理解できなかった花鈴は思わず固まってしまう。


 「悪い、クリームついてるの気のせいだった」

 「いや、うん。うーーーーーー」


 ようやく頭が回りだした花鈴は顔を真っ赤に染めて、翔斗ぽこぽこ叩く。

 

 「ごめん、ごめんって」

 「うーーーーーーーー」


 翔斗は謝るが、不意打ちでされたのが、よっぽど恥ずかしかったのがしばらくポコポコ叩かれるのだった。


 「落ち着いたか」

 「……うん。……翔斗はずるいよ」

 

 文句を言うが嫌がっていないのは離そうとしない手を見ればわかる。

 照れ隠しで叩いてしまうくらいなら、全然かわいいものだ。

 全く痛みもないじゃれあいみたいなものだ。


 「花鈴が可愛いのがいけない」

 「もうっ、翔斗のせいでクレープの味が分からなかったよ」

 「また買ってやるよ」

 「約束ね」

 「約束だ」


 そう言って指切りをすると、笑顔になり翔斗の手を引っ張っていく。

 

 「見て、あそこに可愛い服があるよ!」


 元気を取り戻した途端、どんどん進んで行く。

 花鈴は照れているところも可愛いが、翔斗が好きなのは元気いっぱいの花鈴なのだ。


 「分かったから、今行くよ」


 離れないように小走りで花鈴の横に行き、二人はお店の中に入っていった。

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