第21話 夏の暑さと恋の熱
「ねぇ翔斗、突然だけど今日が何の日かわかる?」
学校が終わり、家に帰る途中に花鈴は突然そう言いだしたのは、世の恋人がいる男性がおびえる質問トップテンに入る質問の一つだ。
ちなみに一位は「私と仕事どっちが大事なの!」である。
そんな質問に翔斗は一瞬驚いたが、答えは知っていたのですぐに答えた。
「俺と花鈴が付き合って一ヶ月だろ」
「正解!」
翔斗が自信満々に答えると、花鈴は満面の笑顔と共に抱き着いてくるので、しっかり受け止めて頭をなでる。
今翔斗が言った通り、今日は二人が付き合ってちょうど一ヶ月だ。
付き合う前や、告白をされてから色々あったが、今ではこうして仲良く日々を平穏に過ごせている。
そんな二人を祝福するように、太陽が明るく照らしていたのだが……。
「熱い……」
そんな太陽を翔斗は睨みながら汗をタオルで拭いて、一旦花鈴を離れさせる。
六月後半の気温は夏と呼んでいい暑さで、梅雨のジメジメとした空気がより不快な気持ちにさせる。
「花鈴は平気なのか? なんか俺ほど熱そうにしてないけど」
先ほどまで翔斗とべたべたしていたにもかかわらず、花鈴は汗一つかいておらず余裕そうな表情をしていた。
「もちろん熱いけど?」
「なんだか余裕そうに見えたんだけど……髪型を変えたからか?」
確かに暑がってはいるのだが、翔斗よりも少し余裕そうに見えた。
花鈴は普段髪を後ろに伸ばしているだけだったが、今日はポニーテールにしていた。
「それはあるかもね」
「その髪型も可愛いぞ」
「ありがと。翔斗にそう言ってもらえるとすっごくうれしい」
翔斗がストレートに褒めると花鈴は嬉しそうに笑いながら、翔斗の腕を抱きしめてきた。
腕に柔らかいものが当たるが、今の翔斗は付き合いたての頃の初心な少年ではなく、付き合って一ヶ月も経った歴戦の少年なので、この程度ではうろたえない。
「翔斗、耳がすごく赤いよ」
「いや、別に照れてないし。熱いから顔が赤くなってるだけだし」
「いや、別に照れてるとか言ってないんだけど……そっか、照れてるんだね」
夏の暑さのせいか、翔斗の思考も鈍り、言わなくていいことまで言ってしまい照れていることがあっさり花鈴にバレてしまっていた。
今の翔斗は歴戦の少年ではなく、恋人ができて浮かれている普通の高校生だった。
「そりゃな、衣替えして夏服になったことで露出が増えてるから、その状態で抱き着かれると……さすがに照れる」
以前までは長袖の制服で肌はそこまで露出していなかったのだが、今は衣替えをして半袖に変わったことで露出が増え、抱き着くと直接肌と肌が触れ合うので照れ臭かったのだ。
「でも抱き合うとさすがに熱いね」
花鈴はそう言うと翔斗の腕を開放し、恋人つなぎへと変えたのだが……
「そんながっかりした顔しないでよ。なんかいじめてるみたいじゃん」
花鈴が腕を開放すると翔斗の表情は、あからさまに残念そうな顔へと変化したので、花鈴は再び腕を絡める。
「俺は気にしないんだけど、花鈴が暑いなら無理にしなくてもいいよ」
花鈴を思い翔斗はそう言葉にすると、花鈴は笑いながらより一層絡める腕に力を入れてきた。
「翔斗って変わったね」
「そうか?」
「うん。変わったよ。前よりも感情を表に出すようになったし、私を好きだってことがよく伝わってくるようになったよ」
翔斗自身は自覚がなかったのだが、花鈴に言われたことで最近の自分を振り返ってみると、思い当たる節が幾つもあった。
以前の翔斗は花鈴のためと思い行動していたのだが、最近の翔斗は自分がしたいことをしていた。
今も自分が花鈴に抱き着かれて嬉しかったから、やめないで欲しいと考えていた。
以前の翔斗なら、花鈴が満足するまで自由にさせて、満足したのならそれ以上を求まるようなことはなかった。
「確かにそうかもしれないな。でも、花鈴がより好きになったんだからしょうがないだろ」
「翔斗の本心を隠さずに言葉にしてくれるところ、私は好きだよ。態度や言葉で示されると、不安にならなくていいからね」
「花鈴が不安にならないように頑張ったからな、そう思えてるのならよかったよ」
ようやく恋人同士に慣れた二人だが、今度は翔斗が普段のスキンシップだけでは物足りなくなってきてしまっていた。
そんな翔斗に気づいていたのか、花鈴はとある提案をする。
「明日は土曜日だし、プールにでも行かない?」
「プールか……」
今プールで泳いだのなら気持ちいいのは翔斗もわかっていたが、それ以上に花鈴の水着姿を他の男たちに見せるのが嫌だった。
そんなことを考えていると、行きたくないのかと思った花鈴が心配してきた。
「もしかして、プール嫌だった?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……」
いつもならすぐに言葉にするのだが、今回は恥ずかしくてうまく言葉にできなかった。
「もしかして、他の人に私の水着を見られるのが嫌なの?」
「っ?!」
花鈴は冗談のつもりで言ったのだが、翔斗が図星をつかれた反応をしていたことから、当たっていたと分かりにやにやし始めた。
「まさか当たってるとは」
「しょうがないだろ。俺自身ここまで独占欲が強いとは思ってなかったんだよ」
やはり恋をすれば人は変わるもので、今までは何とも思っていなかった表情やちょっとした仕草に目が奪われてしまう。
日に日に花鈴への愛情が増えていくのだ。
そのせいか、花鈴を独り占めしたいという独占欲も強くなり、他の男に水着姿を見せるのも嫌だった。
「じゃあさ、明日水着選んでくれない?」
「水着?」
「うん、そろそろ新しいものを買いたいと思ってたからさ。友達とかとプールに行く機会もあるかもしれないからね」
「そうか……」
花鈴の友人関係に口出しする気は翔斗にはないので、プールに行きたいと言えば止めはしないが、やはりあまりいい気分ではなかった。
だが、そんな翔斗に思考を読んだのか、花鈴は笑顔で安心させることを言った。
「だから翔斗の選んだ水着で行って、最初に翔斗に見て欲しいんだ」
「はぁ、花鈴には敵わないな。分かった。いいよ、明日買いに行くか」
「うん。ありがと翔斗」
再び翔斗にハグをした後、流れるようにキスをするのだった。
「あっ、もう家に着いちゃったね。詳しいことは後で連絡するよ。またね」
「ああ、また明日な」
手を振って花鈴が家に入るところを見届ける。
「帰ったら早速、明日の準備をするか」
そして、気づけば先ほどまでの嫌な気持ちはどっかに消え、花鈴とのデートのことしか頭にはなかった。
本当のところ不安だったのは花鈴だけでなく、翔斗の方だったのかもしれない。
最初が普通ではなかった分、自分はちゃんと彼氏をやれているのか、花鈴にふさわしいのか色々考えていた。
だが、それもちゃんと花鈴に愛されているのが伝わってきたおかげで、振り切ることができた。
「本当、花鈴には敵わないな」
そう嬉しそうに呟きながら、翔斗は明日のプランを考えるのだった。
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