第15話 妹襲来

 「愛華どうして家にいるの?」


 居ないはずの妹が目の前にいて動揺する花鈴だが、すぐに騙されていたことに気づく。


 「愛華、もしかしてこうなること分かってた?」

 「うん、お姉ちゃん最近嬉しそうだったから何かあると思って気になってたんだ。聞いても教えてくれなかったしね」


 愛華は頭の良いいたずらっ子で、度々翔斗や花鈴を驚かせていた。

 中学で花鈴と距離ができて以来、愛華とも会っていなかった翔斗にとっては久しぶりの再会だ。


 「いつまでも玄関で立ち話もなんだから、リビングに行こ」

 「そうだね、ほら翔斗こっちだよ」


 二人に連れられてリビングへ移動する。

 鈴野家のリビングは大人数が座れるソファーの前にはテレビがあり、昔はよくゲームをして遊んだものだ。


 「翔斗は何飲む?」

 「お茶でいいよ」

 「分かった」


 それぞれ飲み物をもってソファーに向かい、ソファーの前の机に飲み物を置く。

 そして愛華、翔斗、花鈴の順にソファーへ座り、改めて話し始める。

  

 「久しぶりだな愛華。かなり背伸びたな」


 翔斗の記憶にある愛華の姿は小学生で止まっており、目の前の少女とは大きく変化していた。

 それでも特徴的なツインテールは記憶そのままで、無邪気に笑うところも変わりない。


 「そりゃ小学生の頃と比べたら伸びてるよ。それに、翔斗お兄ちゃん全然家に来てくれなくなったから、寂しかったよ。えーんえーん」


 両手を目の前にやり、明らかな嘘泣きをするが、翔斗には少し刺さる言葉だった。

 翔斗にとっては会わなくなった理由は分かるが、愛華からしてみれば気づいたら家に来なくなり、会えなくなったなったと感じるだろう。

 家に来なくなった理由もわからず寂しく思うだろう。

 その負い目が少しあるので愛華に強く言うことができなかった。


 「こーら。嘘泣きなんてしないの。翔斗が困ってるでしょ。ごめんね翔斗」


 なので代わりに花鈴が翔斗の気持ちを代弁してくれるのはありがたかったが、まずは謝らなければいけなかった。

 例え翔斗が悪くなかったとしても、昔のような仲のいい関係に戻りたいのなら謝ることが誠意なのだから。


 「いや、俺の方こそ悪かった。ごめん。突然遊びに来なくなったりして」

 「謝ってくれたから許してあげる。それにもう気にしてないよ。それに今ならわかるから。中学生の男女が気軽に遊ぶことは難しいよね」


 今までの無邪気な様子からは想像のつかない、大人びた笑顔で愛華は翔斗を許す。

 その笑顔を見て改めて翔斗は、成長したんだと感じるのだった。


 「愛華は大人になったな」

 「そりゃ来年には高校生なんだからね」

 「そうか、そうだよな」


 人は成長する生き物。

 変わらない人はいない。

 変わりたくないと望んでも、時間は人を変化させる。

 そのことを翔斗はここ最近でよく感じるようになった。


 「それで愛華はなんで家にいるの? 学校は?」


 翔斗が感慨に耽っている間に花鈴は不思議そうに愛華へ問う。


 「翔斗お兄ちゃんに会うためだよ」


 愛華は即答するが、花鈴はその答えでは納得がいかないようだ。


 「確かに、それも理由の一つだとは思うけど、それだけじゃないでしょ。わざわざ私を騙してまですることじゃないでしょ」


 翔斗はてっきり自分に会うためだと思ったが、花鈴はそれだけではないと考えているようだ。


 「さっすがお姉ちゃん。よくわかってるね」

 「やっぱり」

 「もちろん翔斗お兄ちゃんに会いたかったのは本当だよ。でも、もう一つの理由はね、二人が恋人なのか確かめるためだよ」


 翔斗と花鈴に指をさして、ドヤ顔で目的を話す愛華。

 なるほど、確かに今の状況は恋人と言い逃れをするのは難しいだろう。

 中学校の頃は疎遠だったのにここ最近で再び仲良くなり、年頃の男女の友達が誰もいない家に呼ぶかといわれたら、普通は呼ばないだろう。

 翔斗は言い訳をするつもりは一切ないようだが。


 「それで、愛華はどう思う?」

 「限りなく黒に近いと思われます!」

 「うん、正解」


 翔斗は隠さずに花鈴と付き合っていることを肯定する。

 いづれ家族である愛華には知られることなので、隠すだけ無駄と考えてる部分もある。

 なによりも、花鈴と付き合っていることを隠すことは、付き合っていることが恥ずかしいということなので、翔斗は隠したくなかった。


 「翔斗言っちゃっていいの?」


 だから不安そうに聞いてくる花鈴に向かって力強く頷く。


 「当たり前だ。花鈴と付き合っていることを恥ずかしいなんて一度も思ったことはない」


 大切な言葉は胸の内に秘めておくのではなく、ちゃんと言葉として口に出す。

 いくら自分の中で大切に感じていたとしても、それは相手には伝わらない。

 そのせいですれ違う場合もあるので、翔斗は大切に思ったこと、大事なことは口に出すように決めている。


 「ありがとう」


 その気持ちが花鈴にも伝わったのか、はにかみながらも嬉しそうに笑うのだった。


 「ちょっと二人の世界に入らないで! 私がいることも忘れないでよね!」

 「悪い悪い、ちょっと夢中になってた」


 少し気を抜くと花鈴のことばかり考えて周りが見えなくなりがちなのが、最近の翔斗の悩みだった。

 あまり治す気がないので、落ち着くのは当分先になるだろう。


 「ごめんごめん。でも、翔斗がかっこいいからしょうがないでしょ」

 「妹相手に惚気ないで!」


 ぷんすか怒る愛華を宥めながら、花鈴と目をあわせて笑い合う。

 この愛華の様子から翔斗達が付き合っていることは察していたが、花鈴は言っていなかったのだろう。

 大切な家族に隠し事をするのは多少罪悪感があっただろう。

 花鈴と愛華は仲のいい姉妹だからなおさら、辛かったはずだ。

 だから、今はこうして打ち明けたことで、少しでも花鈴の心労が少しでも減らせればと思いながら翔斗はお茶を飲む。


 「ところで二人はもうキスはしたの?」


 姉妹のほほえましいやり取りを見ていると突然愛華から、不意打ちの言葉をくらい飲んでいたお茶でむせてしまった。


 「何だよ、突然」


 咳をしながら愛華へ質問の意図を問う。

 いつから付き合っているのか、どちらから告白をしたのかなどの質問が来ると予測していたので、ここまで直球な質問が来たことに驚く。


 「そうだよ愛華、こういうのはあまり聞くことじゃないよ」

 「えーだってこのまま順調にいけば二人は結婚するでしょ」

 「まあ、そうなるな」


 まだ二人は高校生で先の長い話だが、いずれはそうなりたいと考えるがしばらくすることはないはずだ。


 「翔斗はそう思ってくれたんだ。嬉しい」


 思いがけず翔斗の本音を聞けたことで花鈴は照れながらも笑みを浮かべて喜ぶ。


 「当たり前だろ。中途半端な気持ちで付き合ってるわけじゃない」


 プロポーズのようなことを言っているような気もするが、翔斗の本心なので訂正はしない。


 「もちろん、私もそのつもりだよ」

 「ありがとう」


 嬉しさが高まり隣にいる花鈴の手を握り、見つめ合う。 

 至近距離で見つめ合い、やがて二人の距離は近づいていき


 「だから! 私のことを忘れないで!」


 愛華によって現実に引き戻される。


 「悪い、また夢中になってた」


 愛華がいることを思い出し、握る手は離さないまま愛華の方を向く。

 花鈴は今自分たちが無意識にしようとしていたことに気づき、顔が真っ赤になってしばらく話せそうになかった。


 「二人が仲がいいのは分かったから、早く質問に答えて」

 「やっぱそう見える? 愛華から言われると嬉しいな」

 「惚気ないで早く!」


 隙あらば惚気ようとする翔斗に怒りながらも、愛華の表情は嬉しそうに見えた。


 「まだキスはしてないぞ」

 「そうなんだ意外。それだけ仲がいいから、てっきりもう済ませてると思った」

 「まだ付き合ってそんな経ってないからな」


 実際はたった今しようとしていたのだが、無意識のことだったので翔斗は気づいていない。


 「それだけ仲がいいなら時間の問題だね」

 「そうだと良いな。それで、他に聞きたいことはあるか?」

 「もういいかな。二人の様子を見てれば大体わかったから」


 もう少し色々聞かれることを覚悟していたが、あっさりと質問タイムは終わった。

 付き合ってそんなに期間が経っていないので、話せることは少ないのだが。


 「そうか、わかった。この後はどうする? 久しぶりに遊ぶか?」

 「ううん、忘れ物があるから学校に戻るよ。これ以上二人のデートを邪魔するわけにはいかないからね」

 「そうか、話すのが遅くなってごめんな」


 改めて愛華に謝罪をする。

 花鈴と付き合えたことが嬉しくて、色々周囲のことが頭になかった。


 「いいの、ここ最近のお姉ちゃんが幸せそうだから。泣かせたら怒るからね」

 「ああ、泣かせないよう頑張るよ」


 しっかり目を見て宣言をする。

 愛華はその翔斗を見て満足そうに笑い立ち上がる。


 「お姉ちゃんをよろしくね。私数時間は帰ってこないからね」

 「もう、何言ってるの。早く行きなさい」


 ようやく正気に戻った花鈴が茶化す愛華に怒りながらも、見送るために立ち上がる。


 「翔斗は座ってて」


 見送ろうと立ち上がるが、花鈴に止められる。

 

 「分かった。じゃあ愛華、またな」


 疑問はあったが、素直に言うことに従う。


 「うん。またね翔斗お兄ちゃん。今度はお母さんがいるときに来てね」

 「そうするよ」


 翔斗に別れを告げた愛華は花鈴と共に玄関へ行き、何やら話しているようだったが、すぐに出て行った。


 「ごめんね翔斗。まさか、愛華がいるとは思っていなくて」


 そして申し訳なさそうに花鈴が戻ってくる。


 「いや、愛華に久しぶりに会えたし俺は気にしてないぞ」


 愛華がいたことには驚いたが、いつかはあわないといけないとかんがえていたので今日はちょうどよかった。


 「そうだね……それで今はもう二人きりだね」

 

 その花鈴の言葉で現状を思い出した。

 愛華が学校へ行ったことで、今は家に二人きり。

 当初の目的のデートができる。


 「そうだな。家デートを始めるか」

 「うん。じゃあ私の部屋に行こうか」


 愛華によってはじめられなかった家デートが、恋人になって初めてのデートが今始まる。

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