第12話 二度目の告白
ついに己の気持ちを吐き出した翔斗に、男子生徒は戸惑いを隠せなかった。
「どういうことだよ。付き合ってる? 信じられるかよ」
それも無理はないだろう。
今まで二人は交際を否定していたので、突然このようなことを言われても信じられないだろう。
だから翔斗からだけではなく、花鈴の口から言ってもらわないと説得力が欠けてしまう。
「だってよ花鈴。聞かせてやれよ。俺はお前の何だ?」
翔斗は後ろで現実を受け止め切れていない花鈴に、優しく話しかける。
次第に意識がはっきりとしてきたのか、しっかりと翔斗の目を見て問いかける。
「いいの?」
「もちろん」
短い言葉だったが、花鈴の言いたいことを理解した翔斗は肯定する。
それを聞いて花鈴は瞳を潤ませながら笑顔を浮かべて、翔斗の前に出る。
「翔斗は私の彼氏です! だからこれ以上私に付きまとわないでください。はっきり言って迷惑です」
普段の花鈴からは想像できないほどの冷たい表情で男子に言い放つ。
「本当に?」
「本当です」
そして、花鈴本人からも言われたことで、ようやく言われていることが真実だと理解したようだった。
「柊翔斗お前のせいで!」
洒落にならないような暗い感情をぶつけられるが、翔斗は目を逸らさず一歩も引かない。
むしろ、一歩踏み出すことで男子に近づいていく。
「何だよ」
まさか翔斗の方から近寄ってくるとは思っていなかったようで、少し後ずさりながらも態度は変えない。
そして互いの距離がほぼゼロになったところで翔斗は止まり、花鈴には聞こえない大きさでささやく。
「俺に何かするのはいいが、花鈴に何かしたら許さないぞ」
自分でも信じられないような低い声が出てきたが、効果はあったようで先ほどまでの威勢が消えた男子は慌ててその場から逃げ出した。
振り返ることもせずに走っていき、あっという間に見えなくなったところで、ようやく息を吐く。
「あー緊張した」
先ほど威勢よく啖呵を切ったが、正直翔斗は緊張で噛まないか心配だった。
花鈴に何か起きないように無我夢中で行動したので、あれで正解だったのかもわからない。
だが結果として、男子は逃げ出し、その目には怯えのような感情が見えていたのでもう何もしてこないだろう。
そう思い安心したところで背中に軽い衝撃を感じた。
なんだと思い振り返ろうとするが
「こっち見ちゃダメ」
と言われたことで花鈴が翔斗に抱き着いてきたことを理解した。
前に回された花鈴の手は微かに震えていて、嗚咽をこらえているようだった。
だから翔斗は後ろを見ずに、回された手に自分の手を重ねて優しく一言
「もう大丈夫だ」
そう呟いた。
その言葉が引き金になったのか、花鈴から咽び泣き始めた。
「怖かったよな」
「うん」
「気づくのが遅くなってごめんな」
「うん」
「でも、これからは俺がそばにいるからな」
「……うん」
しばらくそうしていたが、やがて涙が収まったのか花鈴の方から振り向く許可が下りた。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、ありがとう。あのね……聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
なぜこの場にいたのか、いつからこのことに気づいていたのかなど、心当たりはいくつかあったがどれも違ったようだ。
「さっき言ってくれたことって本当なの? あの場限りの嘘だったりする?」
「え?」
翔斗としては本気で言ったつもりだったが、花鈴からしてみればあの場で男子を追いやるための嘘と思える。
「翔斗は優しいからさ、あの人をどうにかするために嘘をついてくれたのかなって思ったんだ」
不安そうに、喜んだあとに勘違いだと分かって悲しい思いをしないようにしているのが伝わってきた。
「もしそうだとしたら私のためにありがとう」
「花鈴」
「翔斗は優しいからね困ってる私を放っておけなかったんだよね」
「花鈴!」
「っ!」
動揺しているのか翔斗が声をかけても聞こえていない、いや聞くのが怖いのだろう。
答えを聞かなければ振られることはない。
振られなければいつまでも期待をしていられる。
花鈴は強く優しいと思っていたがそれは勘違いで、強く見せているだけの普通の女の子なのだ。
翔斗はそれが今、ようやく理解できた。
だから翔斗がするべきことはただ一つ。
――告白だ。
「花鈴、お前のことが好きだ。俺と付き合ってほしい」
何のひねりもない普通の告白。
だが、それゆえに伝わるものがある。
「いいの?」
「もちろん、花鈴がいいんだ。だから、いいのなんて聞くな。いつもみたいに自信満々に笑っていればいいんだ」
「ふふっそうだね。私の勝ち!」
嬉しさからか涙を流しているが、それでも笑顔でピースをして勝利宣言をした。
あの時花鈴は自分の虜にすると宣言し、実際にその通りのことになった。
これでは負けを認めるしかない。
「そうだな俺の負けだ」
振られた相手に告白をさせることは、普通はできない。
だが花鈴はそれをやり遂げた。
ならば勝者に景品をあげなければならない。
「勝ったご褒美に何でも一つ言うことを聞くぞ」
「じゃあ私を抱きしめて」
「それくらいだったら、いつでも聞いてやるよ」
先ほどの一方的なハグとは違い、今度は真正面から互いに抱き合った。
以前とは違う完全に心がつながった恋人同士のハグ。
「花鈴、好きだ」
「私も」
二人は思いを伝えあい、昼休みのチャイムが鳴るまで抱きしめ合うのだった。
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