第11話 デートをしよう後編
「そうなんだ、何の映画を見るの?」
「今話題の恋愛映画を見ようと思ってる。確か花鈴、恋愛系好きだよな」
「えっそうだけどなんで知ってるの? 翔斗に言ったことなかったよね」
花鈴は驚きながらも、なぜ翔斗が知っているのか不思議そうに聞いてきた。
「この前部屋に言った時に本棚に恋愛系のが多かったから、好きなのかと思ったんだ」
あの時は恥ずかしそうに隠してよく見れなかったが、一部見えたやつを調べたら恋愛ものの作品だと分かった。
それならちょうどいいと思い、評判のいい恋愛映画を昨日予約してきたのだった。
「そうだったんだ。翔斗って案外細かいところに気づくよね。というよりも、記憶力がいいのかな?」
「そうだな……細かい部分とかもかなり鮮明に思い出せるから、記憶力はいい方だと思う」
テストでも暗記系の科目の点数は常に高い。
「だからなんだね、翔斗って見た目の変化とかよく気づくよね」
「そうだな。髪型とか普段と違う風にしてると、記憶とは違う違和感で気づくんだ」
「私翔斗に褒められるの大好きだから、これからもどこか変わったなーって思ったら、どんどん褒めてね」
「分かったよ。ああそうだ忘れてた」
そこで翔斗は左手を花鈴に出す。
「ん? 何か返すものあったっけ?」
翔斗が手を出したことで何か返すものを催促されていると、花鈴は勘違いするが翔斗の目的は違う。
「違うよ」
花鈴の疑問を否定して、思い切って花鈴の右手を握る。
「あっ」
突然のことに狩院は驚くが、すぐに翔斗がしたかったことを理解して満面の笑みを浮かべる。
「なーんだ、翔斗私と手をつなぎたかったんだね」
「そうだよ。俺がお前と手をつなぎたかったんだ」
冗談半分に花鈴は嬉しそうに言ってくるが、それを翔斗は真っすぐ目を見て肯定する。
「えっ、冗談のつもりだったのに……そうなんだ。まさか翔斗がここまでぐいぐい来るなんて予想外でどうしよう。デートって言いながらいつもの様に遊ぶと思ってたけど本地等にデートだし、どういう心境の変化だろう?」
照れたせいか、俯いてぶつぶつとつぶやき始めた花鈴だが、声が小さいせいでそうなんだの後の言葉がよく聞こえなかった。
「なんて言ったんだ? 声が小さくて組班が聞こえなかったんだけど」
「ううん、気にしないで。ほらっ早く行こ」
何かを隠すように翔斗の手を引っ張って進んで行く。
翔斗も深くは突っ込まずに、花鈴について行く。
「ポップコーンは食べるか?」
「うーん」
映画館に到着して、上映中に食べるものを選ぼうとするが、花鈴は悩んでいた。
「どうした?」
「塩もキャラメルも食べたいんだけどね、ラーメン食べた後だからそんなに食べれないんだよ。でも、どっちもおいしそうで決められなくて」
視線を塩とキャラメルで行ったり来たりさせて、うなりながら悩んでいた。
「何だそんなことか、簡単な話だ」
「どうするの?」
「Lサイズをハーフで買って、俺と一緒に食べればいいだろ。食べきれなかったら残りは俺が食べるし、どうだ?」
翔斗もお腹いいっぱいであまり食べれなかったので、ちょうどいいと思い提案すると、目をきらめかせて頷いた。
「翔斗天才! うん、それにする! あっバターかけてもいい?」
「いいよ、飲み物はどうする?」
「メロンソーダにする」
「おっけー、ちょっと待ってろ。今買ってくるから」
「ありがとー」
今日のデートは急なうえ、花鈴に喜んでもらいたいのでお金は全て翔斗が出している。
最初は花鈴も出すと渋っていたが、中々翔斗が折れないので最後には折れてくれた。
「ポップコーンと飲み物は買ったし、チケットも発見したからあとは見るだけか」
準備も完了したのを確認して花鈴のところに戻ろうとすると、知らない二人組が花鈴と話していた。
「君一人? 一緒に映画見ようよ。おごってあげるからさ」
「すみません。友達がいるんで」
「友達? いいよ友達の分もおごってあげるからさ」
「いえ、大丈夫なので。
どうやらナンパのようで、花鈴は困りながらも断っていたが、二人組は気にせず誘い続けているようだった。
花鈴は容姿が良く今日はお洒落しているも相まって、とてもよく目立っていた。
一人にすればこうなることも想像できたはずだったが、油断していたようだ。
急いで花鈴のもとに向かい二人組と花鈴の間に入る。
「すみません、俺の彼女なんで、他あたってください。ほら行くぞ」
きっぱり言い切った後、ポップコーンを持ってない方の手で花鈴の手をつかみ二人組から離れる。
そして、人ごみで二人組が見えなくなったところでいったん止まる。
「ふー何とかなったな」
翔斗は緊張で思わず止めていた呼吸を再開する。
堂々としていたが、内心ではとても緊張していて、心臓が早く脈打っていた。
「ありがとう」
「いや、一人にして悪かったな」
「ううん、かっこいい翔斗が見れたからよかった」
絡まれている時は不安そうな顔だったが、今は安心できているようだった。
今日は帰るまで一人にさせないと決めて、上映時間なので入り口に手をつないだまま向かう。
「今のことは忘れて、映画を楽しもう」
「うん、そうする」
映画が始まっても、二人は手をつないだままで最後まで過ごした。
「いい映画だったね。評判がいいのもわかるよ」
「そうだな。面白かった」
そう言ったが実際は映画の内容よりも、花鈴の手の感触や、ぬくもりが記憶に意識が言っていてほとんど覚えていなかった。
「花鈴はどこか行きたいところあるか?」
今の時間は十六時で、徐々に日が落ち始めていた。
翔斗の計画はここまでで、特に花鈴の要望が無ければこのまま帰るだけだ。
「うーん、行きたいところはあるけど今日はいいかな」
「そうか、別に時間は気にしなくてもいいんだぞ」
「大丈夫」
「分かった」
今日は朝から遊んだので、花鈴も疲れていると思いこのまま帰ることになった。
最初は花鈴を喜ばせるために考えたが、気づけば翔斗も楽しんでしまっていた。
何も考えずに、一日を過ごせたのは久しぶりだった。
そう思いながらゆっくり二人は手をつないで歩いていたが、家が見えてきたところで、急に花鈴は立ち止まった。
「どうした?」
何か忘れものでもしたのかと思ったが、どうやら違った。
「翔斗今日はありがとう。私を元気づけようとしてくれたんだよね」
気づかれないように気を付けていたが、どうやらバレていたようだ。
「なんのことだ?」
「誤魔化さなくていいよ。翔斗がこうやって行動するときは大抵誰かのためだからね。私が最近元気ないのに気づいてたんでしょ」
全部わかっているようなので誤魔化すのを諦めて、全て白状する。
「ああそうだ。花鈴のためにどうすればいいか考えて、デートに誘った」
「やっぱり、ありがとう。今日はすごく楽しかったよ」
笑みを浮かべてお礼を言う花鈴だが、まだ本調子ではない気がした。
「何かしてほしいことはないか? まだデートは続いているぞ」
「いいの、もう私は十分楽しんだよ。でも、もし願いを聞いてくれるなら……抱きしめてほしいな」
「――分かった」
逡巡したがそれくらいで花鈴が元気になってくれるならと思い、優しく抱きしめる。
今まで手からしか感じられなかった花鈴のぬくもりが、今は全身で感じられる。
自分の身体とは違い、柔らかくいい匂いがした。
花鈴の方も、おずおずと翔斗の背中に手を回して、翔斗の胸に顔をうずめた。
しばらくそうしていたが、やがて顔をあげて翔斗から離れた。
「ありがとう。これで翔斗エネルギーは補充できたから大丈夫だよ!」
「なんだそれ、でも元気になったならよかった」
「今日はありがとう。また月曜日ね」
早口に告げて、駆け足で家に帰ろうとする花鈴を呼び止める。
「ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
「花鈴に渡すものがある」
「渡すもの?」
ずっとバレないようにカバンの奥にしまっていたものを取り出す。
「これだ」
翔斗が取り出したものはクッションだった。
「クッション?」
「そうだ。花鈴何かに顔をうずめるのが好きだろ。家に言った時もクッションにうずめたりしてたし。だから、柔らかそうなものを買ったんだけどどうだ?」
渡されたクッションをまじまじと見た後、ゆっくりと顔をあげて翔斗を見つめる。
そしてもらったクッションに顔をうずめて、嬉しそうに呟いた。
「すっごくうれしい」
「それならよかった」
花鈴が喜ぶものが分からずかなり悩んだが、こうして喜んでもらえたのだからこうしてプレゼントをしたかいがあったものだ。
「じゃあ今度こそ帰るか」
「じゃあね、また月曜日ね」
「ああ、またな」
花鈴が家に入るのを見届けてから、翔斗は歩き始めた。
花鈴の笑顔で今日一日ですべてが解決したように思えたが、花鈴の悩みは何も解決していなかったことに気が付いたのは次の週の火曜日だった。
いつも通り学校を過ごし昼休みになった時、教室に花鈴の姿がないことに気が付いた。
「あれ花鈴は?」
近くにいた花鈴と仲のいいクラスメイトに話しかける。
「なんか用事があるって出て行ったよ。誰かに呼び出されてる感じだったけど」
「どこに行ったか分かるか?」
「そこまでは分かんない」
「そうか、ありがとう」
誰かに呼び出されたと聞いて、無性に嫌な予感がした。
行き先は分からないと言っていたが、翔斗は心当たりがあった。
その場所に走って向かう。
翔斗が探している頃、花鈴は翔斗の想像通り男子生徒と居た。
「今度は何の用ですか?」
花鈴が嫌そうな顔をしながら男子に訊ねる。
男子はそんな表情に気づかず、話し始めた。
「鈴野さんもわかっていると思うけど、前と同じだ。僕と付き合ってほしい」
「その話ですが、以前も言った通り、私には好きな人がいるのでお断りします」
それで終わるかと思ったが、今回はそうもいかなかった。
「なぜだ! あの男が好きなのか? あの柊翔斗がいるからか」
「翔斗は関係ありません。もう帰ったもいいでしょうか?」
「あの男のせいか、あの男の何がいいんだ! 君の行為にこたえようとしないやつの何がいいんだ!」
花鈴の声は届いていないようで、ぶつぶつと何か呟いていた。
その様子はおかしく、恐怖を感じた花鈴はその場から離れようとする。
「翔斗を貶すのはやめてください。もう帰ります」
「行かせないよ」
「きゃあ」
教室に帰ろうとして花鈴の腕をつかんだ。
「やめてください!」
「君が頷くまで離さないよ」
「花鈴を離せ!」
その時ようやく翔斗は到着し、現状を把握した。
「柊翔斗君か。何の用だ」
「何の用も何もない。花鈴が嫌がってるだろ、その手を離せ」
翔斗の気迫に怖気づいたのか素直に手を離し、解放された花鈴は翔斗の後ろに隠れた。
「それで、用はもう終わりか?」
「いや、まだある。花鈴に付きまとうのはもう辞めろ」
翔斗は口出ししないようにしてきたが、あまりに強引の様子に花鈴が心配になった。
「付きまとう? 心外だね。僕はただ彼女に告白をしているだけだよ。君は彼氏でもないのに、人の恋愛を邪魔するのかい?」
「それは……」
「君には関係のないことだ。君こそ邪魔しないでほしいね」
「関係ない……確かにそうだな」
現状翔斗は花鈴と幼馴染ではあるが、恋人ではない。
今回強引な様子だったので止めたが、人の恋路を邪魔する資格はない。
だが、関係ないと言われた時、今までなら納得していたが、今回はそうもいかなかった。
ここ最近の出来事を思い出すと、全部花鈴の笑顔が浮かんでくる。
ただの幼馴染の頃では考えられない、感情も今では存在する。
そんな花鈴が誰かと付き合うのを想像するだけで、胸が苦しくなってくる。
「分かったのなら、さっさとどっかに行け」
ただの幼馴染ならそれでもよかった。
だが、今は無理だった。
この言葉を口にすれば、今までの関係には戻れない。
その結果どうなるかも想像つかない。
でも、関係のない立場にいるのは、花鈴を守れないままなのはそれ以上に嫌だった。
「いや、関係あるぞ」
「何?」
だから――約束を果たす時が来た。
「花鈴は俺の彼女だ! だから俺の彼女に手を出すな!」
花鈴が好きだという気持ちをついに言葉にした。
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