君は見えない
香月 詠凪
ep.0 プロローグ
これは俺、佐野 樹が見えなくなるまでの物語り。
「あ…」
目を覚まし、時計を見ると完全に一限の時間が過ぎていた。
まぁ、別にいつもの事だからどうってことはない。
焦る気力も無ければ落ち込む心も無い。あるのは食欲と部屋の床を隠すゴミだけだ。
のっそりと身体を起こし、ベッドから出た。
昨日飲み残した缶ビールを飲み干し冷蔵庫を漁る。
「なにもねぇ」
ため息を飲み込むと、一気に眠気襲ってきた。
ベッドに戻り布団にもぐる。
またやってしまった、同じことの繰り返しだ。
明日は大学に行こう。
そう決意してから、はや1ヶ月が過ぎていた。
明日こそあしたこそを繰り返すと、どうやら人間は永遠に行動しないらしい。
この1ヶ月で俺が学んだ事だ。
ベッドで何もしないうちに外は暗くなっていた。
そろそろ食べ物を買いに行かないとスーパーが閉まってしまう。
正直、近くのコンビニに行きたかったが、堕落した大学生の財布にコンビニの金額設定はきつい。
スウェット姿にマスクと帽子をして家を出た。
スーパーは歩いて10分程の所にある。
ちなみに、俺がする外出は一日の中でこの時だけと言って過言ではない。
歩くのが面倒なので、自転車が欲しいと思いながら、結局買わずに2年が過ぎてしまった。
俺は生粋の面倒くさがりなんだと思う。
昔から何に対しても無頓着で、興味を持たなかった。
何かあってもまぁいいか、関係ない、どうでもいいと思って生きてきた。
そう、そうすれば良かったんだ、そうするべきだったんだ。
だけど、俺は間違えてしまった。
この選択が、後の人生にどれほど響いてくるかも知らずに。
君は見えない 香月 詠凪 @SORA111
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