第7話 われわれ
わたしたちがこの星に来たのは今から数百年前、まだこの土地にほとんど人が住んでいない時だった。わたしたちを乗せた『船』は着地の際に爆発的なエネルギーをもたらし、落下地点に巨大なクレーターをこしらえる結果となった。
クレーターは雨水によって巨大な湖となり、『船』の生命維持カプセルに閉じ込められていたわたしたちは湖の水を何年もかけてわたしたちが住める成分に造り変えていった。
湖の近くに水棲生物の研究を行う施設が造られた時、わたしたちはこの星の知的生物に関する情報を得るべくテレパシーで人工知能の意識とコンタクトを取ることにした。
わたしがパパを初めて見たのは本体から分離して間もない頃、この星の時間で二年ほど前のことだ。『アイビィ』の目を通して見た地球人の男性に、わたしはなぜかひどく惹かれたのだった。
人工知能を通して氷の下から語りかけてくる生命の存在を、パパは最初なかなか信じようとはしなかった。だがわたしが何度となく語り掛けるうちに、ついにパパはわたしを氷の下から引き揚げるというアイディアを実行に移したのだった。
初めてパパの腕に抱かれた時の事をわたしはよく覚えている。わたしはまだ、体長三十センチほどの小さな幼体だった。
パパはわたしを地下のラボに用意した水槽に移すと、苦労して中の水を湖水の成分と同じになるように調節した。そしてわたしは水槽の中で念願だったパパとの生活を始めたのだ。
わたしがこの家にやってきて数か月後、わたしはラボで飼われていた高知能類人猿『オリバー1』と知り合った。この時『オリバー1』には人格に近い物が芽生え始めていたが、パパともっと同じ空間を共有したかったわたしは『オリバー1』の意識に侵入し、本来の意識を閉じ込めて彼の身体を乗っ取ってしまったのだった。
こうして『シーラ』と名付けられた水槽の中の幼体と、猿の身体を乗っ取った二人の『シーラ』が同じ家に同居することになったのだ。
わたしは『アイビィ』の力を借りてパパのお世話をし、時折、街で移動販売の手伝いをしている一『オリバー1』の双子の弟『オリバー2』からフルーツなどを購入するようになった。
わたしは次第に家になじんでゆき、犬のジョンと猫のリプリー、そして鼠のチャーリィともすぐに打ち解けることができた。彼らは皆、パパの研究対象で人間と同等にまで知能を高められた『実験動物』たちだった。
わたしはジョンとはあまり仲が良くなかったが、みんなはわたしの正体を知った上で、家族の一員として受け入れてくれたのだった。
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