第6話 あのひと
「早く麻酔銃を用意しろ!こいつを眠らせるんだ」
男の声に身の危険を察知したわたしは、気がつくと脚の一つで男の身体を捉えていた。
「や、やめろっ……ううっ」
「大丈夫ですか、チーフ」
「気をつけろ、どうやら触手の中に神経毒を出す針があるようだ……くそっ、離せっ」
「チーフ、このままでは危険です。貴重なサンプルですが撃つ許可を」
「……仕方ない、触手を狙え」
チーフと呼ばれる男がそう命じた瞬間、轟音と共に男を捉えていたわたしの脚がちぎれ飛んだ。わたしは本能的に銃を撃った男の腕に『唾』を吐きかけた。
「――ぎゃあっ」
「酸か?……そうか、この液体で犬や博士を溶かしたんだな。外へ行かせるわけには行かんぞ、化け物め」
男たちはわたしの身体を押さえつけると、「仲間を呼ばれては困るんだ。この星は……俺たちの物だ」と叫んだ。
このままでは殺される、わたしが縛めから逃れようと身体をくねらせた瞬間、「ぎゃっ」という叫び声がして男たちが床の上に転がった。目を向けると、男たちの手や足に無数の鼠が群がり、歯を立てているのが見えた。
――チャーリィ!仲間を呼んできてくれたのね。
わたしは危機を察して駆け付けてくれた友人に、感謝の眼差しを向けた。
――何とかして外に出ないと、ラボにとどまっていたら殺されてしまう。
わたしは床の上に腹ばいになったまま、エレベーターの方に向かって這うように移動を始めた。やっとの思いでエレベーターの前にたどり着いたわたしがドアの開閉ボタンに『腕』を伸ばした、その時だった。
――ううっ!
衝撃と共に鋭い物がわたしを貫き、身体が何かで固められたように一瞬で硬直するのがわかった。わたしは目だけを動かして、敵の正体を探った。
――『アイビィ』!……どうして?
わたしの運動中枢を貫いたピッカーを握っていたのは、『アイビィ』のアームだった。
――ライホウシャジャクタイカプロジェクト、サイシュウミッションカイシ……
――弱体化ですって?どういうこと?
――ハカセノケンキュウ……ツヨイガイライシュノDNAヲカイセキシ、キョウアクサヲトリノゾイタムガイナ『チキュウシュ』ニツクリカエルコト……
そうだったのか。わたしはすべてを理解した。パパがわたしを可愛がったのは、わたしの一族を研究してこの星の生命にとって恐ろしい存在にならないよう、生命力を弱めるためだったのだ。
――あなたはただ、パパの命令に従っただけだったのね、『アイビィ』。
わたしは離れた場所――氷の下からわたしに向けて送られてくる、同じ種族からのメッセージを受け取りながらこの家で過ごした日々……パパとの幸福な時間を思い返した。
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