第9話 足の怪我
≪結衣side≫
私は急いで部屋へ行った。
私の心の傷はまだなかなか癒えそうにはない。
思い出せば出すほど、吐き気がする。
そして恐怖からか涙が出そうになる。
あの人たちに触られたところ、今でも触られた感触が残ってる。
あの時大雅兄が来てくれなかったら確実に私はヤられていただろう。
いまだに震えが止まらない。
コンコン
大「結衣?大丈夫か?」
私の様子がおかしかったのを察したのか部屋に来てくれた大雅兄。
やば。涙出てるのに。
大「勝手に入るぞ。」
結「まだだめ……」
大「何泣いてんだよ。」
そう言って少し強引に後ろから抱きしめてくる大雅兄。
結「ごめんなさい…」
大「無理に忘れようとしなくていい。大丈夫だから。少し休むといいよ。」
そう言って私の体をヒョイと持ち上げベッドへと運んだ。
大「足、ちょっと見せて。」
結「え?」
大「ずっと右足をカバーするような歩き方してたから。」
……気付いてたんだ。
大「すげー腫れてるじゃん。瑛斗に何も言わなかったのか?」
結「……」
大「冷やすの持ってくるから少し横になっとけよ。絶対!動いちゃダメだかんな!?」
そう言って大雅兄は部屋を出て行った。
ここに住んでる人たちはみんな本当に優しい。
こんなにもみんな私を気にかけてくれるだなんて。
私も何か恩返し出来ればいいんだけど。
大「ほら。少し冷てぇぞ。」
結「痛………っ」
大「こんなに腫れるまで我慢しておくとかあほだろ。」
結「ごめんなさい…。」
私がそう言うと大雅兄は腫れてる所を軽く押して来た。
その力は徐々に強くなって行く。
結「痛いっ。」
大「骨折はしてなさそうだな。ちゃんと休めばすぐ治るよ。飯作って持ってくるからしばらく休んでおけよ。」
結「わかるの??」
大「あーー。俺喧嘩しすぎて分かるようになっちまった。」
と言って笑う大雅兄は笑っているけど笑っていないような顔をしていた。
大「あと!!どうしても考えちゃうならこの本貸してやるからこれでも読んどけ。」
そう言うと私の頭にコツンと本を置いて部屋に出て行った。
結「格闘家の教え??」
渡す本のセンス無さすぎ。
思わず1人で笑ってしまった私。
でもこれも嫌な事を思い出さないようにと言う大雅兄の優しさなんだなと思った。
なんか今日は2人に励まされた気がするな。
すると…
コンコン。
秀「結衣ちゃん。ちょっといい??」
結「はい。どーぞ。」
次に部屋に入って来たのは秀先生だ。
秀「これ。今日配られたプリントと授業内容俺なりに軽くまとめておいたから。」
結「へ?」
秀「もうすぐテストだからな??分からないとこあったら聞きにおいで。」
結「ありがとう…。」
秀「うん。じゃああまり長居するとお邪魔だろうから行くね。」
秀先生が出て行くとまたすれ違いで部屋に来たのは琉生さんだった。
琉「具合はどうだ。」
結「もう、大丈夫……です。」
琉「念のため聴診だけしておいていいか?病は気から。心が弱っている時は体も弱ることが多いからな。」
結「は、はい……」
琉「痛いことはしないからそんなに身構えるな。」
と言って聴診器をして胸の音を聞き出す琉生さん。
琉「喘息って前に言われたことある?」
あれ?それ前大雅兄にも言われたような……
結「ない……です。」
琉「ごめん。もう一度いいか?吸って~吐いて~。」
なんか不安になって来た。
琉「もういいよ。じゃあ、俺一旦病院戻るな。また時間できたら様子見にくるから。」
そう言って琉生さんは部屋を出て行った。
なんやかんやみんな心配してくれてるのをとても感じる。
早く治さなきゃな!!
≪大雅side≫
あれからしばらく経った。
結衣はもう足の具合もだいぶ良くなったみたいだ。
前よりもだいぶ笑顔が増えていた。
でも俺は思う。
悲しみの刻印は二度と消えることが無いんだ。
結衣は一生あの出来事を忘れる事は出来ないだろう。
そして……
大「はぁーーーーー!?!?!?」
俺は今朝瑛斗兄から渡された雑誌を見て思わず声が出た。
こ、こ、これ…一緒に写ってるの結衣だよな!??
可愛い…けど…世間に晒されてしまう。
…あれから結衣はメガネをつけなくなった。
確かにその分結衣の学校での人気も爆上がりだ。
女友達は常にまわりにいるし、
俺の友達や後輩の男どもだって…
……なんかいい気がしないっ!!!
胸糞腹立つ!
結衣には俺がそばにいない時でも味方してくれる人がいるって事はいい事なんだろうけど……
そして今回の雑誌の件で余計結衣は注目の的になるだろう。
そんな事があっていいのか。
大「はぁ………。」
俺は深々とため息をついた。
先「4時間目の授業始めるぞー。」
先生のその言葉で号令がかかり授業が始まった。
普段あまり授業内容を聞いていない俺は今日もぼんやりと窓の外を見ていた。
俺の席は窓側の1番後ろでとても見やすい位置だ。
校庭のあまりをぼんやりと見ているとサッカーをしているクラスが見えた。
いいなぁ。俺もサッカーしてぇなぁ…
あれ、結衣のクラスだ。
俺はいつの間にか肘杖をついて結衣から目が離せなくなっていた。
結衣はメインで動いてサッカーをしている。
へー結衣って意外と運動神経いいんだな。
と思ったのも束の間。
ボールを蹴って全速力で走っている結衣が思い切り転んだ。
大「あ!転んだ!!」
ありゃ痛えぞ。
集中して結衣を見ていた俺に先生は頭を持っていた教科書で引っ叩いた。
大「痛っ!!」
先「何が転んだ、だ。たまには授業に集中しろ。」
怒っていると言うより呆れている様子だ。
大「あれ?俺声でてた?テストは頑張るから!安心して、先生!」
そう言って俺が笑って見せるとクラスが笑った。
先「全く…お前は。」
そういえば最近俺を怖がる奴が減って来た気がする。
結衣が我が家に来て、学校で話していることも増えたことで俺も少し変わったのかもしれない。
ふとまた校庭を見ると、結衣の周りに駆け寄る友達と、「へっちゃらだよ~」とでも言ってる様子の結衣。
その後再開するものの、さっきまでとは明らかに走り方が違う。
もう少し頼ればいいのに。
弱音吐けばいいのに。
てか、足治ってからそんな経ってないのに無理すんなよな。
もうすぐ昼休みだし、結衣のクラスに様子見にでも行ってみるか。
≪結衣side≫
昼休みになった。
うう…さっき転んだとこまだジンジン痛む。
派手にやってしまった。
保健室行った方が良いのだけれど…
消毒染みそう…。
あとで自分で水洗いだけすればいっか。
紗「結衣!一緒にお昼食べよ!」
結「うん!待って~今行く!」
最近仲良くなった紗希(さき)ちゃんが声をかけてくれたので私は怪我のことなんてどうでも良くなっていた。
前まで1人で食べていたお昼も、今ではもう1人の友達真央(まお)ちゃんと3人で食べている。
紗希ちゃんも真央ちゃんも結構気が強くてサバサバとしているタイプ。
そしてお弁当を食べていると
大「おーい!結衣!!」
いつもと違って少し怒った顔でやってきた大雅兄。
真「ほーら。王子の登場だよ、結衣。」
結「そんなんじゃ無いって!」
大「保健室はちゃんと行ったのか?」
結「保健室?なんのこと?」
大「足、見せてみろ。」
……え?なんで大雅兄が知ってるの!??
結「いや、これは……」
紗「え!結衣怪我してんじゃん!」
真「なんでうちらに言わねーんだよ。はやく保健室行っておいで!」
そう言って紗希ちゃんと真央ちゃんはわたしの背中を押してきた。
結「いや、私は大丈夫!あとで自分でやるから!」
私が慌ててそう言うと大雅兄はものすごい剣幕で私を睨み無理矢理保健室へと連れて行った。
大「ちっ。んだよ…。保健の先生居ないじゃん。」
結「じゃあ私あとで先生が来てからまた来ようかな!」
そう言って逃げようとしたがそう上手くはいかない。
大「逃さねーよ?放置した分俺がじっくりと消毒してやるからな?覚悟しとけ。」
この笑顔は…怖い。
笑ってるけど絶対怒ってるっ!
大「ほら、そこ座って。」
結「……」
座りたくない……。
大「座りなさい。」
結「はい…。」
大雅兄に怒られて渋々私が椅子に座ると大雅兄はしゃがんで消毒液をつけ始めた。
結「痛い!!もうおしまい!!」
大「ダメ。じっとしてろ。」
逃げようとしても逃げられそうに無い。
結「…グスン。」
傷口に染みる。
大「ほら。終わったぞ。もう泣くな。泣き虫。」
結「……違う……もん。」
私が強がってそう言うとさっきまでの怒ってた大雅兄とは違う優しい顔で私の頭をぽんぽんと撫でた。
放課後。
結「ただいま~」
大「ただいま。雨やべぇ。」
放課後になって雨が降り出し、傘を持っていなかった私たちはびしょ濡れになって帰宅した。
結「私、タオル持ってくるね。」
琉「お前たち、今帰ったのか。ほらタオル。」
大「えっ。この時間に家にいるの珍しくね?今日休み?」
琉「あぁ…ちょっとな。」
私たちは琉生さんからタオルを受け取ると琉生さんはすぐに部屋へ行ってしまった。
……なんかいつもの琉生さんと違う気がする。
気のせいかな。
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