第10話琉生さんの過去
≪琉生side≫
今日は体調が悪くて仕事を休んだ。
今の仕事を始めてから自分の体調で休んだのは初めてだ。
琉「はぁ…何してんだろ、俺。情けない。」
そう言えば結衣のやつ…
前に聴診した時気になった。
喘息っぽい感じの音がしてたけどそれ以降何もないし、きっと色々あったから体調も良くなかっただけかな。
そんな事を考えながら横になっていた。
すると
結「ただいま~。」
大「ただいま。雨やべえ。」
2人が帰ってくる音が聞こえた。
今日は割と早かったんだな。
予報では晴れになっていたから傘を持って居ないだろうと思いタオルを持って行った。
大「えっ。この時間に家にいるの珍しくね?今日休み?」
琉「あぁ…ちょっとな。」
2人に体調悪いだなんて言ったら心配するだろうから俺は少し話を濁し、部屋に戻った。
それからどのくらいが経ったのだろうか。
俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
眠っている俺のおでこに冷たいタオルが置かれたのに気付き、俺は目を覚ました。
そこには1人の女性がいた。
琉「……未結(みゆう)?」
結「あ、ごめんなさい。声かけたけど…返事がなかったから勝手に入ってしまって……」
そこにいたのは結衣だった。
なんで未結だなんて名前が出てきたんだろう。
熱にうなされて夢でも見ていたのだろうか。
でも、結衣の優しい目元はなんとなく未結(あいつ)に似ている。
琉「何をしている。移るから出て行け。」
結「あ、ごめんなさい。すごく熱が高そうだったから…心配で。お食事ここに置いておきますね。あとでまた食器取りに来るので…あ、あと食欲無かったら残して良いですから。」
それだけ言うと部屋を出て行った。
琉「蟹雑炊と蜂蜜レモンのゼリー……か。」
食欲は無いが少しでも食べて薬飲まなきゃな。
琉「いただきます。………うまい。」
本当に結衣は料理上手だ。
最近大雅や瑛斗がなんとなく結衣を慕っているとは分かっていたが、俺は仕事も忙しいし、そこまで関わるつもりはなかった。
俺は、関わっていいような人間では無い。
でも彼女は本当に気遣いが良くできる。
我慢強くて、でも弱くて、心の優しい女の子。
本当にいい子だ。
俺のような人間が…必要以上に関わるべきではない。
俺は食べ終わって薬を飲むと再び眠ってしまっていた。
そしてあの頃の夢を見た。
俺と未結が出会ったのは俺たちが高校生だった頃。
未結は無口であまり友達を作らない俺とは違いいつも笑顔で元気で常に周りに友達がいるような子だった。
俺にも積極的に話しかけてくれていつしか俺らはお互いが特別な関係になっていた。
付き合いだした俺らは同じ夢を持ち、同じ医大に通ってそれなりに仲良くやっていたが、いつからか、未結は体調をよく崩すようになった。
急に熱を出したり、吐いてしまったり、お腹が痛いと言っていたり……
それでも彼女は俺と会う時はいつも笑顔で元気だった。
だから気付かなかったんだ。
本当は彼女が体調は精神的なことからきていると言うことに。
最後、彼女はたしかに助けを求めようとしていた。
あの交差点で。
あの日渡ろうとしていた横断歩道が青になり、俺が真ん中あたりまで渡った時未結は俺に声をかけた。
未「琉生、あのね……」
琉「どうした?」
彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
俺は今まで彼女のそんな弱い部分を見た事がなかったからすごく驚いたのを覚えている。
未「私……」
琉「未結、危ない!!」
バン!!!!
未結は俺の目の前で車に跳ねられた。
俺は…医大に通っていたのにも関わらず頭が真っ白になり動けなかった。
どんどんと地面に流れゆく血液。
俺はただ立ちすくむ事しかできなかった。
事故の原因は飲酒運転。
俺がもっとはやく彼女の心の傷に気付いてあげられていたら…
俺があの時手を繋いで歩いていたら……
すぐに救急車を呼んで出来る限りの処置をしていたら……
亡くならなかった命かもしれない。
彼女は本当に我慢強く、頑張り屋で、明るくて……本当に優しい子だった。
そんな子を守れなかったんだ、俺は。
俺はあの日のことを一生悔やんで生きていくんだ。
≪結衣side≫
大「琉兄どうだった?」
結「すごく具合悪そうだった。」
大「やっぱりか……。よし、ここは太陽(たいよう)くん呼ぶしかないな!」
結「太陽くん??」
誰だろう…と考えていると大雅兄はさっそくその太陽って人に電話をかけ始めた。
しばらくすると男の人がうちへとやってきた。
太「おぉ!大雅!久しぶりだな!!」
大「久しぶり!太陽くん!」
太「君が結衣ちゃんかー!たしかに未結ちゃんに少し似てるな!」
結「はじめまして。」
また未結さんって……。
一体誰なんだろう。
2人の共通の友達とかなのかな?
太「琉生は?上?」
大「うん!多分寝てる。」
太「わかった。じゃあお邪魔するね。」
そう言うとスタスタと2階の琉生さんの部屋へと行った。
大「太陽くんは琉兄と医大の時からの友達で、今同じクリニックで働いているんだ。」
結「そうなんだ。ずいぶん明るい人なんだね。」
琉生さん本当に大丈夫かなぁ。
しばらくすると太陽くんが戻ってきた。
太「今点滴打ったからすぐ熱は下がると思う。」
結「良かった…。」
太「結衣ちゃんさ、ちょこっとだけ診察させてくれないかな?」
私が安堵した様子を見ると太陽さんは突然笑顔でそう言い出した。
結「えっ?誰のですか?」
太「そりゃ結衣ちゃんしかいないでしょ~」
大「してもらえば?」
結「い、いや……でも…。」
太「痛いことはしないからさ!ちょっとだけ胸の音聴かせて!」
……えぇ。
大「結衣、大丈夫だよ。」
大雅兄にはその理由が分かってる様子だった。
そして私の背中をポンと軽く叩くと椅子に座らせた。
結「うーん……」
もう既に聴診器を首にかけ待っている太陽さん。
太「じゃ、頑張っちゃおうか!」
そう言って私の服を少しだけ捲ると聴診をはじめた。
私まだ良いよなんて言ってないのに…。
問答無用で聴診をしてくる太陽さん。
太「吸って~。吐いて~。うーん…。ちなみに結衣ちゃん今日お風呂入った?」
結「入りました…。」
太「お!じゃあちょっとシールぺったんするね。明日お風呂入る時には剥がしていいから。」
そう言うと私の胸元にぺたんとシールのようなものを貼った。
太「本当は採血もしたいけど、今日はそのシールで様子見かな。」
結「……」
この人……琉生さんの診察に来たはずなのになんで私のこと診察したんだろう。
しかも採血なんて……
絶対したくない。
私がそう疑問に思ったのを察したのか太陽さんは口を開いた。
太「でも真面目な話。結衣ちゃん少し呼吸が辛そうだからそのお手伝いが出来たらなって思ってる。検査してくれる気になったらいつでもクリニック遊びに来てな!琉生も結衣ちゃんのこと心配してたぞ?」
結「……。」
この前言っていた喘息……の事かな。
でもいくら琉生さんが心配してくれていても申し訳ないが採血はしたくない。
それからもしばらく太陽さんと大雅兄と3人で話をした。
太「そろそろ点滴終わってる頃かな。様子見てくるね!」
そう言って席を外した太陽さん。
結「ごめん。私も部屋行くね。」
大「あ、結衣。」
結「ごめん。ちょっと休みたい……。」
呼び止める大雅兄を受け流すようにして私は部屋に戻った。
なんとなく今日は少し体が疲れてる。
そう感じていた。
≪琉生side≫
琉「ん……」
目が覚めると体はだいぶ軽くなっており腕には点滴が繋がれていた。
太「おー起きたか。おはよう。」
琉「太陽…来てたのか。」
太「大雅と結衣ちゃんが心配して連絡くれたんだよ。今どき珍しいぞ~往診なんて。」
琉「だな…。悪かった。」
太「そこはありがとうだろ~?アホが。」
そう言うとパチンとデコピンをしてきた。
琉「結衣は体調大丈夫そうか?」
太「気圧の変化は喘息悪化しやすいからな。」
琉「あと今日ビショビショに濡れて帰ってきた。それに…最近よく笑ってるんだよ、あいつ無理してるのかもしれない。」
太「それを元気になったって捉えることは出来ねぇの?」
……たしかにそうだ。
太陽が言ってることは間違えていない。
でも何か引っかかるんだ。
太「とりあえず今は自分の心配でもしてろ。普段熱なんて出さないから結構辛いだろ。」
琉「そうだけど…。」
結衣を見てるとどうしても思ってしまう。
なんで未結を助けられなかったんだろうって。
俺なんかよりもよっぽど周りに好かれ、愛され、生きる価値あったのに。
俺が未結を殺したも同然なんだ。
太「まぁぶっちゃけさっき結衣ちゃんの音聴いたけど…多分喘息だと思う。詳しい検査してみないと分からねぇけど。」
少し深刻な表情でそう言った。
やっぱりか。
あいつのことだから無理して大丈夫と受診しなかったんだろう。
太「ていっ!!」
俺が少し考え込んでいると頭を思い切り叩いてきた太陽。
琉「痛……」
太「確かに結衣ちゃんは未結ちゃんに似てるよ。でもそれだけだ。心配ならはやく体調治して結衣ちゃんに検査の説得をすることだな。」
琉「わかってる。」
太「今は具合が悪くて気が滅入ってるだけだ。とりあえず少しは落ち着いたみたいだし、俺はもう帰るからな。」
琉「ありがとう。助かった。」
それだけ言うと太陽は部屋を出て行った。
何俺は悲観的になってるんだ。
はやく治して結衣を見守れるようにならないとな。
あと…検査の件も……
きっと嫌がるだろうな。
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