第8話 優しい瑛斗さん

≪結衣side≫




次の日私は学校を休んだ。


大雅兄は休むと言い張っていたが、秀先生や琉生さんに無理矢理連れて行かされていた。



私はと言うと足首を痛めて立つのがしんどいためベッドに横になっていた。




するとコンコンと部屋をノックする音が聞こえた。



瑛「俺だけど、今平気か?」


結「瑛斗さん…」


瑛「俺これから雑誌の撮影があるんだけど…お前も来い。」



結「え?」


瑛「それと俺もお兄ちゃんと呼んでおけ。分かったな。なら着替えて行くぞ。」



そう言うと強引に瑛斗さんは私を外に連れ出した。


ざ、雑誌の撮影!?


え??



私は頭が混乱しながらもついて行くことに。



移動はマネージャーさんと思われる方の運転する車だったからそこまで不安は強くなかった。



が昨日の一件でメガネが壊れてしまったのだ。


それを見て瑛斗兄は「ちょうどいい。」と言っていた。


どーゆー意味なのだろうか。




撮影場所についてすぐカメラマンの方に声をかけられた。



カ「瑛斗の彼女?」  


結「あ、違います!妹の結衣です。はじめまして。」


私が挨拶をするとカメラマンさんは私を凄い形相で睨みつけるとどこかへ走って行ってしまった。




何か失礼な事をしてしまったのか……


にしても変な人だなぁ。


芸能界はこんなものなのだろうか。






するとカメラマンさんは戻ってくるなり何人か人を連れてきた。



「わー本当だ。とっても可愛い。瑛斗くん。ちょっと妹さん借りるね!行きましょ。」



と言ったその人は男性なのに女性のような言葉遣いをする人だった。


「えっと…あの……」


私が慌てていると瑛斗兄が近付いてきて


「大丈夫だ。この人たちはお前を悪いようにはしないから。行ってこいよ。」




そう耳元で囁くように言うと私の背中を押す瑛斗兄。



瑛斗兄は普段は意地悪だけど。本当は優しい人。

だからなんとなく大丈夫だって思えた。




するとその女性のような男性は私を大きな鏡のある部屋へと連れて行った。



すると大きな箱をパカリと開けて中からはたくさんのメイク道具。



すぐにこの人はメイクさんなのだと分かった。


そして私はその方にメイクとヘアメイクをしてもらうとまた別の女性に可愛らしい洋服を着せてもらって成り行きで写真を撮られている。




カ「じゃあまず瑛斗と一緒に撮ろうか。瑛斗リードしてあげてね!」



そう言うととてもたくさんのライトに照らされた。



………緊張する。



カ「結衣ちゃん。リラックスして~!」


パシャパシャと写真を撮られていく。




リラックスって言われたって……。



私が戸惑っているとその様子を見た瑛斗兄は私に声をかけてきた。



瑛「結衣。これ終わったら飯食いに行こうか。何食べたい?」



結「え?今?」


瑛「うん。今。」


結「甘いもの…とか?」


瑛「いいね。みんなに内緒で2人でクレープでも食べちゃう?」


結「クレープ!私食べた事ないんです!」


瑛「そうだったのか。じゃあ楽しみだな。」



結「はい!」


瑛「こら。敬語。」



結「あ…えと…」


私が焦ってるのをみると瑛斗兄はクスリと笑い笑顔になった。


それにつられて私も笑顔になるとカメラマンさんが声をかけてきた。



カ「いいねー!2人とも最高だよ!少し休憩しようか!」



あ、そういえば私いつの間にか緊張ほぐれてた。



瑛斗兄ってすごい人なんだなぁ。



なんだか…尊敬するなぁ。




≪瑛斗side≫



その日はそれから俺だけの撮影も終えて、2人でクレープを食べに行くことになった。



雑誌には結衣と2人で撮った写真も使われることになった。



俺が結衣を連れて行った目的は、結衣を連れて行けば誰かしら結衣に興味を示すと思ったから。



まさか今回の雑誌で取り上げられるとは思っても見なかったけど。



結衣の周りには人が少なすぎる。

それを望んでるのかもしれないが。


少しでも注目されるようになれば、敵こそ増える可能性はあるがその分味方や気にかけてくれる人が増える。


そう思って連れてきた。




結「あ、あの、今日はありがとうございました。」


瑛「だから、敬語。」



結「あ……」


何度言っても治らねぇ、こいつの敬語。



大雅にはタメ口なくせに。



なんか気にくわねぇ。

大雅だけに慣れてる感じがすげー腹立つ。






それに俺といると少しびくついているようにも見える。



結「瑛斗兄はどのクレープがお好きですか?」


また敬語……


瑛「そーゆーお前は?」



結「迷っておりまして……」


そう言って結衣はいちごチョコとキャラメルバナナの2つを見比べていた。



瑛「じゃあ、このいちごチョコクレープとキャラメルバナナクレープひとつずつ下さい。」


店「かしこまりました!!」



結「えっ?」


瑛「お前が食いたいの2つ頼んで分ければどっちも食えんだろ。」


俺がそう言うと、結衣は笑い出した。



瑛「何がおかしい。」


結「とてもお優しいなぁって思って。瑛斗さんの優しさって相手をものすごく考えてくれて、とても気遣いのある優しさだな…って。それは誰にでも出来ることではない…です。」




こいつはよくこんな恥ずかしげもなく言葉並べられるな。



瑛「ったく。本当お前は変なやつだ。お前といるとなんか調子狂う。」



それからクレープを分けて食べると俺らは家路に着いた。











結「た、ただいま…」



大「あーーーっ!!結衣どこ行ってたんだよ!!」



結衣が帰るとすぐさま結衣を出迎える大雅。

どちらかと言うと大雅の方が犬っぽい。



結「瑛斗さんに職場見学をさせていただいて……」


大「ずっと2人だったの?」


結「いや、そーゆー事ではなく…」




大「メガネはしていかなかったの?」


結「昨日の一件で壊れちゃって……」




大「そっか!じゃあもう学校でもつけなくていいな!」



結「え!!それはちょっと……」


大「大丈夫!!学校では俺がついてるから!!」



瑛「お前が付いていながら襲われそうになったんだろ。こいつは。」



結「………」


大「ギリギリセーフだもん。」




……だもん。ってなんだよ。結衣の前だからって可愛子ぶってんじゃねーよ。




結「も、もう大丈夫だから……私少し部屋に行くね!!」



そう言って結衣は少し暗い顔をして部屋に行ってしまった。



今サラッと思い出したくない事思い出させるちまったな。



やっと今日笑顔が見れたと思ったのに。




なにやってんだ、俺は。




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