第5話 縮まり始めた距離


≪結衣side≫



あれから割とあっという間に治った私の風邪。






そして……



兄妹仲も少しは距離が縮まった気がする。













大「おーい!結衣!!」



結「大雅…先輩……わざわざ学校で話しかけなくても…」




大雅兄と話してるとかなり視線を感じる…


それほど大雅兄が人気って事だけど……




私は出来るだけみんなに見られる事を避けたい。








そのためもあるけど……


学校では大雅兄ではなく大雅先輩と呼んでいる。







大「いいだろ。別に……。あ、今日放課後出かけるからな。空けとけよ。んじゃ!」



結「え…ちょっと待っ……」



行ってしまった…

 



話しかけてほしくないとは言ったけどこんなあっさり……



私の返事も聞かずにって……






まぁ、今日特に用事があるわけでもないから良いけどさ。








バイトも禁止と言われてしまったし……






















~放課後~





大「結衣~!お待たせ。」



結「大雅兄…そんな大きな声で名前呼ばないでよっ」



大「でかい声出さねーと声届かねーだろ?」



いやいや。だとしても大雅兄は声がデカすぎるんだよーっ





もう少し自分が目立つ存在だと言うのを自覚して頂きたい……











結「…で。どこ行くの?」



大「え?デート。」



結「デ、デート!???」



大「冗談。そんな顔真っ赤にして喜ぶなって。」



結「別に顔真っ赤になんてしてません!!」



大「喜んでるってとこは否定しないのな。」



ニヤニヤしながら頭をポンポンとしてくる大雅兄。



別に喜んでもないもん。









大「さーて。じゃあ行くか!!」



結「え?結局どこ行くの?」



大「決まってんだろ?お前の服を買いに行くんだよ。」



私の服!?



あぁそういえば約束したっけ。


半ば強引だったけど…



覚えててくれたんだ。







もちろん買い物は近くの商店街



……ではなく。





大きなデパート!!





今まで友達ともあまり遊ばず、お母さんともあまりお出かけしなかった私からすると遊園地みたい。





≪大雅side≫





前に約束した通り結衣の服を買いに来た俺ら。




結「ねぇ大雅兄!!見て見て!!ここ観覧車もあるよー!!」



大「あとで乗るか?」







結「え?いいの?」



冗談半分でそう尋ねてみるとキラキラと嬉しそうな顔をして俺を見る結衣。






あ、乗りたいのね。


面白い奴。


普段は真面目ではしゃいだりしない奴だからこんな事ではしゃぐなんて意外かも。





結「わーすごい!!広ーい!」



大「こーゆーとこ来た事ねぇみたいな言い方だな。」



結「うん!!初めてっ!」 




初めて…か。



こいつはあまり友達と遊んだりとかしねーのか?



あ、でもバイトやら家事やら忙しかったって言ってたっけ。





にしてもだが……



大「ほら。とりあえず服探しに行くぞ。」



そう言って俺は結衣の手を引いた。



結「え…?」



大「お前はしゃぎすぎ。はぐれるから。」



結「う、うん……」




こーゆーことも初めてってやつか……?















大「好きなブランドとかあるか?」



結「ブランド…んー……?」



こーゆーとこ来ないって言ってたもんな。


とりあえず適当に店入るか。






俺はいつもの行きつけの店に入った。





メンズ、レディースどっちもあるし



家族でよく行くお店で店長も良くしてくれるからぶっちゃけ入りやすかったりする。




店「いらっしゃいませ。おぉ。大雅さん!」



大「こんちわ。」



店「何かあったらいつでもお声かけてくださいね。」



大「ありがとうございます。」





店に入ると共に早速挨拶をしにきてくれた店長さんと軽く言葉を交わすと結衣の方を向いた。




大「さーて…どんな服が好み?」



結「あの…えっと……」



大「ん?」



結「すごく可愛い服ばかりなんだけど…あの…お値段があまり可愛らしくないと言いますか…」



結衣は小声でそう言った。



大「あ…値段気にしなくて良いよ。」



結「え!?いや。ダメだよ!!」



大「本当気にしなくていいから。これと…これと…これも。ちょっと着てみて。」



結「う、うん…」






府に落ちない顔で着替えていく結衣。



結衣は目立つ色や暗い色よりはパステルカラーが似合うタイプ。



デザインもあまり派手なのは似合わないから落ち着いた雰囲気のものを何着か選んだ。













大「じゃあ、コレもらって良いですか?」



店「かしこまりました。ただいまご用意します。」








店「お待たせいたしました。」



大「ありがとうございます。じゃ、行くか。」



結「あれ?お会計は?」



大「あー大丈夫。このデパートの社長は俺の親父と取り引きしてるから、基本的払わないんだ。」



結「す、すごい……」



大「あとなんか必要な物あるか?日用品とか。」



結「んー。なんだろ?あ、英語のファイルが欲しいかな。」



大「ファイル?持ってなかったの?」



結「いや、中学の時使っていたのをそのままだったから壊れちゃって。」



大「え。全教科使い回し?」



結「そうだけど。」



大「なら全教科分だな。」







≪結衣side≫




それから私たちは必要なものを全て買って約束の観覧車!!







結「わー!すごーい!!たかい!!観覧車ってこんな高くまで上がるんだ!」



大「乗ったことねぇみたいな言い方だな。」



結「ないよ。お父さんが私が小さい時に亡くなってそれからお母さんお仕事ずっと頑張ってたから。」



そう。


ずっと仕事が忙しそうだったお母さん。



遊園地に行きたいなんて言えるわけがない。



だから私も必死になってここまで頑張ってきた。




私には無縁の乗り物だと思ってたから。





大「初めて…か。ならさ…」



結「ん??」



そう言いかけた大雅兄は立ち上がり私の正面から隣へと移動した。



ぐらりと一瞬だけ揺れる観覧車はもうすぐ頂上。



大雅兄は頂上のあたりに来たのを確認すると、私の頬に軽く手を当てて……


優しく私のおでこにキスをした。



結「え……っ!?」












結「大雅兄……っ」



大「観覧車のてっぺんで口付けを交わしたカップルは一生結ばれるって知ってっか?口じゃねぇけど。」



結「え……?だ、ダメだよ。大雅兄!!私みたいなこんなどこの骨かも分からない人と……」


大「お前はお前だろ。」



結「うん。そうだけど…でもっ」



大「俺さ、お前のこと嫌いだった。お前にとっては聞きたくない話だったかも知れねぇけど。」



結「そんな事ないよ。」


大「ごめん。色々こまらせて。」



結「私もみんなのこと本当に大好きだよ!!」



大「みんな…か。」



そう呟いていたのには私は気づかなかった。



だってお母さん毎日辛い。もう嫌だって言ってた。


それなのに今の楽しそうなお母さんを見る事ができるのはこの人たちのお父さんのおかげだ。




今だって私幸せだもん。



そんな事を考えていると私は涙が止まらなくなった。




結「ありがとう…本当に……」



大「なんで……ごめん。キスがそんなに嫌だったか。ごめん。勝手に。」



結「違う…違うの…。みんなには本当に感謝しかないの。ありがとう。」



大「俺は今はお前のことが気になってしょうがない。」




結「本当に……ありがとう。」



優しくしてくれて。そして家族として迎え入れてくれて。




そう言って私は泣き続けた。




大雅兄はずっと困っている様子だった。



でも私にはその空間がとてつもなく幸せで…どうしようもなかった。


















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