第4話 不器用な優しさ
≪結衣side≫
10時頃大雅兄と話したのは覚えてるけど……
あのあとすぐ寝ちゃったんだな。
私はゆっくりと体を起こして時計を確認すると12時前。
なんかちょこちょこ目が覚めるなぁ。
なんか……お手洗い行きたくなってきた。
立ち上がりお手洗いまで歩こうとするけどなんかフワフワしてうまく歩けない…。
結「ケホケホ……ゴホッゴホッゴホッ」
やばい。いつものだ。
私は何日かに一度咳が止まらなくなる時がある。
呼吸も苦しくなるけど、しばらく耐えればすぐ治るから病院には行ったことがない。
結「ゴホッゴホゴホッ」
やばい。
大雅兄お昼になったら起こしに来るって言ってたからはやくしないと戻ってきちゃうよ。
こんな姿見せたら絶対心配かけちゃう。
はやく治まれっ!
でも焦れば焦るほど咳はひどくなる一方で…
どうしよう。
このままだと本当に戻ってきちゃう。
それに…
いつもとは比べ物にならないくらい苦しくなってきた。
熱のせいかな。
ひとまず私は大雅兄にバレないように口元に先ほど瑛斗さんがくれたクッションを当てた。
治まれ。治まれ。治まれっ!
そう強く願うけど…
なかなかそう上手く治りそうもない。
すると…
コンコン。ガチャリ。
大「結衣…起きてたのか?」
大雅兄がドアを開けて入ってきた。
喋ると咳がバレてしまいそうで言葉が…出ない。
大「まだ寝てなきゃダメだろ?クッションに顔埋めてどうした??辛いのか?」
心配そうにそう尋ねてくる大雅兄にさえ首を振るのが精一杯。
だんだんとトレーを持っている様子の大雅兄は私に近づいてくるのがわかる。
大「結衣…?」
結「大…丈夫……だよ。」
大「ん?ちょっと背中ごめん。」
そう言うと大雅兄はゆっくりと背中をさすり始めた。
大「結衣、クッション貸して?」
結「……」
貸してと言われてもクッションがないと咳を隠せない。
私は必死にクッションにしがみついた。
大「クッション禁止。貸せ!!」
結「ゲホッゲホッゲホッ!!」
呆気なくとりあげられてしまった……
大「ほら。咳出てる。ゆっくりと呼吸して。」
貸せと言って少し乱暴に取り上げた大雅兄はすぐさま優しい声でそう言い、私が呼吸しやすいように一緒に深呼吸をしてくれた。
大「だいぶ落ち着いて来たな。ったく…こんな涙目になって……」
少し怒った口調の大雅兄だけど涙目になった目元を優しく指でなぞり涙を拭いてくれた。
結「ごめんなさ…」
大「俺は……お前が辛い時は全力で支えるし、お前が1人になったら絶対見つけて側にいてやる。だから1人で苦しむ事はすんな。もっと頼ってくれよ。」
結「大雅…兄……」
どんな顔をしていいのか分からなかった。
寂しそうに…でも頼れるお兄ちゃんの顔でそう言ってくれる大雅兄。
今まで1人で乗り越えるのが当たり前だと思っていた。
お母さんだっていつも仕事を頑張ってて…
だから家に1人でお留守番しなきゃいけなくて。
周りには「偉いね。」って言われるけどうちでは「当たり前。」
風邪を引いてもお母さんには心配も迷惑もかけたくないから秘密にするし
虐められても、自分さえ気にしなければ大丈夫だと思って生きてきた。
今私が大雅兄に言われた言葉。
それはものすごく温かくて、優しくて、嬉しい言葉。
それなのに…
嬉しいはずなのに…
どうして笑顔ではなく涙が出てくるんだろう。
大「何も心配すんな。泣きたい時は泣いていいから。」
涙が止まらなくなった私を大雅兄は優しく抱きしめて涙が止まるまでずっとそばにいてくれた。
≪瑛斗side≫
俺のせいで風邪を引かせた。
てか…
琉生→仕事
秀→仕事
大雅→学校
あいつ……
まさか1人!?
別に心配なんて……
してねぇけど……
なんかモヤモヤする…
そんな中行われた撮影ではもちろん集中出来るはずもなくて……
マ「一応言っておくけど…撮影が延期に出来るのなんて滅多にないんだからね。明日には完全復帰して仕事に集中すること。いいわね?」
瑛「分かってる。」
アイツの事が気がかりで撮影を延期してもらい家まで送ってくれたマネージャーの新庄にピシャリと言われてしまった。
はじめて仮病つかった……
別にあいつの事が心配だったわけでは……
ない……はず。
なんつーか。
俺が風邪引かせたようなもんだから
きっと罪悪感ってやつだ。
そうに違いない。
瑛「ただいま。」
玄関を開けると部屋の中はシンとしている。
そりゃそーか。
あいつしかいないんだもんな……
大「瑛斗兄…今日はやくね?」
瑛「は?なんでいるの?学校は?」
大「サボった。」
こいつもかよ…
んだよ…
なら帰って来なくたって良かったじゃねーか。
瑛「んで。結衣は?」
大「今落ち着いて寝たとこ。起こすなよ?」
瑛「起こすかよ。」
だいたい…
あんなやつ興味ねぇし。
俺の周りには女優やらモデルやら美人には見慣れてる。
あんな豆狸みたいなの……
俺はまだ妹だなんて認めねぇから……
でも…
様子くらい見に行ってやらなくもないか。
瑛「お前の部屋…入るわ。」
大「おーけー。じゃ、俺買い物行ってくるわ。」
やる気のなさそうな感じで家を出て行ってしまった大雅。
結局2人きりかよ。
コンコンとノックをして大雅の部屋へ行くとさっきあげたクッションを握りしめながら眠っている結衣の姿があった。
ハァハァと辛そうな息遣い。
そっとおでこに手を当てるとかなり熱い。
瑛「ったく弱っちぃな……」
これだから女は……
結「……ん。」
やべ…
起こしちまった。
結「大雅兄…?」
大雅兄?
あいつもうそんな仲良くなってんのかよ。
瑛「違う。俺だ。」
結「あ…瑛斗さ…」
俺だと分かるなりすぐに起き上がった結衣。
瑛「起き上がるな。寝てろ。」
結「はっ…あの…えっと…」
瑛「別に無理に喋ろうとしなくていい。あと…これ。」
そう言って俺はコンビニで適当に買ってきたゼリーやドリンクを渡した。
結「これ……」
瑛「別に俺は心配なんてしてねーし、妹って認めたわけではないからな。」
俺が少し強めにそう言うと、気分を害すどころか結衣は途端に笑顔になった。
結「ふふ。」
瑛「何がおかしい。」
結「ごめんなさい。でも瑛斗さん本当はすごく優しい人なんだなって。」
結衣は笑顔でそう言った。
アホか。こいつは。
俺は犬と称して無理強いばかりしたのに。
≪結衣side≫
ごっそりとたくさん色んなものを買って来てくれた瑛斗さんはどこか不器用で。
でも優しい気持ちがすごく伝わってきて私は嬉しくなった。
それから1~2時間後くらい経った頃だろうか。
大「結衣……遅くなったけど飯食えそうか?」
結「うん。大雅兄ありがとう。」
大「いいよ。別に…それよりその袋…」
結「瑛斗さんが…」
大「…んだよ。あいつ…」
結「ん?何か言った??」
大「いや。なんでもねぇ!」
私は段々と薬が効いて来たのか少し体調はマシになっていた。
大「顔色少しは良くなったな。」
結「みんなのおかげだよ!ありがとう!」
大「ま、飯くらい作ってやっからまだ無理はするなよ。」
結「うん。」
私はそのまま大雅兄が作ってくれたお粥を食べて再び寝ると起きた頃にはもうだいぶ体が軽くなっていた。
現在の時刻は18時。
本当ならバイトしているか夕飯の準備をしている時間だ。
私……こんなに休んでていいのかな。
いくら熱があったとはいえ…
もう体だってだいぶ楽だし…
今までは熱があっても基本的には家事やバイトはしてたし……
ちょっと甘えすぎなのでは?
日中大雅兄に色々してもらったし、夕飯くらいは作らないとだよね。
よし!作ろう。
まずは冷蔵庫の確認だ!
思い立ったらすぐに行動しなくてはっ!
私はエプロンを持ってキッチンへと向かった。
結「鶏モモ肉は日にち近いし簡単に唐揚げでいいかな。」
早速調理に取り掛かる私。
料理するのは割と好きなのよね~
一応風邪を移さないようにマスクをしながら作っていく。
唐揚げと大根のサラダ、それとお味噌汁とご飯にしよう。
手抜きに思われるかな??
まぁ病み上がりだしこんなもんか。
たんたんと料理をしていくと意外と出来るのはあっという間。
よし。完璧!!
少し疲れて来たからまた横になろうかな。
そう思いキッチンを出た瞬間だった。
グラン……
結「……っ」
今視界が……
そのまま私の体は熱を帯びたまま倒れそうになった。
でも
なんか体がかるい…
瑛「ったくお前は何してんだよ!!」
慌てて駆けつけてくれた瑛斗さんの腕に包まれていた。
瑛「本当お前は目が離せねぇな。何してんのかと見ていればこれだ。」
みてたの?
料理作ってるのを??
でも謝りたいけど…
言葉が出ない。
私の体…割と弱いんだな。
ダメだ。意識失いそう。
そう思った時にはもう遅くて気付けば私は眠っていた。
次に起きたのは21時頃。
琉「起きたか?おはよう。」
少し強めの口調で少し怒ってような顔で琉生さんは私の横になっているベッドサイドに立っていた。
結「おはよう…ございます……。ごめんなさい…!私…」
琉「ここにいるの奴らは決してお前の敵ではない。今までたくさん苦労してきただろうが…今はもう無理しなくていい。休まなきゃいけない時くらいしっかり休め。」
そっか。
私…また迷惑かけたのか。
大「結衣…迷惑なんて考えなくていい。お前はお前らしく居ればいい。」
そう私に近づきながら言ってくれたのは大雅兄。
結「大雅兄……」
琉「いや、まて。お前いつから大雅兄なんて呼ばれるようになったんだよ?!」
大「いやっ!違!!」
突然の琉生さんのツッコミに顔を真っ赤にして焦る大雅兄。
なんか…
結「ふふ。あははっ!」
大「おいっ!!何笑って!」
結「ごめんなさいっ…だって…」
だって……
すごく沢山の優しさを持ったお兄ちゃん達。
なのにみんな不器用なんだもん。
何故だか笑いが止まらない。
ありがとう。
お兄ちゃん達。
改めまして、これからお世話になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます