第3話 結衣の過去

≪秀side≫







秀「寝たね。俺らもリビングへ行こうか。」


琉「だな。」



眠り始めた結衣ちゃんを後にして俺らは部屋を出た。






大「てかさ、なんであいつあんなメガネかけてるわけ!?」



そう大雅が言い出した。


そうだよな。不思議だよな。


普通のメガネならともかく彼女は伊達メガネ。


疑問に思うのもしょうがない。











俺は一応噂で聞いたくらいだけど…










中学時代の彼女は容姿からしてかなりモテていたらしい。







もちろん今だってメガネさえ取ってしまえばかなり可愛い。




スタイルだって細すぎるくらいで背は低いがモデルも目指せるようなレベル。








そんな彼女は周りの女子からも嫉妬され、虐められることも多々あったそうだ。






そして事件は起きたらしい。










それは誘拐事件。











可愛い彼女は周りからも注目の的。






もちろん異常な感覚を持った人からも。










幸い恐れている事が起きる前に犯人は捕まったらしいが………










それ以降は引っ越しをし、彼女は眼鏡をするようになったらしい。















大「ふーん。じゃあ、秀兄は知ってたの?あいつの眼鏡を取った姿。」


そう言いながら俺を少し睨みつける大雅。



秀「そりゃまー見る機会は多々あったからな。」



琉「でもま、俺らの妹になった時点で……な。」



大「うん。だな。」






は?どゆこと??






なんだか段々と兄弟の意思が変わってきているような…



結局顔かよ。










大「とりあえず俺あいつにおかゆ作るわ。」




秀「あ。お、おう。」






そう言って大雅は結衣ちゃんに食べさせるようのお粥を作り始めた。





琉「にしても……酷いな。その話。」



秀「あぁ…それなのに夜遅くまで、そして早朝くらい時間からバイトって……」



琉「え!?結衣ちゃんそんな寝てないの?」



秀「最近授業中も集中できてないっつーか……成績も落ちてきてる。」



琉「……………」





明らかに俺らのせいだよな。








瑛斗がお弁当を作らせたり家事をやらせていたのはさっき聞いた。





なんで今まで気付かなかったんだろう。



勉強も頑張っていた彼女が真夜中起きてバイトもしてるのにお弁当を用意して……



それがどんだけ彼女の負担になっていた事か。





……それは計り知れない。




俺らの弁当が空から降ってくるわけがない。






5人分を結衣ちゃんは毎朝作っていたんだ。






いつのまにかお弁当を作るのが当たり前になっていた。








それに結衣ちゃんの作るご飯は今までたくさん食べてきた外食とは違う温かい味がする。





でも……










琉「結衣ちゃんはバイト禁止。そして俺らも前以上に家のことはもちろん、自分のことは自分でやろう。料理は交代制な。」



「「おう。」」



それが俺らが強く意思決定した始まりの日だった。







≪結衣side≫








結「………。」



あれ?私…。




大「起きたか?」


私の目が覚めたとき、大雅先輩が顔をのぞいていた。


そのあまりの顔の近さに少し戸惑ってしまう私。


結「え!?あ、うん。。」



大「お粥…作ったけど…食えるか?」


と言って手に持っていたのは土鍋に入ったとても美味しそうなお粥だった。


それを見た瞬間、ありがたい気持ちと申し訳なさが入り混じる。


結「お粥!?ご、ごめ……」



私がそう言いかけた時、私の口元に大雅先輩の細くて長い人差し指を当てられた。





大「謝るの禁止。少しくらい頼れ。」  



その瞬間心臓がドキッとしてしまうのを感じる。




結「う、うん…」






大雅先輩の事…



こんな近くでまじまじと見たの初めて。









大「体起こせるか?」


そう言いながら私の背中に手を添えて起き上がらせてくれる大雅先輩。





結「ありがとう…」



なんか…



こう近くで見ると…

本当に顔整ってるなぁ。





まつ毛長い。






改めて大雅先輩がモテる理由わかる気がする。




かっこいいし…


優しいし。








本当に











王子様みたい。

















大「……もう良いのか?」





割と残してしまった……


せっかく作ってくれたのに食欲がない…




結「あとで食べる…置いておいて?」




大「あとで食うならまた作るから。」




結「でも…」




大「でも、は禁止。とにかく今はねてろ。」


だけど…こんなにも私ばかりゆっくりしていていいのだろうか。


私はこの家の犬…なんだもん。




結「みんなはご飯ちゃんと食べた?」




大「病人はなんも考えずに寝てりゃいいの!ほらっ!」




そう言って再び私の体を横にしてくれる大雅先輩。







大「まだだいぶ辛そうだな。」



そう言いながら大雅先輩は自分のおでこと私のおでこをピタリとくっつけた。





結「っ!?」



か、顔が……近い………



声にならないような声が出てしまうとゆっくりと大雅先輩は顔を離した。




大「まだ高いな……っておい!顔真っ赤だぞ!?さては…やらしーことでも想像した?」



結「ち、違っ!!」



大「冗談だよ。これくらい慣れろ。これから俺らの妹なんだ。じっくり可愛がってやるから。」




意地悪そうな笑顔でそう言ってくる大雅先輩に再び私の顔はみるみるうちに熱を帯びる。





うう…本当に心臓に悪い……




早く治さないと…



これじゃ悪化する一方だ……







それからしばらく大雅先輩は私の頭を撫でてくれた。




結「あ、あの…大雅先輩っ」



大「……」



結「大雅先輩?」



大「大雅先輩??」



結「へ?」



大「もう家族なんだ。先輩は無しだ。」




先輩…がダメなら…



大雅くん?大雅さん?



………なんて呼べば良いの!???




結「大雅にぃ…とか??」



大「……っ。べべ、別に俺がそう言われたいとかじゃなくて一般論としてだからな!」



結「確かに…じゃあみんなお兄さん呼びしなきゃだ…」



大「お、おう……。じゃ、俺ちょっとこれ下げてくるな。」



そう言って部屋を出ていく大雅兄。



なんか顔赤いし挙動不審…。




もしかして風邪移しちゃったのかな……。







≪大雅side≫






…………。



心臓止まるかと思った。



#結衣__アイツ__#のことだから『大雅さん』とか言うと思ったけど……




『大雅兄』は反則だろ。




そんな事を考えながら下げた食器を片付けていく。





琉「は?お前顔赤くね?もしかしてお前も熱……」



大「そんなんじゃねーよ!!」


からかってくるような琉兄に俺が慌ててそう言うと琉兄はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。



琉「………初々しいねぇ」



大「……は!?」



琉「なんでもないよ~」




ムカつく。馬鹿にしやがって……




あーもう。








琉「じゃ、結衣ちゃんの点滴も終わったし俺もそろそろ仕事行くわ。お前も遅刻しないように行けよ。」




大「へーい。」











時間忘れてたけどなんやかんやもう7時半か…



着替えればもう学校も行けるけど…



俺が行ったらあいつは1人になるんだよな…




今日はサボろうかな。





そう思いながら俺は部屋のソファに横になった。





気づくといつの間にか眠っていて


再び起きたのは10時頃。



結衣の辛そうな息遣いだけが聞こえてくる。




眠っている結衣のおでこにそっと手を当てると……



ん?さっきよりまた更に熱上がってねーか??





薬ちゃんと効いてんのかよ。





結「ん……大雅兄??」



大「わりぃ。起こしちゃったな。」



結「大丈夫だよ。それより…え!?10時…学校は??」




そう言いながら焦って起き上がる結衣は顔も赤くてまだ辛そうなのがわかる。




大「起き上がんな。まだ寝てろ。」



結「もうだいぶ良くなったから大丈夫だよ?」



いや…どこがだよ…



大「とりあえず熱測れ。」



結「え…」



俺が体温計を渡すと嫌そうな顔をしながらも渋々測る結衣。







そして体温計がなると同時に結衣からとりあげた。



熱は40°C近い……



結「ちょっ…」




大「さっきもだけど…これのどこが大丈夫なんだっつーの。お前はなんの心配もしないで寝てりゃいいの!」



結「ごめんなさい…。」



大「ったく。手のかかる妹だよ。」



結「妹…」



大「妹だろ?」



結「そうだけど…大雅兄にそう言ってもらえると嬉しいっ!」




……っ!!馬鹿野郎。



そんな笑顔で言うんじゃねぇよ。


たしかにこいつは眼鏡がある意味で似合ってるのかもな。










そーいえば……

さっきから思ってたけど…






結衣の呼吸の音おかしくねぇか?




なんかゼーゼーいってる感じ。



風邪のせいならいいけど……





大「なぁ。結衣ってさ、喘息持ち?」



結「喘息??んー。言われた事ないよ?」




言われた事ない?



なら大丈夫そうか…?






大「ならいいけどさ…とりあえずもう寝てろ。お昼頃また起こすから。」



結「ぅん…ありがとう!」





そう言うとまだかなり怠いのか結衣はすぐに眠りについた。







にしても…



本当顔整ってるなぁ…














大「結衣…早く熱下げろよ。もう無理はすんなよ。」



って言ってみるけど…



眠ってる結衣には何も聞こえてはいなかった。





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