第88話 父からの知らせ
丁度その時、私は自室にこもってデリクさんがプレゼントしてくれたミシンを使ってティーポットカバーを縫っていた。
もう少しで夕食の時間という頃―。
コンコンコン
「アンジェラ、私だ。部屋に入ってもいいか?」
ノックの音と共に父の声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
ミシンを掛けながら返事をすると、すぐに扉が開かれて慌てた様子で父が部屋の中へと入ってきた。
「お帰りなさいませ、お父様。一体どうされたのですか?」
ミシンの前に座りながら父に声を掛けた。
「た、ただいま…」
余程父は慌てて来たのだろう。肩で息をし、髪も乱れている。そして私に言った。
「ア…アンジェラ、いいか?落ち着いて聞いてくれ」
「はい、お父様」
私は居住まいを正すと返事をした。そして次の瞬間、父の口から衝撃的な言葉が飛び出してきた。
「大変な事が起こったんだ。デリクさんが…本日路地裏でいきなり暴漢に襲われたそうなのだ!」
「えっ?!そ、その話…本当ですかっ?!そ、それで…デリクさんは無事なのですよねっ?!」
「ああ、命に別状はないらしい。彼は今日…どういうわけか教会を訪ね歩いていたそうなのだが、路地裏に入ったところで背後からいきなり殴られて意識を失ってしまったそうだ。そこを通行人が発見し、警察を呼んでくれてそのまま病院へ運ばれたらしい。でも今は意識も戻ってしっかりしているよ。ただし今日は1日安静の為に入院して、明日退院するそうだ」
「そ、そうですか…それなら良かったですが…どうしてお父様がそこまで詳しくお話をご存知なのですか?まるでデリクさん本人から話を聞いてきたみたいですね」
「そうだよ。彼本人に会ってきたからね」
「そうなのですかっ?!で、でも…何故会えたのですか?」
「実は今日はウッド家から引き継いだ農園の件でコンラート家に行ってきたのだよ。丁度パメラが出所して来たこともあったし…。そして伯爵と話をしていた時に警察から連絡が来たんだ。デリクさんが暴漢に襲われて病院に運ばれたって。それで伯爵と一緒に彼の運び込まれた病院へ行ってきたのだよ」
「そうだったのですね…」
デリクさん…私のせいで…。
「デリクさんには何故教会を訪ね歩いていたかは聞かなかったけれども…ひょっとしてパメラの事で…なのか?」
「はい、そうです…。私のお店が不審人物に覗かれていた話をしてしまったばかりに…絶対犯人はパメラかパメラの関係者に決まっています!」
「そうだな…私もそんな気がするよ」
「あの…デリクさんに会う事は…」
しかし父は首を振った。
「病院の面会時間は18時までなんだよ。それにデリクさんが話していたよ。明日には退院するのだから、面会に来る必要は無いとアンジェラに伝えてほしいと言われてきたんだよ。逆に夕方に出歩かれると心配でたまらないからとも話していた」
「そうですか…」
デリクさんらしい断り方だ。
「分かりました。デリクさんを心配させたくないので面会は諦めます」
「そうだな。それじゃ夕食の準備も出来ているから一緒にダイニングルームへ行こう」
「はい、お父様」
そして私は父と一緒に部屋を出た。
パメラへの怒りを募らせながら―。
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