第87話 既視感?
「本当ですか?それはとても助かります。お店のオープンまで後2周間を切ってしまったのに、出店準備をする事が出来ないのは困りますから」
私の言葉にデリクさんは頷いた。
「うん、本当にその通りだよ。僕もアンジェラのお店が開店するのを待ち望んでいるからね。何しろやっと自分のお店を持つと言う夢が叶うんだから」
「え…?」
私はその言葉に既視感のようなものを感じた。
「ん?どうかした?」
デリクさんが尋ねてきた。
「いえ…。私、デリクさんにお店を持つのが夢だったってお話したことがありましたっけ?」
「そう言えば…聞いたことが無かったかもしれない…なら、どうしてそんな風におもったのだろう…?」
デリクさんは理由が分からないと言った様子で首を傾げている。その時、私にはある思い出が脳裏に蘇っていた。
それはまだ私が前世で日本人として生きていた頃…。
突然の病に倒れて、余命幾許も無くなった時、恋人だった彼が言った。
『…諦めたら駄目だ。君の夢は自分の手作り作品のお店を持つのが夢だっただろう?
だから…生きることを諦めないでくれ…』
自分の為…そして彼の為にも頑張って生きようとしたけれど、結局私はその数カ月後に死んでしまった。
何故かその時の記憶が蘇り…思わず胸が熱くなってしまった。
デリクさん…。ひょっとしてやっぱり貴方は…?
「アンジェラ?どうしんたんだい?目が赤いよ?」
デリクさんが不思議そうな顔で私を見つめた。
「あ、何でも無いです。ちょ、ちょっと目にゴミが入っただけですから」
ゴシゴシと目をこすりながら私は答えた。
「そう?みてあげようか?」
「い、いえ!だ、大丈夫ですからっ!」
顔が近づいてきたので、慌てて後退った。
「そうかい?それじゃ早速、行ってくるよ」
デリクさんは立ち上がった。
「え?行くって…何処へ?」
「うん。これから教会を廻って見ようと思ってね」
「まさか、今から行くつもりですか?」
「そうだよ。こういう事は急いだ方がいいからね…。アンジェラだってその方が安心だろう?」
「それはそうですけど…」
頷くとデリクさんは笑みを浮かべて私を見た。
「よし、それじゃ又ね」
「出口までお見送りさせて下さい」
立ち上がると、私は言った。
「うん、ありがとう」
そして私とデリクさんは連れ立って玄関へと向かった―。
****
デリクさんが帰った後、私は早速フットマン達にお願いしてミシンを自室に運んでもらった。
「ふふふ…まさかこの世界でもあの懐かしい足踏みミシンを目にすることが出来るなんて思わなかったわ。どれ…使い方は一緒かしら…?」
ミシンが入れられていた木箱の中には取扱説明書がついている。私は念入りに目を通すと早速ミシンに向き合った―。
カタカタカタカタ…
「すごい!普通に縫えるわ!やっぱりミシンの構造は一緒なのね」
試し縫いをしていた私は久しぶりに触れたミシンにすっかり興奮し…その日はずっと部屋に篭って縫い物を続けた。
そしてこの日の夜…。
デリクさんが暴漢に襲われたというニュースが我が家に飛び込んで来た―。
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