『僕の所へお嫁に来てくれるんだから』

その言葉に思わず赤くなっていると、デリクさんが尋ねてきた。

「アンジェラ、今日はまた後でお店に行くのかい？もし行くなら僕も一緒に行っていいかな？」

「それが…実は…今日はお店に行くのは…あ、でもデリクさんと一緒なら大丈夫かも…」

するとデリクさんが私の言葉に眉をしかめた。

「ひょっとして何かあったのかい？もしかするとニコラスの事？ニコラスは今の所、自分で安い賃貸アパートメントを見つけて住んでいるけれど…今の所大人しくはしているようだよ。時々出歩いてはいるみたいだけど、特に大きな動きは無いって報告を受けているし」

「そうなのですね…それならやっぱりニコラス様じゃなかったのかしら…」

ニコラスには監視がついている。もし私の店の中を覗き込んでいたとなると、デリクさんに報告がいくはずだ。

「やっぱり？やっぱりって事は何かあったんだね？アンジェラ。話してくれるかな？」

「はい、実はパメラが出所したのです」

「え？パメラって…確かニコラスの幼馴染で恋人だった？」

「はい、そうです」

「そうなのか…。パメラはアンジェラに散々嫌がらせをしてたからな…初めて会った時、彼女はアンジェラの食事を床に落として駄目にしてしまったし…それで？パメラの出所で何か困った事でも起きたのかい？」

「困った事と言うか…実は昨日お店の開店準備を友人たちとしていた時に、誰かに覗かれていたような気がするって一緒にいた友人が言ったのです。それで皆で窓まで様子を見に言ったけれども、誰もいなかったんです。でもそれだけじゃないんです。夕方、ジムさんに…あ、ジムさんていう人はこの屋敷の御者をしている人なのですけど、私を迎えに来てくれた時、窓から中を覗き込んでいた怪しい人物を見たって言うんです」

「え？そうだったのかい？アンジェラは何も…されていないんだよね？」

デリクさんが心配そうに私を見つめてきた。

「はい、私は何ともありませんでした。ジムさんの話ではフード付きのロングコートを羽織った妙な人物だった…というのですけど、男性か女性かは分からなかったそうです。それで家に帰って家族から聞いたのです。パメラが出所したって。この話は警察署から教えてもらったそうなのですが…どうやら私達を酷く憎んでいたようです。『仕返ししてやる』と物騒な言葉を口にしていたそうので…」

「成程、逆恨みもいいところだな。元はと言えば全て自分で蒔いた種で、この家の人達は何も悪くないのに…。しかし、パメラは行く場所があるのかな？両親はまだ警察に捕まっているんだよね？家も農園も差し押さえられているし…」

「あ、その事ですけど…パメラは今教会で保護されているらしいんです」

「え？教会だって？」

突然デリクさんの顔がパッと明るくなる。何か良い考えでも浮かんだのだろうか？

「教会のことなら安心していいよ。僕はボランティアで色々な教会に出入りしているからシスターや牧師さんたちとは顔見知りなんだ。パメラが何処の教会にいるのか調べてあげるよ」

そう言うとデリクさんは笑みを浮かべた―。