第85話 デリクさんからのプレゼント

 翌日―


 家族揃っての朝食後、私は自室に戻って新しい布小物雑貨を作っていた。今制作しているのはがま口のお財布で、小さいピースをつなぎ合わせたパッチワークの可愛らしいデザインだった。


「フフ…こんな可愛らしいデザインは今迄無かったから売れるといいわね」


チクチクと針を動かしながら作業を続けていると、不意に扉をノックする音と同時にミルバの私を呼ぶ声が聞こえてきた。


コンコン


「アンジェラ様、今少しお時間宜しいでしょうか?」


「ええ、いいわよ。どうぞ」


するとカチャリと扉が開かれ、ミルバが姿を現した。


「アンジェラ様、聞いて驚いて下さい。何と、デリクさんがいらっしゃいました!」


「えっ?!デリクさんがっ?!」


思わず勢いよく立ち上がった。


「そ、それでデリクさんは今どちらにいらしてるの?」


「はい、応接室でアンジェラ様をお待ちです。何やらとても大きな箱を持っていらっしゃいましたよ」


「大きな箱…?」


一体何だろう…?


「でも、いいわ。デリクさんに会いに行くわ。すぐ伺いますと伝えておいてくれる?」


「はい、分かりました」


ミルバはすぐに部屋を去っていき、私は縫い物作業をしていた手を止め、ドレッサーの前で髪をとかして身なりをチェックした。


「うん…問題無いわね」


そして私は急ぎ足で応接室へと向かった―。




 応接室の扉は開いており、部屋の中ではデリクさんが兄と一緒に話をしていた。


「失礼します…」


声を掛けると、兄とデリクさんが一斉にこちらを振り向いた。


「アンジェラさん。こんにちは」


デリクさんは笑顔で私を見る。


「こんにちは。お越し頂き、嬉しいです」


すると兄が席を立った。


「さて、それじゃ後は2人でごゆっくり。またお会いしましょう」


「はい、又是非」


デリクさんは立ち上がって兄に頭を下げた。そして兄が部屋から出て行き、私はデリクさんの正面のソファに座り…彼の傍らに置かれた大きな木箱に目をやった。


「あの…デリクさん。それは…」


遠慮がちに声を掛けると、デリクさんは満面の笑みを浮かべて私に言った。


「アンジェラ、実はね…今日は君に素晴らしい品物をプレゼントしたくて、ここまで運んできたんだよ」


「え…?プレゼントですか?ひょっとして、この大きな木箱がですかっ?!」


驚いてデリクさんを見た。


「うん、実はこれはね…足踏み縫い器なんだよ」


言いながらデリクさんは大きな木箱に取り付けられた蝶番を外してくいく。


え…?まさか…足踏み縫い器って…?


そして私の目の前で木箱が開かれた。


「あ!こ、これは…足踏みミシン!」


それは大きなテーブルの上に取り付けられた足踏みミシンだった。足元のペダルを踏んで縫うミシン…前世の世界で祖母の家に置いてあったミシンと殆ど大差ないミシンが今、私の目の前にある。


「え?今足踏み…何て言ったの?」



デリクさんは不思議そうに私を見た。


「い、いえ。何でもありません」


だけど…黒塗りのピカピカした新品の足踏みミシンをこの世界で再び見ることが出来るなんて感動だ。


「良かった、喜んでもらえて…」


「ええ、本当に嬉しくてたまらないです。これがあれば今よりもずっと作業時間を短くすることが出来ます。でも…すごく高かったんじゃないですか…?」


けれど、デリクさんは笑いながら言った。


「いいんだよ、そんな事気にしなくて。いずれこの足踏み縫い器を持って僕の所へお嫁に来てくれるんだから」


「え…?」


私はその言葉に思わず顔が赤らんでしまった―。


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