第7話 嘘つきな女
「ニコラス…」
何て事だろう。恐らくパメラはニコラスがここにやって来るタイミングをはかり、わざと私のランチを落とし、怒った私の前で涙を流して演技をしたのだ。
ニコラスは持っていたトレーをテーブルの上に置くと怒りの眼差しで私に問い詰めてきた。
「アンジェラッ!答えろっ!お前は今パメラに何をしたっ?!」
何をした?むしろそこは、何をされた?と尋ねて来るのが筋ではないだろうか?
「何言ってるんですかっ?!アンジェラは何も悪くないですよっ?!」
ペリーヌが文句を言うと、ニコラスはペリーヌに言った。
「何だ?子爵家の人間が伯爵家の人間に文句を言うつもりか?」
「…っ!」
この言葉には流石のペリーヌも悔しそうに下唇を噛む。
「あ!ニコラス…!」
パメラはわざとらしく涙目になってニコラスに抱きついた。
「お願い、どうかアンジェラさんを怒らないで?私がいけなかったのよ。アンジェラさんのランチがあまりに素敵だったから、ちょっと見せてもらおうと手に取ったらアンジェラさんが『返しなさいよっ!』って手を伸ばしてきて、それで驚いてしまってアンジェラさんのランチボックスを床に落としてしまったの。取り返しのつかない事をしてしまったので慌てて謝ったのだけど…許してくれなくて…」
あまりの言い草に呆れてしまった。勝手に私のランチボックスを横取りし、わざと床の上に落としておきながら謝るどころか、とんでもない言いがかりをつけてくるなんて…。
「何言ってるのっ?!でたらめよっ!」
ペリーヌが反論するとニコラスが怒鳴った。
「黙れっ!今俺はアンジェラと話をしているんだっ!邪魔だっ!他の席へ移れっ!」
「…っ!!」
ペリーヌは怒りで顔を赤くし…身体を震わせたものの、仮にも相手は伯爵家のニコラスである。
ガタンッ!!
乱暴に席を立ち、トレーを持ったペリーヌはチラリと私を見た。その目は…とても申し訳なさげだった。
ペリーヌ…。
「もし…アンジェラに妙な言いがかりをつけようものなら…いくら伯爵家の令息だろうが、許しませんからね」
それだけ言い残すと、ペリーヌは別の場所へ移動してしまった。
「全く…何て生意気な女だ」
ニコラスは腕を組みながら苛立った声で呟く。
「そうね。怒りっぽい人よね」
パメラはニコラスの腕に絡みつきながら言う。そして…相変わらず私のランチボックスとロールサンドは床の上に転がっている。
「…」
少しの間、私はそれを無言で見つめていたが…ポツリと言った。
「パメラ…拾わないの?」
「え?」
パメラが私を見た。嘘泣きの涙はとっくに消え、キョトンとした目で私を見ている。
「何だ?今お前何て言った?」
ニコラスの言葉は無視し、私は再度パミラに言った。
「パメラ。貴女がわざと私のランチボックスを落としたのだから…まずは謝罪して、拾うのが筋じゃないの?」
「え?何言ってるんですか?わざとなんて落としていませんよ?それに謝りましたよね?」
「いいえ、貴女は謝ってもいないし、わざと落としたわ。だからまずは私に『わざと落としてすみません』と謝ったうえで拾うべきでしょう?」
「アンジェラッ!!」
ニコラスが怒鳴りつけて来る。しかし、私は大人げないと思いつつも、大切な友人であるペリーヌに取った態度が許せなかったのだ。
「さぁ、パメラ。言われた通りにしなさい」
表情を変えずにパメラに迫った。いつもの私ならここまでの事はしなかっただろう。
「ニコラス…アンジェラさんが怖いわ…」
再びパミラが涙目の演技でニコラスに助けを求める。
「アンジェラッ!やめろっ!!」
ニコラスが私に手を振り上げた―。
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