現実色

「思ったより似合わない…。」


制服のワイシャツの上からセーターをかぶり

無理に微笑んでいる自分が貧相で

見ていられない。


「かわいそう。」

自分にだけは言ってはいけない

後ろ向きな言葉がついこぼれてしまう。



梨香子との美しく脚色された思い出が

少しずつ現実の色に戻っていく。


よし、着替えなおそう。

そう思ってセーターに手をかける。


「痛!!」


何か固いものを踏んだ。


思わず脱ぎかけたセーターをよそに

足元を見ようとする。

横着は良くない。

これからは気をつける。

そう願う頭をあざ笑うかのように

急にバランスが取れなくなった体は

鏡の方へ倒れていく。


鏡にぶつかるの痛いかな…

なぜかそんなことを考える時間があった。

おそらく実際の時間は1秒もない。


倒れてもたれかかった、その瞬間

鏡はぐにゃっと変形し

絵梨を飲み込んだ。


絵梨は似合わないセーターを

着たままだった。



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