距離

時間が増えた。


すると、もうあがらないと思っていた成績がさらに上がっていった。


「志望校をあげてみてもいいかもしれないですね。」

太田爺は進路面談でそれとなく呟いた。


1人の時間が増えたことも、もう今の志望校である意味がないこともお見通しだったのだろう。相変わらず彼は縁側にいる。


数日後、志望校を変える、と報告しに行くと眉を少し下げて承諾してくれた。


「志望校変えたんだってね。」

久しぶりに梨香子が話しかけてきた。


この時を待ち構えていたような気がするし、そうでもない気がする。話しかけられるきっかけのために志望校を変えたのか、と言われたらそれも嘘じゃない気がする。わたしはなんて女々しいのだろう。


「うん」

何ともないふうに返す。


「絵梨は私より賢いし、それがいいよね。絵梨のためにも。」

私は目を伏せる。

「……ちょっと寂しいけど。」


そんなことは、ないと心の中だけで返す。

うまく笑えていただろうか、久しぶりの会話はあっけなく終わった。


あっという間に毎日が過ぎ去って試験が終わり、結果発表のときが来た。

手応えはあったし大丈夫だ、と思っていた。


しかし、私は落ちた。


この時わたしは、滑り止めに受けていた私立高校に入学することが決まった。


何も考えられなかった。


落ちた高校の最寄り駅のホームで、何本も電車を見送った。行動してしまうと、事実を受け止めるしかなくなるようで怖かった。


一方で、梨香子は無事志望校に合格した。

彼氏と一緒に。


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