たまご焼き

どうやら人間の睡眠タイプは、4種類あるらしい。


非常に朝型

朝型

夜型

睡眠不順型



私は絶対に夜型である自信がある。

朝昼どんなに眠くても、夜になると目が冴えるのだ。会社員を途中で断念したのは、このせいだったことにしている。


夜、眠ることができない。


深夜2時3時まで毎日目が爛々。だから朝は起きられない。


そのまますっぴんボサボサで、始業ギリギリにデスクに滑り込む。その様子をいつも上司が舐めるように見ていた。わざわざ体ごとこちらに向けて、何も言わずに。じとっとした上司のその両目が、本当は私を見つめていないことを願った。私は私じゃない何かをその時だけは背中に背負っているつもりでいた。


そんな私でも、ごく稀に早く目が覚める日がある。


そしてその時は必ず同じ夢をみている。

朝、起きている夢。

起きていないのに起きている夢をみて、そのあと本当に起きる。たぶん生き物としてはこの夢を見ているとき、すでに起きている。起きていて眠っている。眠っているのに、起きている。


私はそんな私を認識している。


たまごトースト、スクランブルエッグ、目玉焼き。そんな日は必ずたまごを焼く。そのなかでも、一番気分がいい時はたまご焼きを焼く。

「たまご焼きを焼く」は「腹痛が痛い」と仲間だろうか。なんて言葉遊びがよぎる。昔から考えていること。


甘くない、出汁の効いたたまご焼き。


それをだし巻きということを、知ったのは随分大人になってからだった。いつか会社の飲み会で行った、優しいおばあちゃんがいる居酒屋でのことだった。わたしのなかで甘いのもしょっぱいのも、全部同じたまご焼きだった。その時、そう言うわたしのためにだし巻きもたまご焼きも作ってくれたあのおばあちゃんは、今頃どうしているのだろうか。


「たまごを焼けばそれはもう、たまご焼きだろう」

あの人ならきっとそう言うだろう。甘いか、しょっぱいかなんて関係ない。たまご焼きについて考えながら、たまご焼きを焼く。もちろん出汁の効いた方。


今日は少し早めに店を開けよう。

誰かと話したい気分だ。

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