スカート
長い間自分を見ていた。
鏡に映る自分は、いつもと何も変わらない。
歪んだ視界が元に戻るとわたしはまたちんちくりん。の試着室にいた。黒スキニーを履く足が妙に細い。この不健康さにも思わずホッとしてしまう。
とりあえずここを出よう、と似合わなかったスカートを気持ち丁寧に持ってドアノブを回す。
が、扉は開かない。
不安になってガチャガチャと音を立てる。また遊園地行きになるのはごめんだ。
一呼吸おこうと思い、手を離すと反対側から押された。内開きだった。
少し甘い匂いがする店員さんと目が合う。彼女はわたしが持っていたスカートを受け取りながら、
「考えはまとまりましたか」
と聞いてくる。
店内に差し込む光が弱まって、入った時よりも店の雰囲気は仄暗くなっていた。
先程の問いに何も答えないわたしに、彼女からの強要はない。自由に彼女のペースでスカートを戻しにいく。その姿を目で追っているとあるものが目に入った。
「え。」
思わず声が出る。目の前のラックにあのスカートがあるのだ。ぱきっとした緑色で、ふわっとしすぎずタイトすぎずの遊園地で着ても動きやすいあの、スカートが。
「そっちのスカートの方が似合うかと思って。」
スカートを元の位置に戻しながら彼女はそう言ってふわっと笑う。
不思議な体験に少し疲れていたわたしの体が急に力を取り戻したのを感じた。試着室から出て、例のスカートを持ってレジに向かう。
すでに彼女はカウンターのなかにいてまとまってよかったです、と表情で伝えてくる。カウンターには食べかけのドーナツが置いてあった。ドーナツにはたっぷりとチョコがかかっていた。
わたし以外にお客がいなくなった店内から出ると、街は予想以上に夜だった。
ちんちくりん。
そんな気分。
ありえないことだったとわかっているのに妙に感覚が残っていて笑ってしまう。
このスカートを着て、早く裕貴也に会いに行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます