メリーゴーラウンド

私の娘だという裕香は、キョロキョロしながらジグザグに歩く。小さい子ってこんなに落ち着きがないんだなあ、なんて人事のように思う。

裕香が探している父親と息子を、私は知らない。ということで、探せない。


人は諦めがつくとなんでも楽しめちゃうみたいだ。久しぶりの遊園地に少しだけはしゃいでしまっている。

ただ、足の感覚にだけは慣れない。いつもの感覚じゃないのだ。違和感しかない。

やっと冷静になってその違和感を確かめようと、自分の服装をみて納得した。見なくても分かっていたけれど、見て理解することにした。この理解は受け入れたというか、諦めた、に近い。


わたしは今、スカートを履いている。


しかも、試着室で着ていたものとは違う。全然違う、見たこともないスカート。でもなぜか、着ている自分の姿には違和感がない。ぱきっとした緑色のふわふわしていないけど、タイトでもないスカート。

自分で言うのはどうかなと思うけれど、心の中ならいいだろう。このスカート、意外とわたしに似合っている気がする。


そう思うと、なんだか気分もいい。

今日は最高の日だ。


ここがいまいちどこかわからず、旦那とやらも、子どものこともわからないのに私って単純だ。


なんかもうこのままでもいいなー、なんて思う。完璧な現実逃避。ドラマの主人公ってこんな気持ちだったんだろうなあ。いつか見たドラマで、別世界に紛れ込んでしまった女性に今更感情移入をする。


「お母さん!! いた!!! お父さん、いたよ!! 隆也も、いた!!!」


嵐のように先へ先へ走って行ってしまっていた娘が、突然戻ってきた。


遂に会うのか。初めまして、旦那様。

不思議と気分は穏やかだ。


裕貴也を気にして、スカートなんて買いにいかなければよかったとは思わない。何故かとても満たされている。


娘は報告してすぐ走って行ってしまって、もういない。


でも、やっぱり顔をあげるのが怖い。

距離が近づくにつれて、感情が行ったり来たりする。

はやく元の場所に戻れ……。

戻れ……。

棒立ちで強く拳を握りしめて願う。

大きく息を吸って吐く。意を決して、顔をあげようとする。その瞬間、


「やっぱスカート似合うじゃん。」


聞いたことのある声。

むしろよく知っている声。

いつも聴きたくなってしまう声。

聞きたくて仕方のない声。


近くで、メリーゴーラウンドがこの世の美しいものだけを纏って回っていた。




顔をあげると

自分の顔が鏡に映っていた。

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