ふしぎなこと
「何度みても似合わない。」
それはわかっているのに、出るに出られない。どうにかしたらいい感じに見えるのではないか、と試行錯誤をしてしまう。
なぜ、こんなにもこのスカートに執着してしまうのか。なんてのは本当に簡単な話で、しかもよくある話だ。
彼が好きそう。
ただ、それだけ。
シンプルで無駄がないのに、ふわっとしていてかわいい。落ち着いた色で体のラインも出ない。そういうスカート。
昔の小柄な彼の彼女が、こんな感じのをよく着ていた気がするのを思い出してしまうのが
悔しい。
諦めきれなくて、元々着ていた黒スキニーに
着替え直していたのを脱いで、もう一度スカートに足を通す。
「やっぱり似合わない」
何度繰り返しても同じなのに、ここから動けない。
気持ちと一緒だ。
5年間。
わたしが想い続けてきた時間。
完全な片想い。
たぶん想いは、だだ漏れ。
それでも”いい友達”ポジションを手放せなくてずるずると今。
それなりにお互い彼女彼氏はいたけれど
続かず、結局ふつふつと隠したい想いが溢れてしまう。
気がつけば周りは結婚したり、同棲をしたり、と前に進んでいる。
「ちんちくりん。」
鏡に映る自分にぴったりだ。
どうしたいのか。
どうなりたいのか。
考えるつもりはないのに、いつもふとした瞬間に考えてしまっている。
悩みすぎた。
そろそろ出よう、と着替える。
店内にはあまりお客さんがいなかったとはいえ、試着室に長居しすぎた。急いで出よう、気持ちは急いているはずなのに、いつもならすっ、と履けるはずの黒スキニーがどうしてかうまく履けない。
ウエスト部分を思いっきり引っ張って足を押し込もうとする。ぐいぐいと真上、右斜め上、左斜め上と力を入れる具合を変えて試してみる。でも力を入れれば入れるほど、余計ズボン自体に拒まれている気がしたその時、
足元がふらついて鏡にもたれかかった。
はずだった。
鏡はぐにゃりとして、わたしを吸い込んだ。
吸い込まれたというのは正しいのだろうか、穴に落ちていくという感覚があっているのかもしれない。
私はスキニーに両足を中途半端に突っ込んだままの姿で、鏡の中に落ちて行った。
「え。」
本当に驚くと人は、一言しか言えないみたいだ。
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