第15話 ABCの残響
ハッチを開くと実に爽やかな風が舞い込んだ。
熱く甘ったるい高気圧は外に放出され、代わりに新鮮な空気がコクピットに澄み渡った。
昨夜以来だと言うのにもう随分と長い間、この空気に触れないでいたような気がする。
あの空が紺碧ではなく、既に水色の単色で塗りつぶされていることも要因かも知れない。
眩しい朝日がコクピットの内部を斜めに照らし、俺の目を
軍服の襟を正すと首元に昨日までは無かった匂いが漂っているのがわかった。
スンスンと襟の内側でその匂いを集めて嗅ぐと、甘酸っぱい様なツーンとした匂いが濃くなった。
ユリカを見ると、俺という支柱が無くなった事で
口の端には何かが乾いたような白い一筋の線が垂れていた。
「あいつ、俺の首にヨダレ垂らしてたのか!」
全く、早くシャワーを浴びたい。
乾いた潮が俺の皮膚を突っ張らせる。
身体全体が動く度に生じるこの違和感を早く洗い流してしまいたい。
だがそれよりも。
「、、、腹減った。」
俺はユリカの垂れた腕を持ち上げ、その陰に隠れていた幾つかの袋を持ち出した。
その袋はコンビニのレジ袋のような物や、トートバッグの様な物までそれぞれが様々な形をしていた。
俺はその中からビニールの包装を破くと、中から堅焼き煎餅を取り出して口に放った。
これは濃い醤油で味付けされた四角い小さな煎餅で、戦争が起こる前まではよく食べていたものだ。
「うまい。」
後でユリカに
輪ゴムが見当たらないので、取り敢えず中身が零れないようにビニールの包装を
その時、コツンと金属の様な感触を爪に感じた。
取り出すとそれは黒いケースで、表面に『Psyco-Linker』と掠れた印字がされていた。
表面の反射のムラや
袋の奥を覗くと、色や形は違えど同じ機能を有する機械が他に3つも入っていた。
これらは前の世界で貰ったものだ。
あの地下の教室で、字を教わった礼にと子供や老婆は俺たちに菓子や簡単な食料を渡し、
この何が起こるかわからない世界に於いてこれらの食料はとても重要だが、
これは、、、
「どうしたもんか。」
黒いケースを開けると中にはヘッドセット、と言うよりも骨組みが三本連なったカチューシャの様な金属製のアーチが入っていた。
取り敢えず頭に着けてみる。
「、、、、」
特に何も起こらない。
そう言えば言っていたな。
サイコリンカーは装着した者同士で通信を行う。単体のままでは他人に思考を送信したり、受信したりする事は出来ない。
つまり、もう1台を他人に被せなくてはならない。
ユリカをチラリと見るがまだ眠りこけているようだ。
付属していた説明書に目を落とすと、今俺が着けているカチューシャの右端に電源があるようだ。
指で感触を確かめると、その出っ張りをカチッと押した。
『Psyco-Linker,Awakening...
Hello! Toshio.』
「うわッ!!」
爽やかな起動音の後に冷ややかな女性の発音が脳内に響いた。
慌ててサイコリンカーを外すが、先程の音源はどこにも見当たらない。
再びそれを装着するとやはり先程の声が聞こえる。
驚いた。まさか音声ガイダンスまでが脳内で行われるとは。
その音声は自らをPLと名乗り、起動時の定型文を読み終えると沈黙した。
説明書通りに設定を弄ると、今度は日本語の音声が聞こえてきたので安心した。
俺たちは第三次世界大戦下、長い間日本においての内戦を続けてきた。
英語の習得をする暇のある者はあまりいなかったのだ。
「PL!名前を変更してくれ!
俺はトシオじゃなくてゲン!
キヒラ・ゲン!!」
『承知しました。
俺はトシオじゃなくてゲン、キヒラ・ゲン様で宜しいでしょうか?』
「違う!キヒラ・ゲンだけ!」
『承知しました。
キヒラ・ゲンだけ様で宜しいでしょうか。』
「ああもう!!」
俺は機械的で愚直なPLにイライラしつつも、何とか基本的な設定を俺に合わせた。
大声を荒げずとも思考だけで操作できると気づいたのはしばらく経ってからだった。
超時空超越機 ゼロ・インフィニティ ローリング・J・K @rollingjk
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