第10話 老人の独白
その老人はその後もつらつらと昔のことを思い出しては語った。
俺たちは周りの老若男女と一緒に老人の声に耳を傾けていた。
その話を要約すると、この世界の人類はサイコリンカーと呼ばれるテレパシー装置を発明し、正確で高速で安易なコミュニケーション方法を獲得したが、それと引き換えに言語能力が急速に衰退していったらしい。
結果、文学や感情までもが喪失して行き、この地下教室を最後の砦として他の世界は言語の分野において滅んだのだ。
目の前の老人は語る。
言語を失うということは、感情を失うということであると。
『痛み』という感覚は『痛み』という言葉を知らなくても感じるだろう。
だが一方で『ノスタルジー』という感覚は『ノスタルジー』という言葉を知らなくても、果たして感じることが出来るであろうか。
感情とは、正方形4マスの仕切りに当てはめられた『喜 怒 哀 楽』の字にインクをぶちまけるように存在している。
飛び散ったインクは一見『哀』に集中しているように見えても、実は『喜』や『楽』にまで散っている事がある。
その感情は単純な解釈しか出来なければ、『哀』に見えるだろう。
だが、深い語彙に裏打ちされた解釈をすればそこに隠された『喜』や『楽』を見逃さず、もっと複雑な、そう、例えば『ノスタルジー』などの感情だと分類できるであろう。
俺は後半は目を開けながら寝ていたので何を言っているのかよく分からなかったが、まあ語彙力が無いと感情も無くなっていくので気をつけよう。
といった感じの話だったと思う。
俺とユリカは「この漢字はなんと読むか」という子供の問に答えたり、先程CIORに通信を入れてきてくれた青年とお礼を言いあったり、老人たちからお菓子を貰ったりした。
そのお菓子はなんだが単純な味だった気がする。
俺たちは皆に挨拶を交わすと、2台の
に乗り込んだ。
「おーい!ちょっと待ってくれ!」
「なんだ?まだ用か爺さん?」
老人は2台のヘッドセットの様な物を手に持っていた。
「昔の脳に埋め込まないタイプじゃが、ワシらにはもう要らんからな。」
先程の話から、貰うのを少し
***
ゼロとインフィニティは停止した。
外に出ればまたABC人間に追われるだろうし、地下教室の人間の前でタイムリープを見せるのも気が引けたので、先程の長い道順の途中でCIORを止めたのだ。
「これからどうする?
俺はあの戦争を止めに行かなきゃならんが。」
「うーん、あたしもそれに協力したいけど。」
彼女は少し思案した様子で言った。
「疲れちゃったし、まだ後でいいでしょ。
止めに行くのはいつでも出来るしさ。」
「そりゃあ!」
と何か口をついて出そうになったが、確かにそうだと思い直した。
「じゃあどこ行くんだ?」
「決まってるでしょ!
、、、、次の世界だよ!!」
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