第6話 戦闘

「おーい!俺も乗せろよーー!!」

「ゲンくんはそこで待ってて!」


ユリカはハッチをこじ開けてコクピットに乗り込むと、俺を外に残したまま起動シークエンスを実行した。

カメラアイに縁取られた水色のライトが発光し、複雑に重なるモータ音を鳴らしながら0ゼロは起立した。


銀の戦車の様にゴツゴツとしたフォルムのインフィニティとは違い、その蒼い機体はそれよりも1mは高く、より細く人型に近いシルエットをしていた。


「おい!聞こえてるよな!兵装はどうだ?

奴らに立ち向かえるか!?」


「アームは正常、アンカ・マニピュレータも無事!

背部ラックにショートレンジの実弾兵器とヒートソードっぽいのと後よくわかんないのが入ってる!」


短銃に剣?土木用じゃないのか?


「エネルギー兵器は!?」


「多分なーい!!じゃ行ってくる〜!!」


次の瞬間、ゼロはその躯体に見合わぬ跳躍力で俺の背を飛び越し、「行ってくる〜」と呼ぶ声は最後まで聞き取れずに遠のいた。


数秒後、揺らぐ地面に耐えながら元の道を辿ると、着地の勢いを猫背になって殺したゼロの周りに、放射状に警官達が吹き飛んでいた。


警官のCIORがゼロに向き直る寸前、蒼い肩が白黒の機体を突き飛ばす。


再び地面がぐわんと揺らぎ、白い装甲とアスファルトの隙間から、風に揺らぐ穂の様に火花が散り、装甲を削り取る不快な金属音が連なった。


尻もちを着いたまま警官達がゼロに射撃を始めるが、キンキンと鳴る派手な音の割に合わず、背部のウェポンラックに黒い焦げ跡を残すに留まっている。

「A!A!A!A!」

背に弾丸の滝を受けるまま、ゼロの拳が敵の顔面に迫る。


それは充分に速い拳だったが、

遠目から見るCIORの拳は、近場で見る人間の拳と比較すると、とても遅い。


人間の拳であれば、長くても1mメートルほど腕を伸ばせば敵に攻撃が到達するであろう。

しかし、ゼロの拳はそれを3、4mメートル移動しなければ攻撃が到達しないのだ。

その為、CIOR同士の戦いは人間同士の戦いに比べると2/3倍速ほどに遅く見える。


ゼロの慣性の乗った重い一撃がぐわりと相手の顔を殴りぬける。

ゴシンと重低音が鳴り響き、相手の首が斜め45°上を向いた。

本来伸びない部分まで伸びた首が千切れ、漏れたコードから火が散っている。


欠けた目元のライトが明滅し始めた次の瞬間、既に用意されていた次の一撃でその首は大きく吹き飛ばされ、隣接していた倉庫のトタン板に突き刺さり、倒れた鉄柱がその上に積み重なった。


俺は警官達がその銃を撃ち尽くしたのを確認すると、腰から抜いた拳銃をチラつかせながら警官達を蹴り飛ばした。

「A!A!...C!C!C!、、、う"ッ!!」

今にも立ち上がらんとする警官の腹に足をねじ込むと警官は親しみのある呻き声をあげた。

俺は勢いそのまま開かれた倉庫に飛び入った。

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