第24話 十年後

 ツキノワグマの一件から十年ほどの時が過ぎた。


 二見達は順当に実績を積み重ね、今となってはもう金等級の冒険者へと成長していた。

 彼のピアノの演奏もオルファンでは有名なものとなり、一人の演奏家としても名を馳せるようになっていた。

 異世界、つまりは二見がいた世界の動物や道具、これらがこちらの世界に流れてくるという現象は一年に数回程度起きてはいるものの、進展が無かった。


 休日は酒場や街の外でキーボードを演奏して過ごすのが二見の日常となっていた。


「二見、聞こえる?」

「あぁ、聞こえるよ」


 街の外で風を浴びながら演奏をしていた二見にナリアの声が響く。

 彼女から二見へとペンダントが送られており、それのおかげで彼女とはいつでも連絡が取れるようになっていた。


「二見の世界についてだけれど、一つ分かった事があるの」

「分かった事?」

「うん。やっと世界に開いた穴を見つけることが出来たの。」

「何だって?」


 長年見つかる事のなかった穴、どうやらそれを見つけたらしい。


「正確には見つけてた……って言った方がいいのかもしれないけどね」

「って事はもう無いって事か?」

「うん、開くのは一瞬。でも何で私達が見つけられなかったのか理由は分かったよ」


 この世界で異世界へ干渉する為には世界と世界の間の世界を挟まなければならない。

 その隙間の世界を管理する事で異常があれば彼女達、この世界で神と呼ばれている存在がそれに対応する事で気付けていたのだそうだ。


 しかし、ナリアの見つけた穴はその中継すべき世界を中継せず、あちらの世界とこちらの世界が重なるようなものだったのだと言う。


「それじゃああの犬みたいなヤツとは無縁……って事か?」

「そうでもないかも、アイツら最近は結構落ち着きがないみたいだし……向こうの世界とかこっちの世界に抜けないようにしないと、いつ抜けられるかわかったもんじゃないね」

「大変だな……トラヴィス達にはもう伝えたのか?」

「勿論。近いうちに二見にも話がいくんじゃないかな?」

「フタミ、今いいかね?」

「あぁ、今来たよ」

「詳細は彼から聞くといいよ、それじゃあね」


 いつの間にかトラヴィスが二見の背後に立っていた。


 トラヴィスから話を聞いてみると、どうやら事前にその穴が現れるところを予想する方法が見つかったのだそうだ。


 例外もあるが、その殆どが魔力が不安定なところに穴が開く事が多く、そして穴が開きやすい地域も割り出す事が出来たのだそうだ。


「皆のおかげでほとんどの土地が今は安定しているが――」

「イースの森ですか?」

「あぁ、あそこだけはやはりどうしてもな……」


 イースの森というのは、ここからはるか東にある森だ。

 基本的には非常に恵まれた土地なのだが、それ故に魔物も非常に多い。

 独自の進化を遂げた魔物達が常に生存競争を激しく繰り広げており、時として魔力が枯渇した不毛の地へと変わってしまう事も珍しくない危険な場所だ。


「さらに困った事にフォレストベアの変異種が確認されてな」

「その脅威度は?」

「金クラスだな。フォレストベアとは言ってももはや別の魔物と思った方がいいだろう」

「別の魔物……ですか」

「君達のパーティーに頼みたいが、どうだ?」

「それはエリノア達と相談してからですね」

「答えは待つさ。依頼書はこれだ」


 トラヴィスから依頼書を受け取り、内容を軽く確認する。

 やはりというべきか報酬の金額は非常に高い。この依頼をこなすだけで数年間は遊んで暮らせるのではないかと思えるほどの金額だ。


「万が一向こうの人間と接触するような事があれば……できればこのギルドまで招いて欲しい」

「敵対的だった場合は? それに言葉だって通じるかどうか……」

「フタミは多少は話せるのだろう?」

「意思疎通が出来るレベルかと言われると……あちらはこちらよりも言語が非常に多いですから」

「ふむ……やむを得ない場合は撤退。最悪の場合は交戦も視野に入れておいて構わん。だが、もしも交戦した場合は必ず報告をするように」

「分かりました」


 二見もあちらの世界の出身とは言っても、こちらに来てから十年の時が過ぎている。

 十年もあれば科学は驚くほど進化する。未知の兵器や映画で見るような近未来的な武器が実際に使われているという可能性も視野に入れるべきだろう。


「それでは俺は準備をしてきます。早い方がいいでしょう?」

「あぁ、頼んだ」


 二見はエリノア達を集め、依頼の事を彼女達へと話した。

 

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