第23話 報告2
「むぐ……これは補給には使えませんね」
「そもそも魔力が無縁な世界の動物だからなあ」
クマの肉を口にしたイリーナがそれを吐き出した。
彼女の補給風景ももう見慣れたものだ。ちょっとやそっとのグロ画像を見せられても今の二見は動じないだろう。
「醤油とかあれば……クマ肉フレークとかにして食べれるはずなんだけどな」
「醤油?」
「あぁ、大豆から作るソースで……ヤマト国だっけ、そこならあるのかもしれないけど」
「遠いよ? 行ってみてもいいけどさ」
「落ち着いてからかな。調べてみた感じ文化は似てるけど、俺のいた国とはやっぱ違うんだろうなって思うしさ。まぁいつかは和食を求めて行ってみたいのは確かだけど」
二見は身体強化をし、クマの死骸を担ぎ上げようとした時、何かイヤなものが見えたように感じた。
「げ……」
それはよく考えれば普通のもの、生物だった。
マダニ、グロテスクな見た目をした虫だ。
「うわ、なにこれ?」
「ダニだよ。感染症の原因にもなる吸血虫……だったかな?」
この世界にも似たような存在の魔物はいるが、それらは非常に珍しい。
うろ覚えではあるが、ダニは意外にもかなり危険な生物だったはずだ。
二見はナイフでダニをそぎ落とし、そのまま潰した。
3人でクマの死骸を念入りに調べ、外壁の近くまで運ぶこととなった。
ギルドの調査員がクマの死骸を調べ、トラヴィスと二見はそこから少し離れたところで話をしていた。
「これが君の世界の?」
「はい、間違いないと思います。魔法の類は全く使っていませんでしたし」
「ふむ、銅クラスの冒険者でも相手出来そうだったかね?」
「不可能ではないと思います……が、難しいかと」
純粋に力でぶつかり合えば危険な相手だとは思うが、罠や魔法を駆使して戦えば一方的に倒す事も不可能ではないだろう。
しかし、もしも逃がしてしまった時に愚直に追いかけてしまうような事があったら、力自慢のパーティーでない限りは返り討ちにされてしまう可能性が高い。
トラヴィスは顎に手を当てて少し考えた後、ツキノワグマの暫定的な指標ランクを準銀ランクとして扱う事に決めたようだ。
「他には何かなかったかね?」
「ダニ……という小さな虫がいました。寄生虫ですね」
「それはナーズワームのようなものかね?」
ナーズワームは手のひらほどの大きさの細長いミミズのような魔物だ。
これ自体の基本的な危険度は銅クラスなのだが、この魔物が討伐対象として依頼が出される事はまれだ。
口や肛門といった穴から寄生するが、時には皮膚を食い破って侵入する。対象の魔力へと作用する毒を注入し、相手の意識を乗っ取る凶悪な魔物だ。
「違いますね、ダニというのは――」
「未知の病……というわけか、それにそれほど小さいのであれば見つけるのも難しいと」
「えぇ。もしも多くのあちらの動物が流れ込むような事があれば……」
「厄介な事になるな。本格的に神とも交渉をせねばならんか……」
これがただの偶然によるものなのであれば杞憂に終わるかもしれない。
だが、そうでなかった場合。その時の事を考えると今回のこの出来事は軽くは見る事が出来ない。
「ところでフタミ、この事は誰かに話したか?」
「クライドとベンに少し」
「口止めをしておかねばな……これからはこの事は口外せぬよう」
「分かりました」
「君達にはまた何か頼るかもしれないが、これからは自由に行動してもらって構わない」
「いいんですか?」
「出来る事ならすぐに協力してもらう為にも動かないでいてもらえるのが一番ではあるが……思っていた以上に時間がかかりそうでな」
特別手当という形で生活を保証出来ればいいのだが、そうもいかないらしい。
二見達には自由に行動させ、何かあればその時に最寄りのギルドで対処するという形に落ち着きそうだという事であった。
「自由行動ねえ、どうする?」
「どうしような……ま、とりあえず普通に冒険者として活動するか」
「オッケー。それじゃあ資材を買い揃えていかないとね」
資金稼ぎや金等級になる為の実績稼ぎ、二見達が元々目指していた道を再び進む事となった。
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