第22話  異世界生物

 二見達はクライドから聞いたクマを調べるために、森を訪れていた。

 この森は見通しが良く、綺麗な草木の緑が日光によってキラキラと輝く素晴らしい森だ。


「あんまし絡んでこなくなったな、ゴブリンとかの魔物」

「絡んできたところで返り討ちだしね、勝てそうにない戦いはしないのは人間と一緒じゃないかな?」


 姿を見ないわけではないが、あちらからこちらを攻撃してくるような素振りは見せない。

 彼らの巣に近付いてしまった時は攻撃してくる事もあるが、そういった場合は距離をとってやると追い打ちをかけてくる事は非常にまれだ。


「血の気の多い個体は例外みたいだけどね」

「こうして見てみるとほんと、人間と大差ないんだろうなぁって思うよね」

「生物はみなそうだと思います」


 この森は初心者にはうってつけと言われる森で、今の二見達は滅多に訪れる事はない。

 こうして見てみると穏やかな森だが、数々の魔物や冒険者が命を落とした魔性の森でもある。こういった土地がこの世界には数多く存在している。


 しばらく森の中を歩き続けていると、イリーナが小さく声をかけた。


「あそこにいるの、違いますか?」

「どれだ……?」

「あそこです。ちょっと見づらいかもしれませんが、あそこが頭であそこがお尻です」

「あ、ほんとだ。確かにちょっと小さいね」


 それは黒い体をしており、二見達よりも一回りか二回りほど大きい程度のクマだった。

 二見達の体を風が撫でる。


「あ、立った」

「こっちは風上か……って事は気付かれたかな」


 立ち上がったそのクマの胸元には横向きの三日月のような白い模様があった。

 日本にもいるツキノワグマだ。


「射撃します」


 イリーナが狙いをつけ、クマへと向かって発砲した。

 エリノアが剣を抜いて構え、いつ突撃してきてもいいように最前線へと立ちはだかる。


「あれ?」


 撃たれたクマは驚いたように二見達に背を向けて走り出していた。

 イリーナは二発目を撃ち込むが、それに怯むような様子は見せず、奥へと駆けて行った。


 エリノアは拍子抜けしたような表情を浮かべながらその尻を見つめていた。


「あれ、強いの?」

「強いと思う……でもヒグマの方は聞いた事あるけど、ツキノワグマはどうなんだろう」

「何か違うの?」

「正直よく分からないってところかな、比較的小さいんだったかな」

「強いと思います。先ほどの射撃ではどうやらダメージを与えられていないようです」


 イリーナは先ほどまでクマがいた場所へと移動し、地面を眺めながらそう言った。


 二見達も見てみるが、地面には血痕はなく、ただ驚いて逃げただけのように見える。


「弾は何を使ったんだ?」

「一番弱い弾です。二発目はそれなりに強い弾丸を」

「二発目の命中した場所を見てみようか」


 そこには僅かではあるが血痕があった。

 血痕と足跡が奥へと続いており、これを辿って行けば追跡するのはそう難しいものでもないだろう。


「普通なら痛みで足を止めると思ったのですが……」

「どこを撃ったんだ?」

「太ももです。大抵の魔物はそこを撃てば足を止めるのですが」


 イリーナの想定よりもダメージを与えられていなかったようだ。


 エリノアが先頭に立ち、足跡と血痕を追って森の奥へと進む。

 クマは本気で走れば時速60キロほどの速度が出ると言う。まだ時間はそれほど経ってはいないが、それでもそれなりに距離を取られてしまった。


「あれ、おかしいな」

「どうしたんだ?」

「いや、足跡が消えててさ」


 そこまで続いていた足跡は忽然と消えており、血痕ももう血が止まってしまったのか見回してみても落ちていない。


「一体どこに――ッ!?」


 すぐそばの藪の中から黒い丸太のようなものが勢いよくエリノアへと振り下ろされた。


「ッ――おっもいなぁ!」


 エリノアはそれを剣で弾き、続けて振り下ろされたクマの腕をひらりと回避してみせる。


「仕留めるぞ!」

「勿論!」


 二見は手のひらに野球ボールほどの大きさの玉を作り、それを射出する。

 それは相手を仕留めるほどではなかったが、どうやら有効打を与えられたようで、クマが大きくフラついた。


 どうにか立ち上がって両腕を広げながらこちらを威嚇するツキノワグマだったが、そこに銃声が響いた。

 クマは体勢を崩しそうになるが、まだ倒れてはいない。


「このまま崩します。トドメはエリノア様に」


 そこにもう1の弾丸が放たれ、クマは地面へと倒れた。

 駆け寄るエリノアに腕を振るうが、エリノアの渾身の一振りがクマの腕を切断する。


「トドメ!」


 エリノアの剣は深々と喉元へと突き刺さり、クマはもう動く事はなかった

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