第21話 異変
ギルドへと戻る途中、二見はベンとクライドにどう話すかを考えていた。
トラヴィスから特に口止めはされなかったが、あまりベラベラと言いふらしてもいいような話ではないだろう。
しかし、全く事情を説明しないというのも情報を共有する上ではいい判断だとも思えない。
「ベン、クライド。お待たせ」
「もういいのかい? 何か重要な依頼でも任されたのかと思ったけれども」
「特に依頼を受けたわけじゃないんだ。ま、重要な事ではあったんだけどな」
「そんな事を任されるまで実力を伸ばしていたのか……凄いな!」
ベンはガハハと笑いながら二見の背中を叩く。
加減はしてくれているとは思う二見だったが、それでもガタイのいい彼の手はそれなりの衝撃を二見へと与えていた。
「あんまり口外出来ないような事なら無理に話してもらう必要はないよ?」
「特に口止めはされなかったから問題は無いと思うけど……下手に話せるような事でもないのは確かだしな、少しボカさせてもらうよ」
「オーケー、それで依頼で何があったんだい?」
「少し変わったものを見つけてね、再現できないような……オーパーツみたいなものって言えばいいか」
クライドは「ほう」と食いつくように二見の話に食いついた。
ベンはオーバーリアクション気味に相槌を打ってはいるが、特に会話に混ざってくるような様子ではなさそうだ。
「変なものってのはもしかしたら物だけじゃなくて、生き物……新種の魔物が出てきているかもしれないんだ」
「新種の魔物か……それって見た事のないようなものなのかい?」
「どうだろう、俺の予想が正しいなら、そういうのもいると思うけれども……近い見た目のもいると思う」
「って事は、やっぱりアレがそうだったのかな」
「アイツか! ちょっと小さめのフォレストベア!」
分かりやすい名前だが、森にすむ大きなクマだ。
身体強化の魔法を使っているクマで、初心者殺しと言われる獰猛な魔物だ。
しかし、力が強いくらいしか取り柄がなく、さらに素の筋力はせいぜい鍛えた男程度しかない。それに加えて魔力の燃費が悪いせいで長期戦に持ち込めれば意外とあっけなく狩る事が出来る。
「ちょっと小さいって……子供だったわけじゃないのか?」
「何か違ったんだよ。明確にその違いが何かって言われるとアレだけどさ」
「調べてみる価値はあるかもな……どの辺で見た?」
「地図はある?」
「あぁ、ほら」
二見は地図を広げ、クライドがその地図へと印を書き込む。
「この辺り、ただもう移動しちゃってるかもしれないけど」
「ありがとう。杞憂に終わってくれるのが一番なんだけどな」
二見達は最近の依頼の話や他愛ない雑談をし、クライドたちは依頼へと出て行った。
「フタミ、何かわかった?」
「あぁエリノア。ここじゃ何だし俺の部屋でいいか?」
「分かった」
買い物を済ませて戻ってきたエリノアが二見へと声をかけた。
エリノアは窓枠にもたれかかりながら買って来たリンゴを齧り、外の景色を眺めていた。
「クライド達から聞いた話だけど、こっちに向こうの動物が流れてきてるかもしれない」
「魔法の無い世界の生き物なんでしょ? 簡単にやっつけられないかな」
「多分やり合えるとは思う。でも、色々戦うようになってから思うのは……下手したら銀等級クラスの力があるかもって思う節もあるんだ」
あちらの世界で、実際にクマやライオンといった猛獣とやり合った経験は二見にはない。
ヒルカイトのような巨大な魔物が存在するこの世界だが、魔力がある分純粋な肉体的な強さは正直そこまでなのではないか、と最近感じるようになっている。
あまり強そうなイメージのない鹿でも、車で撥ねた場合、車は大きなダメージを負っても鹿は何食わぬ顔で逃げていくといった話を聞いたことがある。
鹿でさえそれなのであれば、クマは果たしてどうなのか。いくら魔法があると言ってもその魔法が通じないような肉体なのであれば、厄介な事になる。
「ハッキリとした強さが分からないっていうのは厄介だよねえ」
「あぁ、イリーナの弾丸も向こうの弾と比べてどうなのか……ってのも気になるしな」
「何か違うのですか?」
「違うと思う。もしかしたら向こうのよりも格段に強いかもしれないし、逆に弱い可能性だってある。確かめようが無いから仕方ないんだけどな」
「それで……どうするの?」
「トラヴィスさんに話してみようと思う。それで許可が出るなら……俺達で調べてみないか?」
二見も研究者を目指していたわけではないが、少しの知識くらいはある。
もしもクライド達が見たクマがあちらのクマなのであれば、魔法がどれほどの力のものなのかを知る指標にもなるだろう。
「私は構わないよ。でもヤバそうなら逃げる覚悟はしておいた方が良さそうだね」
「出来れば手を出すなら狩りきりたいところだけどな。手負いにすると相当ヤバいって聞いたことがあるし」
二見はイリーナを見る。
「イリーナ、弾をどれにするかは任せる。出来ればどの弾がどれくらい効いたかを覚えてもらえると嬉しい」
「了解しました」
「それじゃ、休日が明けたら出発の予定で」
「オーケー。それじゃあまた」
こうして二見達は解散し、二見はトラヴィスへと調査の提案をしに行く事となった。
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