第20話 交信
二見はナリアの像のある丘の上へとやってきていた。
「ナリア、もし聞こえてるなら返事をして欲しい。お前に聞きたい事があるんだ」
しかし像からは何の反応もない、やはりただの石像なのだろうか。
しばらく話しかけてみたものの、たまに通りがかる人からの注目を集めるだけで何の進展もない。
「はぁ……ナリア、忙しいのか?」
二見は像へと体を預けながらそう呟いた。
「どうかしたの?」
「ナリア?」
どこからかナリアの声がした。
像から手を離して周りを見てみるがナリアの姿はどこにも見えない。しばらく二見が周囲を見回していると頭の中に直接語り掛けるようにナリアの声が響いた。
「出来れば像に手を触れさせておいてもらってもいいかな、結構これ難しくてさ」
「あぁ、分かった」
ナリアが言うには狙った人に語り掛けるのはかなり難しいのだそうだ。
この像は一種の中継地点として機能しているようで、彼女が声を受け取る上でも重要な役割を果たしているらしい。
直接像に触れている場合声を出す必要もないようで、二見は像にもたれかかりながら心の中で彼女と会話する。
「ところでどうしたの?」
「ちょっと問題があってな、聞きたい事があって」
「何かやらかしちゃったの?」
「違う違う。そうじゃない」
二見はこの世界にボールペンがあった事をナリアへと伝える。
どうやらナリアはこの事に心当たりがなかったのか、驚いた様子だった。
「そういえば……ちょっと気になったんだけどさ、逆に聞いてもいいかな」
「うん?」
「二見がいた世界でさ、こっちの世界の事は知られてるの?」
「いや、知られていないとは思う……でも」
「でも?」
「こうして実際にあるのを知ってからだと、国の上層部とか天才科学者なら知ってるのかも……と思わなくもないかな。映画の見過ぎだって言われそうだけど」
映画では真実を政府がひた隠しにしている。という展開は珍しいものでもないだろう。
もしもこちらの世界を知らなければ、こんな事を言っている人がいれば「映画の見すぎだ」と一蹴していただろう。でももし、実際にこの世界の事を既に知っていて、何らかの手段で干渉しようとしているとしたら――。
「でもその場合ってナリアが気付くんじゃないか?」
「普通ならね、でも私達の知らない方法を使われちゃうとそうとも言い切れないからさ。あれから少し君達の世界を調べたけど、こっちの魔法とそっちの魔法は全然違うみたいだったし」
「そもそも魔法じゃないんだけどな」
「確かに魔法じゃない別の何かって言ってもいいくらいだね。流石に大きな穴が開くような事があれば気付けるだろうけど……小さな綻びくらいだと気付けないと思う」
「大きな穴って言うとどれくらいになるんだ?」
「そうだなあ……村一つか二つ分ってところかな、それより小さいと厳しいと思う」
世界を繋ぐ門、もしもそういったものが開けば世界は大きく変わる事になるだろう。
「悪いけれども……協力してもらえる?」
「最初からそのつもりさ、この世界も結構気に入ってるし」
「ありがとう。ところで……生活に不自由はしてない?」
「大丈夫だよ。仲間もいるしさ」
ナリアにこの世界での俺の暮らしを伝えると、冒険者になった事に驚いているようだった。
「何とかやれてるみたいで良かったよ……それじゃ、こっちも他の神と話してみるから。近いうちに連絡用のペンダントか指輪か、邪魔にならなさそうなものを送るね」
「あぁ、ありがとう」
「それじゃあ、またね!」
二見は像から離れ、待たせているクライド達のいる酒場へと向けて歩き始めた。
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