第19話 報告
「お前たち銀等級になったらしいな!」
「ベン、あんまり騒ぎすぎないように。それに喜ぶのは彼らの口から成功の報告が確認できてからだよ」
ギルドに戻るとクライド達のパーティーと出くわした。
どうやら二見達が銀等級へと昇級する機会を得た事を聞いたらしく、ベンは興奮気味に二見へと迫っていた。
ちなみにナリアだが、結局ここに帰ってくるまで夢に出てくるような事はなかった。
「はは、ヒルカイトはやったよ。でもちょっと気になる事が色々とな」
「気になる事? よかったら聞かせてもらってもいいかな」
「あぁ、でも先にギルドに報告だけいいか?」
「構わないよ」
二見達はリータへとギルドへ依頼達成の報告をする。
報酬の入った袋は今までよりもずっしりと重く、等級の差というものをここでも実感させられる。
「流石ですね。これでフタミ様、エリノア様、イリーナ様は銀等級として昇格となります」
「ありがとうございます。ところで……トラヴィスさんはいらっしゃいますか?」
「ギルド長ですか? もしかして……依頼の際に何かありましたか?」
「ええ、出来れば彼と直接お話ししたく」
「少々お待ちくださいませ」
リータはそう言うと奥へと向かい、しばらくすると二見達も奥へと入るように促された。
数ある部屋の中の一室へと通され、そこには大きな水晶や本の山、剣や槍に杖。まさにファンタジー要素の塊といった様子の部屋となっていた。
トラヴィスは奥の椅子に腰掛けており、二見達を一瞥すると声をかけた。
「直接私に話をするような何かでもあったのかな?」
「えぇ、とは言っても眉唾な話ではありますが」
「話してみなさい」
二見はボールペンをトラヴィスの前へと置く。
「ヒルカイトの依頼の時に見つけたペンです。トラヴィスさんはこれをご存じでしょうか?」
「ふむ……見た事のない材質だな、これは何だ?」
「ペンです。ボールペン」
「ボールのペン?」
トラヴィスはやはりこれを知らないようだ。
二見が仕組みを説明すると、トラヴィスは神妙な面持ちでそれを聞いていた。
「フタミ、君のその知識はどこで手に入れたものだ?」
「信じられないとは思いますが……ここではない別の世界です」
「別の世界……だと?」
トラヴィスは一瞬警戒したようだが、すぐに落ち着いた様子で言葉を続ける。
「私はてっきり過去から転生してきた大魔法使いかと思っていたが」
「はは、そんな偉大な人ならもっと目立って活躍していると思いますよ」
「だが君には異世界に渡る力があるんだろう?」
「いや、俺にはそんな力はありませんよ。あっちの世界で生まれて育って……変な魔物に殺された結果、ナリアの提案でこっちへ」
「何とも眉唾な話ではあるが……」
トラヴィスは額に手を当てて何やら考え込んでいる。
二見はナリアから聞いた話をトラヴィスへと伝えると、トラヴィスはため息を吐いて二見を見た。
「最近変な報告が上がっているのはナリアの管理が甘くなっていて……それで別の世界から流れてきているという可能性はあると思うかね?」
「可能性だけなら無くはないかと、しかしそうなのであれば俺に何か言うんじゃないかとは――」
緊急時には声をかけるとは言っていたが、あの時の二見の発言は「出来るだけ面倒ごとに巻き込むな」と、とられてもおかしくは無いだろう。
もしも彼女が気を遣っているとすれば声をかけてきていないという線も考えられないわけではない。
「ナリアと話す方法ってありますか?」
「どうだろうな……信者が声が聞こえると言っている事はあるが……公園の女神像に祈ってみればどうだ?」
「んなゲームみたいな……でも試してみる価値はありそうですね」
女神像で祈るという行為は、ステータスを成長させたりセーブするという印象がある。
「後ろの二人にももう君の話はしてあるのかね?」
「ええ、つい最近ですが」
「ふむ……君達の事は上に報告しても構わないか?」
「俺は構いませんが……」
「私も、でもそれで何か行動を縛られるのであれば、相応の何かは欲しいところだね」
「分かった。協力に感謝する。このペンはこちらで預かっても良いかな?」
「構いませんよ、元々そのつもりでしたし」
トラヴィスはペンを引き出しへとしまった。
「フタミからの報告は以上かね?」
「ええ、これだけです」
「しばらくは自由にしていてもらって構わない。だが、そう遠くない内に情報を集めて一度フタミに見てもらいたい。その時は招集に応じていただきたい」
「了解しました。それでは」
二見達はトラヴィスの部屋を後にし、三日間の休養期間を設ける事となった。
二見は荷物を部屋に置いた後、ナリアの像の元へと向かった。
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