第17話 ヒルカイト討伐

 二見達はヒルカイトの皮や鱗を剥ぎ取る作業へと入っていた。

 大きな獲物は戦闘時間よりも、その素材の回収の方が時間を取られる事が多い。


「私、今回ただの剥ぎ取り要員になってる気がするんだけど……」

「まあ相性悪かったし仕方ないって」

「そうは言ってもさあ……ていうか、イリーナは派手にバンバン鳴らしてたけど、どれがイリーナのつけた傷?」


 ヒルカイトについた傷で目立つのは二見が放った槍による爆破痕だろう。他には顔の鱗が数枚剥がれていたが、これも二見の魔弾によるものだろう。


「撃った本人に聞くのが一番だろうさ、イリーナ」

「今回は貫通力が足りず、私は殆ど傷をつけられていませんが。こことここ、そしてここと――」

「これ、ほんとにゴブリンとか吹っ飛ばしてたのと同じ武器なの?」


 小さな穴が開いていたり、時には鱗が1枚だけへこんでいるだけと、イリーナのつけた傷は非常に地味なものばかりだった。


「武器自体は同じものですが……弾薬は少々違いますね。弾丸は出来る限り上質なものを用意したつもりではありましたが……唯一手ごたえがあったのはここですね」

「これも地味じゃん!」

「中を見てみれば分かりますよ、エリノア様」


 イリーナはヒルカイトの胸の部分を解体し始め、ヒルカイトの中を見せた。


「やっぱ銃ってすごいな……」


 心臓まで真っ直ぐ小さな穴が開いており、心臓は中から破裂したかのようになっていた。

 他の弾痕も確かめてみたが、どれもある程度進んだところで内側から爆ぜたようになっており、外傷からは想像できないようなダメージを与えていたようだ。


「バスターピアス弾と言うそうで、前のマスターは自慢げに語っていましたよ」

「聞いたことないな……ホローポイントなら知ってるけど」

「ホローポイントは常用している弾ですね」


 バスターピアス弾は対象に命中してから少しの間貫通し続け、その後内部から爆発するといった弾のようだ。

 イリーナの貫通力を強化する技と組み合わせる事で、理論上はどれだけ固い相手でも狙った位置で爆発させる事が出来るという優れた弾丸だ。

 しかし、この弾丸の欠点として貫通力が過剰であればただ貫通するだけに終わり、貫通力が弱すぎれば表面で爆発してしまうという欠点を抱えている。


「何発か撃ち込んでデータを収集してみましたが、素早く動き回る対象へ正確に射撃するのは難しいものです」

「つっても、やって見せたんだから大したもんだよ」

「なんていうか……改めて説明されるとえげつない武器だよね」


 雑談をしながら剥ぎ取りの作業を終わらせる。

 サイズが大きかった事もあり、もう辺りは暗くなり始めていた。


「マスター、この機会に弾丸の作成と魔力補給の時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「あぁ、構わないよ。後でちゃんと川で綺麗にしてくれよ?」

「ありがとうございます」

「……俺達も食ってみるか、これ」

「一応可食ではあるらしいけれど……」


 テントを張って野宿の準備をする。

 イリーナに断ってからヒルカイトの肉を少し削いでみると、意外とすんなりとナイフで切る事が出来た。

 イリーナも誘ったが「生の方が魔力の吸収効率がいいので」と断られてしまった。


「お腹壊さないのかなあ……」

「石よりはマシなんじゃないか?」


 イリーナの食事は可食かどうかを問わない。二見はあくまで人の口の形をした補給口でしかない、と思えば最近は意外と慣れてきた。


「そろそろ焼けたよ、塩くらいしかないけど」

「ありがとう……結構いけるな! これ」

「本当だ! ……ただ、お店で食べるお肉の方がいいね」


 意外と味は悪くなく、感覚としては鶏肉が近いものだった。

 ただ、食用の為にいちいち狩りに来るかと言われればそれほどのものではない。


「マスター、提案なのですが」


 夜も更けてきた頃、キーボードを弾いているとイリーナが話しかけてきた。

 彼女にはやはりと言うべきか、暗闇の中でも暗視機能がついているようで服も口周りも綺麗なものだった。


「珍しいな、どうした?」

「明日、この辺りを探索してみませんか? ヒルカイトがどうして飛んでいなかったのか、それが気になりますので」

「ただの特異個体だったとかじゃないの? そういうのもいるんでしょ?」

「調べておいて損はないんじゃないかな、それで何もなかったらそういう個体だったで済むだろうし」


 もしもこの辺りにいないはずのヒルカイトと同等クラスの魔物がいたとなれば、報告するべき事案だ。


「昼までに何もなければそのまま帰る。何かあったらその時考える。これでいいんじゃないか?」

「ま、焦る必要もないしね。私はそれでいいよ」

「よし、それじゃあイリーナ。見張りは頼んだ」

「お任せください。マスター」


 銃を手に周囲を見回すイリーナを見ると、ここがどこなのか分からなくなりそうだ。

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