第16話 ヒルカイト討伐

 目的地へと向けて出発してから2日。音楽や二見の世界の話とどうにか退屈しのぎをしてきた二見達だったが、ついに話題もなくなり、ただ黙々と歩いていた。

 周囲には岩が見え始め、気が付けばレッドキャニオンへと到着していた。


「ここまで長かったなあ……高いけどボード買っちゃおうかな、フタミはどう思う?」

「ボード?」

「スピードボードだよ。移動用の乗り物」


 スケートボードのようなものらしく、魔力によって少し浮かび上がり、高速での移動を実現させた乗り物なのだそうだ。

 ただ、ドワーフ達が最近作ったもので、最近製品化したもののまだ改善の余地があると言われている。


 かなり値が張るようではあるが、幸いナリアから貰った金を使えばどうにかなりそうだ。


「移動に毎回こんなに時間をかけてられないしな、買おうか」

「じゃ、一層頑張って貯金しないとだね」

「いや、3人分まとめて俺が払うよ。世話になったお礼もあるし」

「悪いよ。流石に高すぎるって」

「それじゃあ立て替えって事で」

「それならオッケー。イリーナは?」

「マスターにお任せします」

「むぅ」


 イリーナはあまり会話には混ざらず、こちらから振らない限りは原則として口を開かない。

 ヒューマノイドとして見れば特におかしい事ではないのだが、エリノアはどうにも彼女を気にしているようだ。魔物でも人間でもない。というロボットの存在はこの世界ではややこしいものなのだろう。


「イリーナはもう少しこう、何て言うんだろ、自主性とかさあ」

「自主性、ですか」

「難しい問題だよなあ……ん?」


 エリノアがイリーナにあれやこれやと話しながら歩いていると、崖の上に何かが見えたような気がした。


「お二人とも避けてください!」


 イリーナが叫び、全員がその場から飛び退く。


「やっぱいるよな!」


 巨大な何かが先ほどまで立っていた場所を掠め、地面には鋭い3本の傷跡が残されていた。

 空へと向かって上昇する巨大なワイバーン、ヒルカイトの姿が見えた。


「射角調整よし、発砲します」


 イリーナの銃から勢いよく弾丸が放たれる。

 しかし、ヒルカイトはそのまま上昇し、岩陰に姿を隠してしまった。


「命中。ですがあまりダメージは与えられていません」

「出来るだけ広い所へ行こう。エリノアは観測をお願い」

「分かってる。飛び道具組はしっかり頑張ってよね!」


 峡谷の隙間を走り抜ける。

 途中何度か岩を落とされはしたが、その程度の攻撃をくらっていては銀ランク冒険者になる資格等ない。騒ぎを聞きつけて寄ってきた魔物もいたが、イリーナの弾丸が彼らを無慈悲にも貫き、止まる事なくすり鉢状に開けた場所へとたどり着く事が出来た。


「どこがカイトなんだか……奇襲ばっかしやがって」

「多分私達より早く気付いてたんだろうね、かなり視力がいいって話だし」

「それを加味しても私個人としては納得しかねます」

「へえ、というと?」

「私は戦闘の際に精密な射撃を要求され、その為に高い認識力を与えられています。正直ヘルカイト程度に劣るとは思えないので」


 3人で背中を合わせ、周囲を警戒する。

 ヒルカイトが死角を走り回る音がするが、こちらの視界には一切入ってこない。その音も峡谷に反響して正確な方向を絞る事が出来ない。


「大した自信だなあ……来るよ!」

「はぁっ!」


 エリノアが崖から飛び出して来たヒルカイトへと切っ先を向け、それを頼りに二見が素早く狙いをつける。

 二見の魔弾は顔面に命中し、続いて放たれたイリーナの弾丸はヒルカイトの左目へと命中した。


 魔弾は外傷をを与えていないように見えたが、イリーナの弾丸は効いたのかヒルカイトは空中でバランスを崩して地面へと激突した。

 これを好機と見たエリノアが大きくジャンプし、剣を突き立てるようにヒルカイトへと迫った。


「エリノア! やばい!」

「んなっ――!」


 ヒルカイトが振るった翼がエリノアを正確に捉え、勢いよく吹っ飛ばした。


「ッ……!」


 壁に激突したエリノアの全身に衝撃が走る。彼女は息を吸う事も吐く事も一瞬出来なくなるが、すぐに魔力を全身に流して無理やり呼吸を再開させる。

 続けて彼女はポケットからポーションを取り出し、無理やり流し込んだ。


「マスター、出来るだけヒルカイトを消耗させるか、動きを制限していただく事は可能でしょうか」

「ハードな事を……うおっ!?」


 ヒルカイトは二見達の方へと突進し、そのまま岩壁を駆け上っていく。

 イリーナが追撃に何発も撃ち込むが、大して効いているような様子はない。


「飛ばせるかっつの!」


 二見はヒルカイトではなく、岩壁の上方へと向かって魔弾を撃つ。

 何発もの魔弾を撃ち込まれた岩壁はついに崩れ始め、岩なだれがヒルカイトへと襲い掛かった。


 ヒルカイトはそれを見ると同時に岩壁から離れ、二見達へと急降下攻撃をしようとした。


「貫け!」


 ヒルカイトが岩壁から離れるよりも前に、二見は魔力を凝縮した槍を握り締めていた。

 岩なだれが起きると同時に二見はその槍をヒルカイトへと向けて投擲し、ヒルカイトが飛びかかろうとした軌道はまさにその槍と同じ軌道だった。


 二見の投げた槍は浅くではあるがヒルカイトの胸へと突き刺さったが、ヒルカイトは構わずといった様子で突進を続ける。


「イリーナ! 一気に決めるぞ!」

「お任せください、マスター」


 二見は魔弾を弾幕にしてヒルカイトへと放つ。

 その魔弾はヒルカイトへと何発か命中するが、連射しているせいか全く効いている様子は無かった。

 その中の一発がヒルカイトの胸へと突き刺さった槍へと命中する。


 峡谷に爆音が響き渡った。

 その爆発はヒルカイトの鱗を吹き飛ばし、ヒルカイトの筋肉を露出させた。


「チェックメイトです」


 間髪入れずにイリーナによって放たれた弾丸が、ヒルカイトの胸へと命中する。

 多くの魔力を込められて作られた弾丸は、銃身の魔法陣によって貫通力を高められ、ヒルカイトの心臓を貫いた。


 ヒルカイトはそのまま地面へと激突し、横たわったまま動かなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る