第15話 告白
三日後、二見達は酒場に集まっていた。
「よし、それじゃあ全員準備できたね」
「行こうか」
二見達はレッドキャニオンへと向けて進み始めた。
道中、別行動をしていたイリーナへと情報を共有し、雑談をしながら歩みを進める。
「それにしても暇だなあ……フタミ、何かない?」
「そうだな……何か弾くか? 知ってそうなのはあんまし弾けないけど」
「フタミが好きなヤツでいいよ、私はそんなに音楽知らないしさ」
「ならメドレーで弾いてみるか」
二見の前にキーボードが現れ、鍵盤が音を奏で始める。
歩きながらという事もあってかなり簡易的にアレンジしているものではあるが、それでもエリノアは興味深そうに聴きながら歩いている。
「ロシア……か」
ふとイリーナと目が合い、ロシア歌謡カチューシャが思い浮かぶ。
少々無理のある繋ぎではあったが、カチューシャが演奏されてしばらくするとイリーナがこちらをじっと見ている事に気が付いた。
「イリーナ、知ってるか?」
「詳しくは存じ上げませんが……前のマスターがよく口ずさんでいた曲ですね」
「やっぱり……か」
この曲は日本でも音楽の授業で習う事がある有名なロシアの歌謡だ。
「何だか全然違う感じがする曲だね、これ」
「まあジャンルが全然違うからな、カチューシャって曲だ」
カチューシャという娘が川辺で戦争へと向かった恋人を想いを歌っている。というテーマの歌だ。
この歌が広まった一つの理由に独ソ戦があげられる。恋人と離れ離れになり祖国の為に戦う。そんな彼女の境遇と重ねた兵士達が歌ったのだとか。
「人と人が戦う……かぁ」
この世界に戦争の歴史は無いわけではないが、それは非常に少ない。
強力な魔物の出現や魔物の大発生といった事件が度々起きているようで、人同士で戦争するほどの余裕がないように思える。
「2人には話しておこうと思う。俺の素性をさ」
特にナリアからは口止めをされていないし、話しても問題はないだろう。
俺が知る俺の世界の歴史、科学の話、そして学校生活。語れば語るほどに二見の心情は複雑なものへとなっていった。
「まあ……早い話がフタミは違う世界から来た人って事なんだよね」
「あぁ、そしてイリーナの前のマスターもそうなんだと思う」
「それにしても何だかなあ……魔法のない世界で、その世界に変な魔物が出てきて殺されちゃった……うーん」
やはりエリノアは素直には呑み込めなかったようだ。
「でも実際、あの試験でのフタミとかを見てると納得行くしなあ。それでフタミはどうしたいの?」
「どうしたい……か、最初はこいつでスローライフって感じに行けたらいいなとは思ったんだけど」
「そこまで単純でもなかった。と」
二見がもっとピアノに没頭すればプロのピアニストとして名を馳せる事も出来るだろう。
しかし、今の二見はピアノはあくまで趣味と捉えており、冒険者としての生き方にやりがいを感じていた。
「俺は半端だな……思い返すと」
「いいと思うけどね。こうして銀等級になる資格も貰えてるわけだしさ、自由気ままに生きるっていうのも立派な生き方だと思うよ」
エリノアは二見の言葉を信じていないわけではなかった。
最初は何かの冗談かと思ったのは確かだが、二見の話し方や表情、それらを見るにからかっているようには思えなかった。
信じがたい事ではあるが、女神や異世界の話も本当なのだろう。
「あんまり他の人にはしない方がいいと思うよ。分かってて話してくれたとは思うけどね」
「勿論さ。ただエリノア達とは長い付き合いになりそうだって思ったからさ」
元の世界の話をしていると、気が付けば中継地点の村に辿り着いていた。
まだ歩けそうではあるが、これ以上進めば野宿になってしまう。二見達は村の空き家を貸してもらい、そこで夜を明かす事になった。
「ま、移動は退屈せずに済みそうだし……色々聞いてもいいかな?」
「あぁ、たまには思い出さないと忘れちまいそうだしな」
その夜、久しぶりに思い出す山口達の事を二見は想った。
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