第13話 始動

 イリーナが仲間になってから数か月の月日が過ぎた。


 二見も大分この世界に慣れ、良い事なのかは分からないが戦いという名の命のやり取りにも抵抗が無くなっていた。

 ゴブリンやコボルトといったファンタジーでお馴染みの魔物を狩り続けていた二見達だったが、いつものように依頼を受けようとした所でリータが声をかけてきた。


「丁度いいところに、今から依頼ですか?」

「はい。何かありましたか?」

「ええ、フタミさん達は依頼をこなすペースも早く、失敗を全然されていませんので昇級の話が出ているんですよ。詳しく聞いてみますか?」

「へえ! 聞こうよフタミ」


 エリノアは目を輝かせている。

 二見としても断る理由はない。近くのテーブルへとつき、リータが出す資料へと目を通す。


「まず銀等級に上がりますとギルドが管轄する宿で割引のサービスを受ける事が出来ます。ギルドと提携した鍛冶屋や雑貨屋でも割引があります」

「それは食事も含まれるのですか?」

「勿論、イリーナさんが大好きなステーキも割引されますよ!」

「ほう」


 心なしかイリーナの目が本気のように見えるが気のせいだろう。


「大きな利点はそれくらいって所ですかね」

「そうですね、金や白金ともなればもっと大きな恩恵がありますが……そこまで上がれるかは皆様次第でございます」

「ま、稼ぐだけならぶっちゃけ銅等級でも全然問題ないしね。多めに稼ぎたいって人が銀等級になるくらいなんでしょ?」


 冒険者の人数は圧倒的に銅等級の者が多く、全体の7割近くを占めていると言われている。

 銀等級は2割ほどで、金は1割、白金は数えるほどしかいないそうだ。

 楽をして稼ぎたい。という層は銀等級に多く、一回の依頼で多くの収入を得ることが出来る為この等級を好むらしい。


「フタミさんがご存じの方であれば、ドルフさんも銀等級ですね」

「へぇ……」

「さて、話を戻しますが――」


 1枚の依頼書をリータが取り出す。


 内容はここから東に進んだ所にある、レッドキャニオンという峡谷に住むヒルカイトの討伐依頼だった。

 ヒルカイトというのは谷に生息するワイバーンで、その大きさは体長8メートルほどだ。

 火を吐く事はないが、空から岩を落としたり、持ち上げて高所から落下させたりとシンプルだが厄介な攻撃をする。タチの悪い巨大なカラスとでも思っておくのが良さそうな相手だ。

 自分で羽ばたいて飛ぶことも出来るが、基本的には岩肌を登って滑空する形をとる。


 その皮膜は非常に肌触りが良く、高級衣服や防具の下地に使われる事が多い。飛ぶという性質からやはり鱗も非常に軽く、防具としての利用価値がある。

 今回は衣服店からの依頼で、皮膜を採ってきて欲しいというもののようだ。


「この依頼を受けて達成していただければ、ギルドはフタミさん達全員を銀等級の冒険者として認定いたします」

「これまでの小物とは大違い……なんだろうけど、どうする?」

「私は受けるよ。でもその前に……早めに聞いておいた方がいいかな」


 改まった様子でエリノアが二見を見つめる。


「私はいけるところまでいきたい。銀等級の先、金……そして白金まで。でも、あんたがもしそうじゃないのなら、この試験の後解散したいと思うの」


 少し寂しそうな表情を見せたが、彼女の決意は確かなものなのだろう。

 二見は少し考えた後、エリノアを見つめ返す。


「付き合うよ。この世界での生き方を教えてくれたのはエリノアだしな」

「まるで別世界から来たみたいな言いぐさだなあ……でも、ありがとう」


 二見は一瞬しまったと思ったが、どうやらエリノアは言葉のアヤだと思ったようだ。


「では、受けていただけますね?」

「よろこんで」


 目的地の谷まではかなり距離があるようで、往復するだけでも1週間近くはかかりそうだ。


 イリーナの家にあったバイクが使えれば相当短縮できたのだろうが……この世界の知識を身に着けた二見でも、やはりあの設計図に書かれた事はよく分からなかった。


「っと、そうだ。忘れるところでした」

「まだ何か?」

「これは依頼というわけではないのですが……道中、気になった事があれば報告してください。どうにもあちらの地方で見たことの無い魔物が出るとか、不審物の発見といった事例が増えているようで」

「事前に調べておいた方が良さそうだね、知らない地域だし。もしそっちじゃ当たり前ってのを報告しちゃ悪いしね」


 幸い依頼は1ヶ月ほど期間を設けられているようで、じっくり調べてからでも問題は無さそうだ。


「それでは、ご武運をお祈りしております」

「ありがとう。リータさん」


 二見達は図書館へと足を運ぶことにした。

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