第11話 意外なもの

「ったく鬱陶しいなあ!」


 剣で草を切りつつ前を進むエリノアがそう声を荒げる。

 この辺りはあまり魔物も歩いていないのか、草木が生い茂っている。


「魔法で焼き払ってやりたいけど――」

「流石にやめとけ、一大事になるだろうし」

「はあ……」


 エリノアが得意としている魔法、それは火の魔法だ。

 さらに二見とは違い、無属性魔法や簡単な他の属性の魔法も使えるようだ。

 もっとも、この世界では二見のように属性魔法を使えない人間の方が珍しく、何ならエリノアの知る範囲では属性魔法が使えないのは二見くらいのものなのだが。


「ようやく見えた!」


 藪をかき分けて進み続けたエリノアの明るい声が響く。


 広さは少し広めの普通の住宅ほどで、それを囲う形で円状に不自然に芝が生えている。しかもその芝は非常に背が低く、手入れされているような印象を受ける。

 その中心には石造りの2階建ての建物があり、その隣には馬屋と思われる木造の建物がある。

 どちらの建物も長く空き家になっているというには非常に綺麗で、そこが逆に不気味さを感じさせる。


「一休み……といきたいけれど、普通じゃないよね、これ」

「あぁ……とりあえず見て回ろうか」


 まずは周囲から石造りの建物と馬屋の様子を伺う。

 馬屋には何かが置いてあるように見え、建物の方は窓から見える限りでは何かがいるようには見られなかった。


「いやに綺麗というか……ってコレどこかで……まさか!?」


 馬屋に近づき、中の物を見た二見が驚きの声を上げた。


「これって……何?」


 エリノアも覗き込むが、そこにあったのは金属の塊だ。

 すぐそばに車輪が置かれてはいるものの、それを取り付けるであろう場所は、馬車や荷車のように横に並んでついているわけではなく、縦に取り付けるように見えた。

 二見のリアクションを見る限りマイナーな芸術作品なのだろうか。


 一方、二見はこの乗り物に見覚えがあった。

 前方に取り付けられたハンドルに、夜道を照らすためのライト。足りないパーツが多いがこれは明らかにバイクだ。


 自分以外の転生者の存在。そして科学に精通している可能性。この2つの期待が二見の中で大きく膨らむ。

 二見は考えるよりも先に駆け出していた。


「ちょっとフタミ!?」


 エリノアが二見を掴もうとしたが、僅かに届かない。


「誰かいませんか!」

「ちょっとフタミ、もう少し冷静に行動して」


 入り口から大声で中へと呼びかける二見をエリノアが肩を掴み、壁へと叩きつけた。


「これだけ綺麗なんだ! 誰か住んでるだろ!」

「いいから静かにして。ここに住んでるヤツは普通じゃない。無警戒で接触すべきじゃないよ」


 エリノアもこの家に住んでいるであろうものが敵対的だと決めつけたいわけではない。

 しかし、この家には井戸もなければ畑もない。狩りをしているのかもしれないと思ったが、草が踏まれたような形跡も見当たらない。

 生活する為に必要になるはずの痕跡が一切見当たらないのだ。


 もしも自分たちの手に負えない存在がいるのだとすれば、非常に厄介な事になる。


 エリノアは静かに二見へと語りかけるが、その目から感じた彼女の本気の殺気に思わず二見は押し黙る。

 考えてもみれば、自分と同じ世界の出だとしても味方であるという確証はどこにもない。バイクを作れるような人間なら銃を持っている可能性もある。もしも友好的でなければどこからか撃たれる可能性だってあるのだ。


「悪かっ――」

「しっ」


 エリノアが二見の口を塞ぎ、腰の剣を抜く。

 耳を澄ませてみると二見の耳にコツコツと誰かが2階からこちらへと向かってくる足音がしている事に気が付いた。


「構えて、もしヤバそうなら全力で逃げる。いい?」

「分かった」


 二見は壁に身を隠し、その逆側でエリノアが待機する。


 階段は見えるが、光があまり入っていないせいでハッキリとその姿が見えるようになるのはそれが階段を降りきってからだろう。

 さらに覗き込まなければならない。というのが二見の恐怖心を煽る。


 足音は落ち着いており、1階へ降りたであろうその時。女性の声が二人の耳に入る。


「お客様でしょうか。どうぞお入りください」


 二見とエリノアは顔を見合わせ、エリノアは武器を納める。


 警戒をしながら玄関から顔を覗かせた二人の目に映ったのは、淡い青色のセミロングの髪に青いメイド服を着た女性の姿だった。

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