第10話 初仕事へ

 午前8時頃。二見とエリノアは掲示板のすぐ近くの席で朝食をとっていた。


「あんまりめぼしい依頼は無さそうだけれど……」

「まぁ銅の星一つなんてこんなもんだと思うよ? まだ駆け出しなわけだしさ」


 薬草集め、パトロール、周囲の村へのお使い。魔物討伐がメインの依頼は今のところ目につかない。

 恐らくそういった依頼は先日の試験で合格した者がすぐに受けてしまったのだろう。今ある依頼も危険が無いわけではないが、少なくとも今この二人が探している依頼は出来るだけ接敵率が高いものだ。


「無いものは仕方ないから……そうだね」


 エリノアが顎に手を当てて掲示板を見つめる。


「この空き家調査にでもしよっか、案外はぐれた魔物が住みついてる事が多いし」


 エリノアが手に取った依頼はパトロール系の依頼だ。

 この街から東にある森の中で別荘として使われていた建物らしいのだが、その家主が死亡してから30年ほど空き家として放置されているようだ。


 街の近くと言う事もあって森の魔物はそこまで多くはないものの、やはり街道での魔物の被害であったり、近隣の村の家畜が襲われたりするという被害は絶えない。

 この家は森のやや深いところにあるようで、魔物の巣になっていてもおかしくはないだろう。というのがエリノアの予想だ。


「いいけど……安いな、報酬」

「まあ薬草集めとかと違って利益にならないからね、だからみんな避けてずっと貼られてたりするってわけ」

「なるほどな」


 賢く稼ぐならあまりいい仕事とは呼べないものなのだろう。


「ま、その分昇格の判断材料としていい方向に見てもらえる……って噂もあるから、そういう意味では案外いい依頼なのかもしれないけどね」

「一応報われる……かもしれないってくらいか」

「まあね、数こなせば稼げる依頼ばっかりでも昇格はできるはずだしね。とは言っても、今の私達に必要なのはお金よりも経験って事を忘れないようにね」


 二見はまだエリノアからすれば力があるだけのヒヨっ子だ。

 出来れば稼げる仕事で稼ぎながらお互いに強くなれたらと思ってはいるが、出来れば二見を自分と同じラインにまで引っ張り上げたい。というのが彼女の思う所だ。


「じゃ、この仕事で決定だな」

「この距離なら特別な持ち物は必要なさそうだね、強いて言えば水と食料をってところかな」

「懐中……じゃなくてランタンも忘れないようにした方が良さそうだ」


 準備はすぐに終わり、昼前には出発の準備が整った。


「インベントリだのストレージだの便利な収納魔法があればな……」


 二見はファンタジーものの物語を思い返す。

 

 この世界にも収納魔法のかけられた鞄が無いわけではないのだが、非常に高価で金ランクになって初めて使うようになるようなものだ。

 身に着けようにも空間系魔法の素質が前提な上に、その力をかなり成長させなければ実現できない魔法だ。二見やエリノアではそもそもどれだけ訓練士しても習得できないのが現実だ。


「いい? いざって時はそのバッグを置いて戦う事」

「分かってるさ」

「それじゃ、行こっか」


 エリノアを先頭に遺跡へと歩み始めた。

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